怠けの剣と学者さん
ぽぽい
1 牙桜様作、「異世界の片隅に」より
これは剣。ただ一本の剣である。
太古の時代、空前絶後の腕前とも言われた鍛冶職人が、今までに見たことのない鉱石と、できうる限り最高の素材を束ねて鍛えた、剣。
だが、最高の素材を集めたのに良くない物だったらしい。
創った彼は満足をしたが、それをもらった人は、全く満足をしていなかった。
最初にその剣を振った人は「名負けの剣」と呼ぶようになった。
仮にも良い素材からできたので業物ではあり、様々な人に振られたがどの人も数回振っては他の物に変えてゆく。
私自身も、秘められた『力』を解放しようとしたことはなく、製作者からその『力』を聞いた人が幾度となく私を振り、そして捨てて行く。
いつしか、「怠けの剣」と呼ばれるようになった。
最後に振った人は、ある洞窟までは私を振り、その最奥で遙かにいい業物と出会い、乗り換えた。
何百年にも渡る異常により、洞窟内の魔物達は度重なる進化をし、今では最奥に来る者は久しく見ず、来れるほどの実力がある人は、もっと良い剣を携えるようになった。
極稀に最奥に辿り着き、我と相まみえる者は数人いたが、皆数回振ってはすぐに戻し、他の宝を抱えて出てゆく。
数年振りだろうか、最奥にまで辿り着くものは。
きっと今までと同じく目もくれず他の物を持って帰るであろう。
願わくば、我を欲さん者よ。我から、力を使うに足りると思わせられるものよ。我が前に現れよ…
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