そろそろ、行こうか・・・

勝利だギューちゃん

第1話

「ねえ、君はいくつ?」

「僕?僕は10歳」

「じゃあ、もうしばらくあるね。

70年したら、迎えに来るから、待っててね」

「君は、だれなの?」

「私?私はレイ。君は・・・

「僕は・・・」


小学生の4年生のころ、不思議な出会いをした。

家の近くの児童公園のベンチで、うとうとしていたら、

一人の、女の子が現れた。


いや、女の子というには、失礼か・・・

当時の僕よりも、年上だった。


普通、夢はすぐに忘れてしまう。

しかし、その夢は、頭から離れたことがなかった。

「70年経つと迎えに行くからね」

彼女の、レイと名乗る少女の発言が、どうも引っかかっていた。


それからは、普通の生活をしたと思う。

あきれるくらいに普通な生活を・・・


流れるまま、大学まで進学をし、流されるまま就職をし、

世間体のために、結婚をし、子孫を残すためだけに子供を作った。


普通が一番の幸せと言うが、人間とは勝手なもので、

普通だと、刺激を求めてしまう。


そして、時はあわただしくすぎ、いつの間にか、子供も全員独立し、

孫も出来た。


それなりに、幸せではあるが、時々思う。

「これで、良かったのかと・・・」


しかし、あの夢に出てきた、女の子の「70年経てば迎えに来る」

その意味が、分かるときが来た。


「久しぶりだね」

「レイさんか・・・」

「私のこと、覚えていてくれたんだ」

「そりゃあね」

「君はすっかり、おじいさんだね」

「君は変わらないね」

レイは人間ではない。

なので、歳は取らないだろう。


「君を連れていく前に訊きたい」

「何を?」

「君は、自分の人生に後悔はしていない?」

「していない・・・といえばウソになるな・・・」

「どうして・・・」

「流されっぱなしだった」

レイは、考えているようだった。


「じゃあ、君を連れていくわけにはいかないな」

「どういうこと?」

「じゃあ、行こうか」

「どこへ?」

「私たちが、初めて出会ったあの日へ・・・」

「えっ」


気が付くと僕は、レイと初めて出会ったあの日、

小学4年生のころの、児童公園にいた。


「レイ、どういう?」

「特例よ。今度は君の意思を貫いて、好きに生きて。

また、70年したら来るから、その時は、胸を張って行こうね」

そういうと消えた。


中国故事に、かんとんの夢というのがあるが、それを体験したわけだ。


今度こそ生きよう。

他人に流されることなく、自分の思うように・・・


僕にはもう、迷いはなかった。

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そろそろ、行こうか・・・ 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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