恋愛ゲームの人気最下位ヒロインだったので別のゲームで生きていきます!

氷泉白夢

プロローグ

RPG世界「冒険の国ルクセリア」の一幕

「さーて、ここね」


 そう言って真子はその扉に手を当てた。

 ごつごつとした洞窟にあとから鉄板をはめ込み作られたと思わしきその鉄の扉の奥から騒がしい声が聞こえてくる。


「くくく、これから蹂躙されるとも知らずにのう」

「コルリ、それじゃこっちが悪者みたいじゃないの」


 真子はコルリをぺちりと叩く。

 コルリは大袈裟に痛がるふりをしてその場に蹲った。

 真子はそれを無視して仲間たちを見渡す。


「準備はいいわね、みんな」

「は、はい!だ、大丈夫です!問題ありません、なにも、なにも、はい!」

「……いや、全然大丈夫そうに見えないんだけど」


 真子はその少女の金色の前髪に隠れたおでこをぺちりと叩いた。

 少女はか細くあううと声を出しながらはにかむ。


「ご、ごめんなさい……だ、大丈夫です!わたしだって戦う覚悟はできてますから!」

「そんなに気負わなくて大丈夫よマリエラ、リラックスしていきましょ!ね!」

「は、はい!」


 マリエラはそういうとぐっと拳を握り気合をいれる。

 それを見て真子はにこりと笑ってマリエラの拳と自分の拳をこつんとあわせる。

 一瞬驚いた様子のマリエラだったが、自分の中の緊張がすっかり解けていることを感じて、改めて真子に微笑みかけた。


「はい!はい!ヴィス子も準備完了でありますです!!盗賊皆殺しますです!!」

「皆殺さない!」


 そう言って真子はヴィス子と自称する幼女にも見える紫色の髪の少女の頭をべちんと叩く。

 ヴィス子はまるで意にも介さず、きょとんと真子の方を向く。


「皆殺さないですか」

「だからそれじゃあたし達が悪者みたいでしょうが!あたし達は盗賊の退治を依頼されたけど、全員生きて捕まえて、あとはギルドに任せるの!」

「そのためにヴィス子、頑張ってアジト突き止めたです!盗賊たちが大勢いる時間も調べたです!!」

「うんうんそれに関しては偉かったわね、よしよし」

「えへへへへー」


 真子はヴィス子の頭を乱暴になでると、ヴィス子は満面の笑みを浮かべ、腕と足をちたぱた動かし嬉しさを全身で表現する。

 その様子に真子は少し呆れながらも優しく微笑んだ。


「ワタクシの力があれば盗賊など恐るるに足らず!超余裕ですわよ!!」

「うん、期待してるわね、きゆ」

「……」


 きゆと呼ばれたその長い銀髪をふわりと靡かせる。

 それと同時に何か言いたげに真子の方をじっと見る。


「……なに」

「ワタクシのことは叩かないんですの?」

「は?」


 その発言に真子は怪訝な顔をする。

 きゆにそういう趣味があるわけではないはずだが、いやまさかあったのか。


「いや別に理由もないし……」

「なんか仲間外れみたいで寂しいんですけど!!」

「ええ……」


 めんどくさいと思いながらも真子は軽くきゆにデコピンをする。

 ぬえっと奇声をあげたきゆはおでこを抑えながら真子に食って掛かる。


いっっったいですわね!!ここまでしなくてもいいでしょうに!!」

「どうすりゃいいんじゃいっ!!」


 今度は真子のチョップがきゆの脳天に直撃した。

 本気で痛かったらしくきゆは声にならない叫びをあげる。

 真子はふーっとため息をついてきゆに向き直る。


「別に仲間外れになんかしてないから。頼りにしてるわよ、きゆ」

「うごごごご……!ま、まあ、当然ですわね!!なんたってワタクシですから!!おほほほほほ!!」


 きゆはなんとか立ち上がって涙目になりながらも高笑いをする。

 相変わらず面倒くさいが、実際頼りになるのだ。

 真子はそう思いもう一発チョップをいれたい気持ちをなんとかこらえた。


「で、実際のとここれからどうすんのじゃ」

「ここは一発ワタクシお手製の新兵器で……」

「ヴィス子がカチコミするです!」

「え、えっと、えっと……」

「あのね、なんのためにこっそりここまで来たと思って……」


 真子たちが言いあっていると、不意に鉄の扉が音を立てる。


「え」


 そのまま扉はぎいと音を立てて外側に開き、大柄の男が不機嫌そうにその姿を現した。


「さっきから何騒いでやがるんだてめえらは?何者だァ!!」

「やっべ」


 コルリは思わずそう口に出した。

 男はじろりと真子たちを見渡す。


「はぁん……一人はガキだが残りは悪くねえじゃねえか……獣耳も混ざってやがるが、まあそういう趣味のやつもいるだろ……」

「獣耳とは失礼な!わらわは神ぞ!!」

「はあ?何寝ぼけたこと言って……」


 次の瞬間、男の顔面に深々と真子のブーツが突き刺さった。

 身長が足りない分、少しだけ跳躍しそのまま顔面を蹴り飛ばしたのだ。

 男はそのまま扉の奥へと吹き飛ばされて倒れこむ。

 着地した真子は少しイライラした様子で鉄の扉を蹴り開けた。


「……」

「カチコミですか!」

「……カチコミよ!!」


 ヴィス子の言葉に吹っ切れたように真子は叫び、そして扉の奥へと入っていく。


「ああ、神よ……」

「わらわじゃからな!神!」

「まったく真子さんはしょうがないですわねぇー」


 そうして真子とヴィス子を追いかけるようにしてマリエラ、コルリ、きゆも続いていく。


 ロールプレイングゲーム「冒険の国ルクセリア」

 王都ルクセリアを中心に様々なクエストやダンジョンを攻略し、事件の影に潜み世界を支配せんとする魔王を倒す旅をする王道RPG。

 その世界にいるこの五人の少女は、このゲームのキャラクターではない。

 全員からやってきた来訪者なのだ。


 彼女たちは如何にして出会い、ここまでやってきたのか。

 その物語は、真子が失恋したことから始まったのだった。

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