第486話 浴衣と語らい


「今日は、えらく強引だったな」


 あかりと理久が、神様に手を合わせている頃、飛鳥たちは、本殿の隅で、二人が参拝を終えるを待っていた。


 夏の夜風が、爽やかに吹き抜ける中、隆臣が隣にいた飛鳥に語りかければ、飛鳥は、キョトンと首を傾げながら答える。


「そうかな?」


「そうだろ。絶対に逃がさないって気持ちがひしひしと伝わってきたぞ」


「あはは。まぁ、確かに、逃がす気はなかったけど。でも、ここで逢えたのは、きっと意味のあることだろうし、俺はチャンスが転がってるなら、迷わずつかみに行くよ。それに、今日のあかりは、、着てたしね」


「浴衣?」


「うん。あんなに綺麗な姿で、うろちょろしてたら、危ないだろ」


 再び、あかりに目を向け、飛鳥は目を細めた。


 普段は下ろしている髪をまとめあげ、黒地に桜柄の浴衣を着たあかりは、とても綺麗だった。


 それなのに、こんな夜の町を、あかりは小学生の弟と、二人だけで歩いてきたらしい。


「あいつ、危機管理能力、なさすぎるんだよね。変な男に捕まったら、どうするつもりなんだか?」


「あー。それで、あんなに食い下がってたのか。まぁ、好きな女の子が、他所の男に口説かれるところなんて、見たくはないしな。つーか、お前の過保護は、あかりさんにまで侵食してたんだな?」


「え? 俺、別に過保護じゃないよ」


「過保護だろ。侑斗さんの血筋、めちゃくちゃ受け継いでるぞ」


「嘘でしょ!? あの父親と一緒にすんの、やめてくんない!?」


 少なくとも自分は、成人した息子を、無理やり抱きしめたりはしない!


 そんな事を、飛鳥が切々と語っていると、今度は、そのかたわらから、葉月と華の声が聞こえてきた。

 

「ねぇ、華。小学校の方でも、イベントやってるの知ってる?」


「うん、知ってるー! お化け屋敷とかやってんでしょ?」

 

「え!?」


 すると、その言葉を聞いて、蓮が、あからさまに嫌な顔をして


「なんで、夏祭りに、お化け屋敷があるんだよ!」


「そりゃ、盛り上げるために決まってるでしょー!」


「つーか、榊! お前、夏祭りの運営、手伝ってたんだろ! なんで、止めねーんだよ!?」


「とめるわけねーだろ。大人たちが盛り上がってるのに。つーか、お前、まだお化け克服してなかったのかよ」


 動揺する蓮に、航太が問いかける。

 

 夏休みに、みんなで、ラビットランドにいった時(第177話)航太は蓮と二人で、お化け屋敷に入った。


 あの時は、かなり怖がっていたが、どうやら、まだ克服していなかったらしい。


「俺は神社の設営ばっかやってたし、小学校の方はよく知らねーけど、商工会の人達、みんなして『お化け役やりたい』って張り切ってたから、かなり気合い入ってると思うぞ」


「気合い!?」


「あはは! ほら、蓮! 頑張ろうー! 『お化けもお母さんだと思えば、怖くない』って、前に言ってたじゃん!」


「いや、やっぱ、母さんとお化けは違うだろ!」


 なにやら、騒ぎ始めた高校生たち。


 そして、そんなやり取りを聞いて、飛鳥は、ニコニコ笑いながら


「ねぇ、隆ちゃん。あいつら小学生みたいな会話してるけど、あれで高校生なんだよ。信じられる?」


「そうだな。でも、お前も酔った時、大河と小学生みたいな"しりとり"してたぞ」


「え? なにそれ? いつの話?」


「お前の誕生日を祝うために、一緒に、大河の家に泊まっただろ。あの時」


「………」


「覚えてないのか?」


「……全く」


「だろうな。じゃぁ、次は動画、撮っといてやるよ。あの時の知能指数は、小学生まで落ちてたな」


「撮らなくていいから!」


 身に覚えのない話をされ、飛鳥が複雑な表情で反論すれば、その瞬間、今度は、参拝を終えたあかりたちが、戻ってきた。


「あかりさーん! 浴衣姿、とってもキレイ!!」


「あはは、ありがとう、華ちゃん。なんだか、恥ずかしいね。でも、華ちゃんこそ、今日はお化粧してるでしょ? 浴衣も、すごくオシャレだし、とっても可愛い!」


「えへへ。私は、ミサさんに、メイクと着付けをしてもらって……自分でも誰っ!?て思うくらい大変身しちゃってて」


 華とあかりの楽しげに語らえば、その場は、更に和やかになった。


 なにより、嬉しそうな華の表情を見れば、あかりと一緒に回れることを、喜んでいるのが、よく伝わってくる。


「飛鳥。お前、これから、どうするつもりなんだ?」


 すると、そんな二人をみつめながら、隆臣がこそりと話しかけた。


 どうする?──とは、きっと、あかりのことを言っているのだろう?


 この機会を逃せば、次は、ないかもしれないから──…

 

「そうだね。どうしようかな?」


「考えてないのかよ」


「考えてるよ」



 そう、ずっと考えてる。



 父さんと話した、あの後も


 考えないようにしていても


 自然とあかりのことを考えていた。



 そして、三ヶ月ぶりに


 あかりにあって、確信した。



 目を合わせて

 肌に触れて


 言葉を交わした



 ただ、それだけのことが



 こんなにも嬉しくて



 こんなにも、こころを熱くする。



 それこそ



 ずっと抱えていた『不安』なんて



 根こそぎ、吹き飛んでしまうくらいに──…





「俺は、やっぱり、あかりが好きだよ。今もずっと、傍にいて欲しいと思ってる」



 どんなに、避けられても


 どんなに嫌われても


 きっと、この想いは、変わらない。



 だから──…



「俺は、あかりのが知りたい。だから、何がなんでも、あかりの本当の想いを引きずり出す」


 それは、なにかを決意した表情で──


 そして、その力強くも凛々しい瞳に、隆臣は息を呑んだ。


 なにより、この夏祭り、一体、どうなってしまうのか?

 

 ただならぬ予感を感じとり、隆臣は、親友として最後まで見届けようと、強く心に誓ったのだった。


 




***********************


(遅くなりましたが…)


新年、明けましておめでとうございます。


まだ、不安定な文章ではありますが、ゆっくりとでも更新していこうと思います。


良かったら、本年も、よろしくお願いします。


雪桜

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