番外編 ⑫

お兄ちゃんと授業参観 ①


「飛鳥兄ぃ!」


 年が明け、しばらくがたった頃、真冬の神木家では、華が飛鳥を呼び止めていた。


 ミサとのいざこざがあってから、約二ヶ月。


 現在は、ミサが入院中のため、神木家がエレナを預かっている。まさに、第二の妹として神木家の一員となったエレナ。


 更に、今は侑斗も日本にいるため、現在の神木家は5人暮らし。


 そして、飛鳥似のエレナが加わったことで、神木家の華やかさは更に増し、いつも以上に賑やかな日々を過ごしていた。


 だが、そんな日常を送る中、こっそりリビングにやってきた華は、酷く神妙な面持ちで、飛鳥に語りかける。


「ちょっと話があるんだけど……」


「話?」


「うん。実はこれが、ゴミ箱に捨ててあって」


 遠慮がちに華が差し出してきたのは、クシャクシャになった紙だった。


 飛鳥が、開いてみれば、4年1組と書かれているのが見えて、小学校からのプリントだと気づく。そして、そのプリントには、とある行事のお知らせが載っていた。


「授業参観?」


 そして、その文字をみて、飛鳥は眉を顰める。


 なんでも、2月上旬にエレナの通う桜聖第二小学校で、授業参観があるらしい。だが、これがゴミ箱にあったということは、エレナが捨てたということで……


「アイツ、学校からのプリントは、全部持って来いって言っといたのに」


「でも、ミサさん、今入院してるし、渡しても困らせるだけだと思ったんじゃない?」


「まぁ、そうだろうね」


 相変わらず、変なところで、気を回す子だ。

 こんな所は、本当に自分の子供の頃にソックリだと、飛鳥は失笑する。


「これ、どうする? ミサさんの代わりに、お父さんに行ってもらう?」


「うーん……」


 すると、華の言葉に、飛鳥は更に考えこむ。


 授業参観とは、基本、パパやママに、日頃の勉強風景を見てもらう行事だ。


 中学生の頃までは、自分たちの授業参観にも、よく父が来てくれた。


 どこか恥ずかしくもありながら、やはり嬉しかった。


 しかし、神木家の父である侑斗は、エレナにとっては、実の父ではなく……


「いや、頼めば、父さんなら行ってくれるだろうけど、行ったら行ったで、ややこしくなるだろ。ミサあの人の彼氏だとか、再婚相手だとか、変な噂がたっても困るし……なにより、父さんは、エレナとは、なんの繋がりもないわけだし」


 エレナは、ミサが二回目に結婚した相手との子供。


 当然、血の繋がりは一切なく、前妻の娘の授業参観に、元旦那である父が行くのは、ややこしい意外の何者でもない。


「そっか……そうだよね」


 すると、華が酷く心配そうな顔で


「エレナちゃんだけ、誰も見にこないのは可哀想だなーって思ったんだけど……やっぱり、お父さんがいってもダメだよね」


「そんな顔するなよ。授業参観には、俺が行くよ」


「え?」


 だが、その兄の言葉に、華は目を丸くし


「あ、飛鳥兄ぃが、行くの!?」


「うん。どう考えても、俺が適任だろ」


「そ、そうだけど……あー、分かった! ミサさんにしていくんだね!」


「は?」


 だが、その後、意味がわからないことを言い出した華に、飛鳥はニッコリと笑いかける。


「なんでそうなるの?」


「だって、飛鳥兄ぃ、ミサさんにそっくりだし!」


「バカなの? いくら見た目が似てるからって、42になりすませるわけないだろ」


「オバサン!?」


 あまりの発言に、華は更に驚く。


 あの、20代後半にしか見えない若々しいミサさんを捕まえて、オバサンだと!?


「ひっどい!? ミサさんのどこがオバサンなのよ!? まだ、一回しか見たことないけど、どう見てもだったよ!!」


「見た目がどうであれ、中身はオバサンだろ? だいたい、21歳の俺とは、肌ツヤが全く違うよ。それに、オバサンの振る舞い方なんてわかんないし、なりすましてもバレるに決まってる」


「……っ」


 全く歯に衣を着せず、ズバズバと言い放つ兄!


 あの絶世の美女を掴まえて、オバサンなどと言うのは、きっと、この兄くらいだろう。


「ミサさんが聞いたら、怒りそう」


「ぅ……やめてくんないかな。トラウマえぐり出すの。とにかく、エレナの授業参観は、俺が行ってくるから、心配しなくていいよ」


「兄として!?」


「うん。だって俺、お兄ちゃんだしね♪ あと、エレナには、内緒にしといて。サプライズで行って驚かせてやりたいから!」


「……っ」


 そう言って、にこやかに去っていった兄を見て、華はじわりと汗をかく。


 あの美人すぎる兄が、サプライズで小学校に??


「……だ、大丈夫かな、エレナちゃん」


 同じく美人すぎる兄を持つ妹として、華は、エレナの学校生活を酷く案じたのだった。





 ②に続く


* あとがき *

https://kakuyomu.jp/works/16816927861981951061/episodes/16817330649627574559

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