第480話 ポスターと友達


 出店が立ち並ぶ参道を進み、境内にでると、飛鳥たちは、本殿に向かった。


 そして、その輪の中には、神木兄妹弟の他に隆臣と狭山もまじっていて、二手に別れたにも関わらず、そこは賑やかなものだった。


「へー。結構、立派な神社なんだな~」


「あれ? 狭山さん、来たことなかったんだ」


 すると、飛鳥の隣にいた狭山が、じみじみと呟き、飛鳥は、不思議そうに問う。


「狭山さんて、この街に住んで長いのかと思ってた」


「んー、3年くらい? でも、正月は、実家に帰ってるから、こっちの神社にお参りしたことないんだよ」


「あー、そうなんだ。榊神社は、結構、由緒ある神社だよ。安産とか、恋愛成就の神様を祀ってて」


「へー、恋愛かぁ……だから、あーいうイベントも、ここで、やってんのかな?」


「あーいうイベント?」


「ほら、あれ」


 すると、狭山が出店の傍にある、掲示板らしきものを指さした。


 そして、そこには、祭りのポスターがはってあった。


 そう『桜聖市の中心で愛を叫ぼう!』と書かれた、告白イベントのポスターが!!


「……飛鳥。お前、アレに、呼ばれたんじゃないか?」


「は?」


 すると、そのポスターをみて、今度は、隆臣が口を挟み


「さっきの小松田さん。8時にステージの近くに来てくれって言ってただろ」


「……いや、まさか。それはないでしょ。大体、小松田さんは、そういうタイプじゃないと思うよ。大人しそうな人だし」

 

「えー、でも、そういう大人しそうな子の方が、いざとなったら、大胆な行動に出ることあるよ?」


「え!?」


 すると、ないと言いはる飛鳥に、華が不穏なことを言い放ち、飛鳥は、微かに慌て始める。


 もちろん、これだけの美男子である飛鳥。

 

 告白の呼び出しなら、幼少期から、かなりの数を受けてきた。


 だが、さすがにステージの上で、公衆の目に晒されながら、告白されたことは一度もない!


「え!? 神木くん、アレ出るの!? つーか、告白対象として呼び出されてるなんて、やっぱ君、すごいね!! さすがは、一万年に一度の美男子!!」


「いやいや、出ないよ。てか、一万年に一度ってなに?」


 これまた、ドえらいことを狭山が言い出して、飛鳥は、苦笑いを浮かべた。


 一万年に一度?

 どんだけ、奇跡の人にする気なのか?


 なにより、一万年に一人のはずがない。

 

 身近に、瓜二つとも言える母親の存在があるわけだから!


「とにかく。まだ、そうと決まったわけじゃないだろ。俺は、時間と場所を指定されて、呼び出されただけだよ」


((だから、それは、どうみても、告白の呼び出しだろ!!))


 だが、今までの経験上、間違いない!と、双子と隆臣は確信していた。


 しかし、飛鳥の方は、ちょっとばかり現実逃避したいらしい。その後、ポスターから目を逸らすと、本殿へと続く階段を登り始めた。


 神様を祀る本殿は、更に上の段にあった。

 

 そして、そこは神様の区域だからか、出店は並んでおらず、比較的落ち着いた空気が流れていた。


 そして、参拝をしようと、飛鳥達は、神様の前に歩みよる。


「華~!」

「……!」


 だが、その瞬間、どこからか葉月の声がした。

 

 神木兄妹弟が振り向けば、航太を引っぱりながら、階段を上ってくる葉月の姿が見えた。


「葉月ー!」

 

「あれ? 榊、今日は、裏方やってたんじゃないの?」


 双子が、それぞれの友人に声をかければ、輪の中に合流した葉月が、元気よく答える。


「手伝いはいいから、遊んで来いって言われたんだって! ぼっちで可哀想だったからさー、私がナンパしてきちゃった。ていうか華、浴衣、めっちゃ似合ってるじゃん!」


「えー!? ホント!」


 葉月が、キャーキャーいいながら華の姿を絶賛すれば、華ははじらいながら、はにかむ。


「そ、そうかな。似合ってる?」


「うん、似合ってる! やっぱ華は可愛いわ~! しかも、化粧までしてるし!」


「そうなの! 今日は、プロ同様の人にメイクしてもらってね。なんだか、私じゃないみたい!」


「そんなことないって。華の可憐さを引きしてる最高のメイクってかんじ!」


「ホント? でも私、浴衣が似合うようなお淑やかな子じゃないし、似合ってるって言っていいのかどうか」


「もう、なんでそんなこと言うのよー。今日の華は、一段と綺麗だし、可愛いし、色っぽい! ねぇ、榊!」


「え?」


 だが、その後、いきなり話をふられ、航太は体を強ばらせた。

 

 しかも、華と目が合ってしまったからか、あからさまに、頬が赤くなる。


(ど、どうしよう……上手く、直視できない……っ)


 薄桃色の浴衣も、ほんのり色付いた頬も、眩しいくらいに綺麗だった。


 でも、葉月が機会をくれた。

 また、普通に話すための、きっかけを。


 なら……


「す、すごく似合ってる。とっても、綺麗だ」


「……ッ」


 そして、その言葉には、華自身も赤くなる。

 

 男の子から、綺麗なんて言われたことあったかな?


 それに、家族や友達から言われる言葉とは、少し違って聞こえた。


 それに、二人だけだと、何を話していいか分からなかった。


 だけど今は、みんながいるからか、自然と振る舞える気がした。

 

「うん……ありがとう、榊くん」


 照れながらも、笑ってお礼を言えば、久しぶりに華に笑顔を向けられたからか、航太の身体からは、自然と力が抜けていく。


(……話しかけて、いいのかな?)


 困らせるだけな気がしていた。

 

 どう、ふるまえばいいか分からなくて、ずっと、逃げていた。


 でも、中村の言った通り、話しかければ、ちゃんと返してくれる。


 前と変わらない笑顔で──…


「あのさ。俺も一緒に行動していいか?」


 遠慮がちに問いかければ、華は、なんの躊躇いもなく


「うん! みんなで楽しもう~!」


 そう言って、満面の笑みで答えた。


 そして、それと同時に、悔しいくらいに自覚した。

 

(やっぱり……好きだ……っ)


 今も胸の奥で鳴り響く。

 切ない叫びと、熱い鼓動が……


 だけど、今は、これでいい気がした。


 やっと、に戻れた。


 今は、ただ、それだけで──…






*お詫び*

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330665536649071

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