絶対に落としたい。

@Wisyujinkousaikyou

第1話 詰んだらなんか始まった。

人間という生き物にとって、恋愛とは子孫を残すための行為の他、それ諸々を楽しむ傾向にある。

ただ、その恋愛というものを楽しむためには色々と必要になってくるのである。


ここは市立艦致偉(かんちい)高等学校。

この春、僕【太月 優樹】(たつき ゆうき)は新高校1年生としてこの学校に入学した。

それから約1ヶ月間は特に音沙汰なく生活。


こんな僕が何かに目覚めたのは今も忘れない。5月の半ばの学校行事、仲良くなろうの会だ。

この行事では男女三人づつのグループを作り、遠足に行くという本当に簡単な行事だ。

僕は、人より一歩とび出たというか、変わった事をするのがとても好きだった。

したし、過去の自分は自分の行動が変わっていることに気づいておらず、自分の意見は正しく、わざわざ曲げる必要は無い。

という考えの持ち主だった。

それ故にいつも1人だけ浮いていた。

出る杭は打たれる。

その言葉の通り、僕は小学3年生の頃から中学三年生までいじめを受け続けた。

そんな辛い小、中学校生活で得たスキルは大きい。

まず、色々と使いようがあるのにこの物語において最大の邪魔になるスキル。

『ポーカーフェイス』

自分の感情がどう動いても意識しない限り決して顔には出ない。

次に

『サイレント』

自分の気配を消したり出来る。

「てめぇ次に俺の視界に入ったら殺すからな?」

って言われた時に有効。

『無気力』

何をしてもヤジを飛ばされるから生まれた。

基本的に何もしたくないし、しようとも思わない。

『被害妄想』

自分にされた事をいかに酷くつじつまが合うように作り話できるか。

このスキルを極めた僕は相手に「あ、あれ?俺そこまでやったっけ? 確かじゃないけどやったような........」

と思い込ませることも出来るようになった。

『聞き耳』

噂話などがよく聞こえるようになった。

これら特殊スキルの他にも通常効果として、『幸福虚無』何をやってもつまらないと感じる。が付与されている。

そんなこんなでほとんど人と会話したことがなかった僕は男子の友達を作るのでやっとだった。

班のメンバーは、ようやく出来た男友達2人と組むことになった。

男三人固まっているとそくささと女子3人組が近寄ってくる。

「あ、あの良かったら一緒に……」

「いいですよ!」

僕等三人の中で比較的女子とも会話のできる奴があっさり承諾。

この女子たちはクラスの一軍に所属していたわけではないが、二軍のトップにいるような女子で、今までの僕だったら十分警戒の範囲内に入るような人物たちだ。

高校に入ってから僕は変わると決心していた。

艦致偉高校は比較的自由な校風に特徴のある学校。

髪染めやアクセサリーなどの着用も可能で、それを目当てに受験してくる人も数多い。僕もその一人だった。

高校入学後、僕はすぐにホワイトブラウン(ミルクティー色)に染めようと美容院に行った。

しかしまぁなんだかんだ合って色が入らず金髪になってしまった。

これによりほとんど話したことのなかった女子全員から『ヤバい奴扱い』をされるようになった。

こうして僕は高校開始1か月、詰んだ。

そんな中のこの行事。

誰にも誘われないかと思った。

もう誘われただけでも嬉しかった。

しかし、もうみなさんご存知、僕は恋愛感情は疎か、楽しみという希望の気持ちも消失していた。

「ねぇねぇ、太月君はなにか行きたい場所あるかな?」

僕に話しかけてきた一人の女子名前は確か……【向井 真紀】。

まだ話した事がなかったので彼女の素性などまだ一切知らない。

肩まであるさらさらとした黒髪。身長は155cm位だろうか。くりくりとした眼を向けてくる彼女は僕の何か、今まで忘れていたものを取り戻してくれたような気がした。

「え……? あぁ……、特にないかな……」

ここで発動したのは忌まわしきスキル、『ポーカーフェイス』、『サイレント』、『無気力』だ。

僕は机に肘付き窓の外を見る。

どぁぁぁぁ!何やってんだ僕ぅ!何か分からないけどめちゃめちゃバカなことした気がするぞ!!

もう僕の脳内は大戦争。

そんな時に発動したのは『聞き耳」

「マキ、よくあの人にしゃべりかけられたね……」

ひそひそと話していたのは【大石 留美】。向井さんとは入学直後に仲が良くなったらしい。大石さんはクラスの男子間でも少し噂になるほどの美少女であった。

……、聞こえてるからな! まぁ別に僕をどう思うかは勝手だけど、わざわざ媚を売ったりしていちいち嫌いになられた人を買収にはいかないからな!

脳内戦争の矛先は彼女に向けられたのだ。

そんなことより向井さん……、大石に毒されたんじゃ……。

休日も一緒に遊ぶことがあるという二人。さらにこの二人の周りにはうじゃうじゃと女子がたかっている。

この状況の中で強一人が『太月はヤバい奴』っていうレッテルを張ったということはその拡散力は尋常ではないということだ。

僕の胸がきゅっと閉まるような感覚に襲われる。

そしてここの女子最後の一人【浦和 真由佳】。彼女も二人とは仲がいいらしい。しかし、見た目は……うーん……。

とは言ってるものの、とても頭が良く、よくあるラノベやエロゲーにおいて、よく勉強を教えてくれる近所のお姉さんみたいなオーラを醸し出していた。

そんなこんな考察しているうちに、僕はあることに気が付いた。

僕以外の男子と話す向井さん。他者から見れば何気ない光景。僕の感情は【嫉妬】。

あれ? 僕向井さんの事……。いやいや、そんなはずはない。勘違いだろう。第一、僕が女の子に好かれるわけあるまいし。……でも……。

改めて彼女を見る。なんだろう、顔の周りにひまわり見えてきた。

いや待てよ……、昔どっかで聞いたことがあるな……『好きでもない奴から向けられる好意ほど気持ちの悪いものは無い』と……。


ここは市立艦致偉(かんちい)高等学校。

この春、私【向井 真紀】(むかい まき)は新高校1年生としてこの学校に入学した。

それから約1ヶ月間は特に音沙汰なく生活。


こんな僕が何かに目覚めたのは今も忘れない。5月の半ばの学校行事、仲良くなろうの会だ。

この行事では男女三人づつのグループを作り、遠足に行くという本当に簡単な行事だ。

私は昔からいろいろな人に『かわいい』とか『綺麗』とか言われてきたものの、まだ一度も実ったことのない私の恋。

と、いうかそもそも実るというより、『好きな人』ができたことがない。

友達からは「真紀はすぐ彼氏できるよー!」とかはさんざん言われてきた。

私の恋愛観が変わっているのかどうかは正直分からない。

けど、確かなことは『単純な相手とは付き合いたくない』ということ。

この話をすると自意識過剰だとか思われそうで門外不出の話なんだけど、皆にかわいいかわいい言われて、「あ、私ってかわいいのかな?」と思ってしまう時がある。

私は昔からフレンドリーなタイプで、「ねぇねぇ」と顔を近づけながらどの男子にも話しかけることができるようなタイプだった。

そうすると、男たちは顔を赤らめたり、言葉に詰まりながら答えてくる子も多い。

確かに自分のやりたいことをやらせてくれる男の子はとてもすてきだと思う。でも、なんだか違うのよね。

私の理想の恋はどちらかと言えば二人で対等に話し合ってデートの行き先を決めたり、二人で奢りあったりしたいの。

私の今まで会って来た男の子たちは……退屈だった。

高校に入っておとなしく生活しようと決めていた私。

そんな私は仲のいい女子、留美、真由佳ととりあえず班を組むことにした。

留美は比較的積極的な女の子で私達と組んだ後、直ぐに男子を連れてきた。

……、なんか異色な奴がいるわね……。

一人目は筋肉質な男……。少しむさくるしそう。

二人目は……、この人話すとき何処向いてんだろ……すぐ首が動くわね……。根は優しそうだけど高校から頑張ろうっていうタイプかしら?

三人目……、そうそうこいつよ異色野郎。入学一か月で金髪とかまじで笑えねー。こういう「僕、作ってますよ」的な男子ほど私が近づくとびくびくしちゃうのよねー。

とりあずメンバーで座り、次に行き先の話し合いになった。

「ねぇ、どこいきたいー?」

留美は筋肉質の男に聞き始めた。

「あー、もう聞く感じ? じゃあ君でいいや、どこ行きたい?」

真由佳は少し大人びた雰囲気を出しながら根は優しそうな男子に話しかける。

……あれ?この感じ一人一回聞く感じ?まって、となるとこの金髪しか……!

あぁもういいや、こいつで。

「ねぇねぇ、太月君はなにか行きたい場所あるかな?」

私は少し上目遣いで話しかける。

くっくっく! これでどんな男でも顔を真っ赤にするのよ!

「え……? あぁ……、特にないかな……」

金髪の回答に思わず驚愕。

え!?なんで!?こんなに上目遣いなのにって……見てないだとー!?

「そ、そっかー、そうだよねー! まだ始まったばかりだもんねー!」

と場を濁し顔をそむける。

ななななな、なんなんだあいつ!

「真紀、よくあの人にしゃべりかけたね……」

留美に話しかけられたが笑顔でスルー。

というか脳内は大混乱だった。

今までに出会ったことのないタイプの人間。

悔しい! なんだかとっても悔しい!

別に彼に恨みがあるわけではないむしろすk……!

ちょっと私! 何考えてんの!?




ここで運命の神様は二人に振り向いた。


『ぜってー落としてやる!』


二人の気持ちここに集結。

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