第482話 再会と神様


 あかりが、この神社に来たのは、一ヶ月ぶりだった。


 実家を離れて一人暮らしを始めてからは、一人で散歩や買い物に出かけることが多くなった。


 いつも家に引きこもってばかりは良くないと、弟に注意されていたからは、天気のいい日に、よく公園で本を読んだりしていた。


 そして、この榊神社は、家から近いこともあり、よく足を運んでいた。


 静かな境内には、厳かな空気がただよっていて、立派な御神木ごしんぼくを目にする度に、心が癒された。


 きっとこの御神木は、長い年月、この街の人々を見守ってきたのだろう。

 

 さわさわと揺れるくすのきの香りを感じる度に、この街の住人として受け入られているような気持ちになっていた。


 そして、ここに来る時は、必ずと言っていいほど、神様にお願いをした。



 家族の変わらずの平穏と



 好きな人の『未来』の幸せを──…







 




       第482話 『再会と神様』







 



◇◇◇

 

 

「姉ちゃん、なにやってんのー?」


 たこ焼きを買ったあと、理久と一緒に境内までいけば、中央の参道を進んだ先に、二十段ほどの階段があった。


 そして、その上には、神様を祀ったおやしろがあって、理久は、スタスタと階段をのぼりきると、姉に向かって、呆れた声をかける。


「歩くの遅せーよ」


「しかたないじゃない。浴衣で階段のぼるの、結構、大変なんだから」


 浴衣を着たのは久しぶりで、階段を登るのに少しもたついた。


 カラン、コロンと下駄を鳴らすあかりは、裾を気にしながら、ゆっくり階段をのぼる。


 そして、一番上まで辿り着くと、そこは神聖な場所だからか、急に空気が変わった気がした。


 賑やかな祭りの音が、少し遠くに聞こえる。


 雑踏の中だと、聞き取るのにも苦労した。


 だからか、落ち着いたこの空気に、あかりは、こころなしか、ほっとする。

 

「──あかり?」


「……え?」

 

 だが、その瞬間、前方から声がした。


 すっと耳に入り込んできた声。

 それは、あかりの名を呼ぶ声だった。

 

 そして、ゆっくりと顔を上げれば、その瞬間、青い瞳と目が合った。


 澄んだ海のような綺麗なあお色。


 そして、その色と同時に、夕陽の色に似た金色の髪が、サラサラと風に靡いているのがみえた。


 そこにいたのは、神様みたいに綺麗な人。


 だけど、神様じゃない。


 だって、その色は、全部、知っている色だった。


 ずっと、心の奥に焼き付いて離れない



 ──好きな人の色。


 

「……っ」


 そして、視線が絡み合った瞬間、飛鳥とあかりは、同時に息を呑んだ。


 最後に会話したのは、5月だった。


 そして、それから3ヶ月、全く会っていなかった。


 姿だけでなく、声一つ聞けず。


 だけど、会えない間も、ずっと想っていた。


 消えない想いは、いつまでも、いつまでも、胸の奥で燻っていた。


 そして、目を合わせた瞬間、その想いが、一気に溢れ出しそうになった。


 でも、どうして?


 どうして、彼が──


「……きゃッ!」


 瞬間、あかりは、ぐらりとバランスをくずした。


 無意識に後ずさったせいか、足をとられたあかりは、そのまま階段から落ちそうになる。


(あ……っ)

 

 と、思った時には、もう遅くて、背筋が凍りつく。

 

 パシッ──!


 だけど、その瞬間、腕を掴まれたのがわかった。

 

 力強く引き寄せられ、そのまま、誰かの腕の中に引き込まれる。


 そして、それが誰かは、すぐにわかった。


 だって、いつも危ないところを助けてくれるのは、決まってだから──…


「こんなところから落ちたら、怪我だけじゃすまないよ?」

 

「……っ」


 耳元で聞こえた声に、あかりは小さく息を呑む。


 さっきよりも距離が近い。


 掴まれた腕も、触れた肌も、燃えるように熱い。


 でも、どうして?


 どうして、彼が、ここにいるの?


 神木さんは、今、小学校にいるはずなのに……っ






https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330666480392622

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