短編20話 数ある並んでもたれてのほほん
帝王Tsuyamasama
短編20話
「おじゃまします」
「あら
「むしろあんただれの母親だよ」
今日も穂乃が俺ん家にやってきたので、上がってもらい二階へと誘導した。ここまで何度も来ていたらさすがにうちの親とも顔見知りな穂乃である。
「……じゃますんでー」
「じゃますんなら帰ってー」
「なんでやねん」
「穂乃。今日も完璧だ」
こんなちっちゃな手でツッコミ……同級生のやつらが知ったら驚くだろうなぁ。
穂乃はちょっとてれながらも笑っていた。
本日も
「ああクッションクッションっと。ほらよっ」
「ありがとう」
俺の部屋には似合わないであろうピンクのふわふわクッションを渡すと穂乃はクッションを敷いてから座り直した。やわらかめで穂乃のお気に入りらしいが、それいとこのお姉ちゃんからもらった物である。
穂乃はいつも持ってきてる青色のカバンと、白色の薄いコートを横に置いた。
髪が肩を越すくらいの長さで、見るからにさらさらしてる。今日は薄紫色のブラウスに紺色のスカートだ。靴下は白……ってこんなじろじろ見てたら怪しまれそうだ。
穂乃は昔からおとなしい女子で、幼稚園のときは同じバス、小学校のときは同じ通学団と、小学校卒業までずっと一緒に通い続けてきた仲。
時が経つにつれて穂乃からしゃべりかけてくれるようになってきたし、中学校に入った今では通学団とかないのにまだ一緒に登校してることを考えたら、結構仲良しになれていると思う。
穂乃って本当におとなしいので、しゃべる回数こそ他の友達に比べたら少ない方だが、表情は結構出してくれるため、意思疎通はばっちりだぜ。
交友関係はあんまり詳しくないが、これからも俺は穂乃を楽しませてやれるやつになれていたらいいなーとは思う。
もうすぐ来る春休みで中学二年が終わり、三年生になる俺たち。これまで穂乃とたくさんの時間を過ごしてきた。そろそろ穂乃のいろんな気持ちを聞いてみたい年頃の俺くんである。
俺も座布団を持ってきて穂乃の右隣に敷いて座った。
落ち着いたところで穂乃を見てみる。今日も髪さらっさら。お、こっち向いた。もっと見てみよ。
そりゃまぁその『なんですか?』な表情になりますわな。まばたきしてる。
あ、ちょっと顔が下向いた。そのまま穂乃はベッドにもたれながら持ってきたカバンを開けて……取り出したのは少女マンガだった。タイトルは『その曲がり角から委員長』……最近持ってきてるやつと違うな。
「一緒に読む?」
「あ、ああ」
穂乃は体を寄せてきて、肩が当たりながらもマンガを俺にも見えるように開いてくれた。穂乃は鈍感なのか何なのか、こういうときは決まって肩をくっつけてくる。ひざとか腕とかも当たってるけどっ。
俺は毎回どきどきしてるんだが、穂乃はなんとも思ってないんだろうか?
しばらく曲がり角で委員長とキュンキュンするお話を読んでいたら、母さんがお菓子とジュースを持ってきたってことで、ドアを開けて受け取った。今日はクッキーとチョコレートと……ピーチジュースかな?
穂乃がお礼を言う度に母さんは穂乃ちゃんを泣かせるな的セリフを俺にぶつけてくる。まさに言いたい放題である。
ドア閉めて、ウェットティッシュを出して、お菓子食べながらマンガ再開だ。これもいつもの流れ。
今日もすずめさんはちゅんちゅん楽しそうだ。これがちょっとしたBGMになりつつも、俺たちはひたすらにマンガを読み続けているんだが……
(だ、だめだ。今日こそは……今日こそは穂乃の気持ちを聞きたいっ!)
もうすぐ三年生になろうという今こそ、穂乃の気持ちを聞いてみたい!
「な、なぁ穂乃?」
マンガを読みながらなので特に反応はなかったが、聞いてくれてるだろうとは思う。
「穂乃ってさー。他の友達ともこんな感じで一緒にくっついてマンガ読むこととかってー……ある?」
穂乃はページをぺらっとめくった。
「ない」
「じゃー、俺とだけ?」
「うん」
ちらっと穂乃の横顔を見てみた。楽しそうである。というか近い。
「他の友達と遊ぶときって、どんなことしてんだ?」
「うーん」
マンガを下ろして、窓の外のちゅんちゅんを眺めながら考えているようだ。
「外に出かけることがほとんどかな」
「まじかよっ」
俺といるときはこうして家の中ばっかだから、インドア派かと思っていたというのにっ。
「じゃ、じゃあ今度、遊園地行こうぜ」
俺はっ。俺はとっさに……。
「うん」
「まじかよっ!」
穂乃はうなずいている! これは、これは……これは! 一緒に読んできたマンガに度々登場した『おデート』というやつでは!?
「良弥くんとなら楽しそうだもん」
……もっと早く誘っておけばよかったかっ。
「え、じゃあさ。一緒に買い物行こうぜって言ったら?」
穂乃はうなずいている。
「じゃあじゃあ、美術館行こうぜは?」
やっぱり穂乃はうなずいている。いや俺美術館とかよくわかんないけど。
「じゃあ海行こうぜは?」
……反応遅いがうなずいてくれた。
「まじかよ」
穂乃は笑っていた。
「いつ遊園地行くの?」
「え? あーうん、そうだなぁ。春休み入ったら?」
「うん。春休みもいっぱい遊ぼうね」
ああ……おとなしい穂乃からこんな言葉言われてどきどきしない男子なんていんのか……?
穂乃以外の女子にこんな感情持ったことないけどさぁ……うおぉたまらないぜ。
(やっぱり……やっぱりこれは、今まさにその時なのでは!)
俺はマンガを閉じて、穂乃を改めて見てみた。穂乃もこっちを向いた。この距離で。
「ほ、穂乃」
このまばたきは『なあに?』と同じ意味である。
「穂乃ってさ。男子の友達ってどんくらいいるんだ?」
穂乃の視線がちょっと上になった。
「こんなに仲良しなのは良弥くんだけ」
「まじかよ! よ、よく思い出せ! 他にもいるだろ!?」
穂乃は首を横に振った。
「まじかー」
目の前の穂乃はゆっくりまばたきをしながら微笑んでいる。
「女の子を入れても、たぶん良弥くんがいちばん仲良しだと思う」
「まじで!?」
うなずく穂乃。なんと俺は友達トップだったとは……。
(友達トップということは……つ、つまり、お、お付き合い候補にもなるだろうか!?)
「ほ、穂乃ってさー。恋愛系の少女マンガ読んでるよなー。恋愛とかー、そのー、ご興味はー?」
そういえばこんな話題したことなかった。これだけ穂乃と一緒にいたのに、この手の話題なんてまったくなかった。
「……あります」
ちょっとてれながら、視線を斜め下に落としながらそう言ってくれた言葉にまた胸の辺りがずきずき。
「じゃ、じゃあ俺とこんなにくっついてんのとか、どきどき……しません?」
すると穂乃はマンガを持ちながらも
(こ、これは! マンガでもよく見た、伝説の『もじもじ』という状態ではないか!!)
こんな姿の穂乃を見てしまっては、もうどきどきなんてものを超えた別の何かかもしれない。
「穂乃っ、おとなしいのはよく知ってるけど、なんか俺に言いたい気持ちがあれば、ぜひっ」
おーっと穂乃のもじもじ度がさらにアップした! それでもマンガは手から離さない! よっぽどお気に入りのマンガなんだろうか! ちなみに俺は委員長なんてやったことない!
「……良弥くん……」
いつもより小さい声でそうつぶやいたかと思ったら
「おわっ、お、おい穂乃っ!?」
穂乃が俺に抱きついてきた! 俺もとっさに抱き返してしまった! マンガが俺の背中に当たっている!
「……本当は、すっごくどきどきしてる。とってもはずかしいけど……でも、ずっと良弥くんのことが……だ、だっ……」
だ?
「……大好きっ……」
俺のどきどき、最高潮。いや限界突破。
「全然そんなふうには見えなかった……」
穂乃は俺の肩の辺りに頭をすりすり……? している。
「……良弥くん、くっついても怒らないもん。だから、もっとくっつきたくなって……気がついたら……」
気持ちを聞きたいとは思ったが、まさかここまで語ってくれるとはっ。
「好きな女子からくっつかれて怒る男子なんて、マンガに出てきたっけ?」
穂乃がちょこっとだけ跳ねた。と思ったらこっち見た。ものすごく近い距離で。
「そういえばマンガなら、このくらい近い距離だったら、こーゆーことしてたなー。はい穂乃目つぶってー」
穂乃はまばたきしていたが、目をつぶってくれたので、俺は唇を重ねにいった。
ちょっと穂乃は震えていた。やっぱり穂乃はどこをとってもかわいかった。
穂乃から顔を離すと、穂乃は目が泳いでしまっているが、俺の背中に添えられた手とマンガはしっかり力が加わったままだ。
「恋愛系のマンガばっかり持ってきてたのは、ひょっとして俺と付き合いたいから……とか?」
うわ勢いよく首を横に振られて髪べしべし当てられてる。痛いやらかゆいやら幸せやら。
「お、俺とそんなに全力で付き合いたくないのかっ」
ぐわーさらにすごい勢いで首を横に振られて髪超べしべしぶつけられてる。痛い。
「ってことは……俺が告白したら、付き合ってくれ……る?」
おろ、穂乃の動きが止まった。
「あ、そか。先にこんなこと聞いてもあれだよな。えーこほん。穂乃。あ、こっち向いてください」
ゆっくりゆっくり穂乃が顔を上げてくれた。すんごい表情してる。俺は穂乃の両肩に手を乗せた。
「付き合ってください」
なんか、かっこいいセリフは浮かばなかったので。俺は穂乃の返事を待った。
「……はいっ」
ぇ、なんでその瞬間顔そらすんですか!?
「も、もう限界だよ……でも離れたくても離れたくないの。どきどきして、この気持ちすごすぎるよ……あっ」
あまりにかわいすぎたので、もう一回唇を重ねにいってしまった。
穂乃の気持ちを聞くことができてよかったよかった。
短編20話 数ある並んでもたれてのほほん 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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