番外編⑪ お兄ちゃんと運動会

お兄ちゃんと運動会 ①


 ✻ お知らせ ✻


今回は『飛鳥がエレナの授業参観に行く話』を番外編としてお送りする予定でしたが、comicoからのお引越しする予定だった番外編を、一つ、お引越しし忘れていたのに気づきまして、先に、運動会の番外編の方から公開したいと思います。


comico読者さんは、読んだことのある番外編ですが、ちょっとだけ改稿もしてますので、気が向いたら、再読頂けたら♡


それでは、今回のお話は、双子が中学1年生の時の運動会でのお話です。



 ↓↓↓






「おーい、華~!」


 時は遡り、今から4年前の秋のこと。中学1年生になった双子は、中学はじめての運動会を迎えていた。


 快晴に見舞われた、その運動会には、もうすでにたくさんの人が訪れていて、各々テントをはったり、シートを敷いたりしながら、運動会を楽しむための準備を行っていた。


 そして、開会式が始まる直前、グランドの入場門前で、赤いハチマキを頭に巻いた華は、突然声をかけられ、後ろにふりむく。


 すると、そこには、青いハチマキをした体操服姿の蓮がいた。


「父さんたち、今日は何時ごろ来るって?」


「あー、確か、場所取りはしてあるから、準備でき次第来るっていってたよ!」


 双子の運動会には、毎年欠かさず、父と兄が応援に来てくれる。そして、それは今年も例外ではなく、今朝も早くから、父が中学校まで場所を取りに行き、兄がお弁当を作ってくれた。


 だが、こうして父と兄が揃って見に来てくれるのも、この先、少なくなってくるかもしれない。


 なぜなら、この度、父は海外に単身赴任することが決まり、この運動会が終われば、一人引っ越すことになっていたから。


「お父さん、来週にはアメリカにいっちゃうんだよね。来年の運動会これるかな?」


「どうだろうな……てか、もう来年の話?」


「だって、やっぱり寂しいなーって」


 引っ越しを控え、家では荷造りをしている父を見かけるようになった。そして、来週からは兄と3人だけの生活になる。それを考えると、やっぱり寂しい。


「よーし! 今日は、お父さんのためにも、絶対、赤組を優させよう!」


「俺、青組なんだけど……」


 だが、手に拳を握り意気込んだ華に、蓮が口を挟んだ。


 桜聖中学校の運動会は、クラスごとに組がわけられており、1組である華は赤組。3組である蓮は青組。ちなみに2組は白組となり、双子故に、クラスが違えば組も違う。


「えー、じゃぁ、赤青同時優勝を!!」


「それは、さすがに無理だろ」


「うーん、じゃぁ、二人で徒競走1位を目指す!」


「まぁ、それなら行けるかも?」


「ねー、ねー! みんな、聞いてー!!」


「「?」」


 するとそこに、突如、女子の声が響きわたった。

 華と蓮が、その声の方に視線を向けると


「今、裏門前に、凄くがいたのー」


「綺麗な人?」


「そう! 金髪で、目が青くって! ハーフなのかな~すっごい美人でカッコいいお兄さん!!」


「私、金髪碧眼の美少年なんて、初めてみたよー! どうしよう~お母さんに、写真撮ってきてもらおうかな~?」


 二人の視界に入る位置で、女子が数人、輪になり興奮ぎみに話はじめた。そして、その話を耳にし、双子は顔を見合わせる。


「来たみたいだね?」

「あー、きたな」


 これだけ、騒がれる金髪碧眼の美少年なんて、うちの兄しかいない。双子は、それを目にすることなく、瞬時に悟ったのであった。







 番外編 お兄ちゃんと運動会






 ◇◇◇


「ふぁ~」


 運動会が始まり、校長が長い開会の挨拶をしているその頃、神木家の長男、飛鳥(当時、高校3年生)は、朝方、父が場所を確保した木の下にいた。


 開会式が始まるからと、父は華と蓮の写真を取りに向かった。飛鳥は荷物番として一人そこにのこると、シートを広げ荷物を置き、耐えきれなかったのか、小さくあくびをする。


 今朝は4時に起きて、お弁当作り。

 やはり、まだ少し眠い。


(でも、父さん、来週から海外だよなー。これからは朝食も、毎日、俺が作らなきゃいけないし)


 飛鳥は、父の海外転勤のことを思いだし、一人物思いにふける。これからは、朝、眠いなんて言ってられない。父がいない分、自分が、しっかりしなくては。


 すると、飛鳥はシートに腰を下ろすと、持参した荷物の中から、運動会のプログラムを取り出した。

 双子が出る種目を、じっくり確認する。


 だが、そこに


 ──パシャッ


 と、突如シャッター音が響いた。


「……?」


 なにやら嫌な予感がして、飛鳥が視線をあげる。


 すると、その先で、自分と同じ高校生くらいの女子が二人、スマホをこちらにむけているのが見えて


(あー……あれは、どっちだ?)


 自分を撮られたかは、正直、定かではない。


 それに、はっきり撮られたとわからなければ、声をかけるのも躊躇する。


 となれば、もう諦めるしかなく。


 飛鳥は、またプログラムに視線戻すと、仕方ないかとやり過ごす。だが、そこに


「お嬢さんたち、それはダメだよー」


 と、突如、男性の声が聞こえた。


 女の子たちの斜め後ろから声をかけたのは、さっき写真を取りに行った、父の侑斗だった。


 そして、侑斗は、女の子たちに笑顔で声をかけると、スマホを指差し注意する。


「断りもなく勝手に撮っちゃダメだよ? 自分たちも、勝手に撮られて、ネットに晒されるのは嫌でしょ?」


「あ、ごめんなさい……っ」


 すると、女の子たちも悪いことだと理解はしていたのか、バツが悪そうな顔をして


「凄く綺麗な人だったから、つい……っ」


「うん、その気持ちは、すっごくわかるよー。うちの息子、美人でしょ?」


「え!? お父さんなんですか!?」


「そうだよー。あの玉のように輝いてる美男子の父です」


「うそー! あんな大きい息子がいるようには見えなーい!」


「…………」


 どうやら、撮られたのは、間違いなく自分だったらしい。


 だが、その後、女の子たちの興味は、父に移ったようで、流れるように若い女の子を手玉にとる父に、飛鳥は、複雑な心境を抱く。


 さすが、12歳も年下の嫁を掴まえただけはある。だが、そうこうするうちに、父は、女の子たちに写真を消すよう伝え、また飛鳥のもとに戻ってきた。


「いや~、さすが女子高生、つぶやくの早いなー。もう少しで、全世界に飛鳥の美貌を拡散されるところだったぞ!」


「……なにそれ、怖い」


「飛鳥、マジで気をつけろよ! ネットの世界は怖いからな。気を抜いてると、いつ"美人すぎる兄"として有名になるかわからないぞ!」


「……あはは」


 父の話を聞き、飛鳥は苦笑いを浮かべた。


 もちろん、気を付けてはいるのだが、運動会など、誰でもカメラやスマホを撮れる場所では、やはり限界があるのだ。


「でも、ありがとう、父さん」


 だが、その一大事を救ってくれた父に、飛鳥が綺麗に笑ってお礼をいえば、侑斗は飛鳥の隣に座りながら


「何言ってるんだ。息子の危機に、父が動かなくてどうする」


 なんて言いながら、飛鳥のキャップのつばを、ぐっと下げた。多少過保護な面もあるが、やはり父は、とても頼りになる。


(俺も……まだまだ子供だな)


 来週には、この父が、家からいなくなる。

 それを思うと、なんだか無性に寂しくなった。


 仕事だし、もう会えなくなるというわけではない。


 だが、ずっと一緒にいた「家族」と離れるということに、漠然とした不安を感じる。


 そして、いつか父のように、華と蓮も大人になったら、自分の元から、離れていくのだろうか……?


「あ! そうだ、飛鳥!」

「?」


 だが、そんなしんみりする空気を壊し、侑斗が声をあげる。どうしたのかと、飛鳥は父を見上げると


「さすがに、隠し撮り全部阻止するなんて無理だろうから、お前、今日1日、あごしゃくっとけ?」


「なにそれ。なんの罰ゲーム!?」


 なんでも、顎をしゃくれば別人に見えるらしい。


 だが、隠し撮りを阻止するために、息子に1日変顔を要求してくる父をみて、飛鳥は一瞬にして、父に対する感謝の気持ちが薄れたのだった。



 ◇



 それから、運動会は順調に進み、双子はマスゲームや徒競走を終え、昼食の時間に差し掛かった。


 華と蓮が、父と兄が場所取りした所に駆け寄ってくると、侑斗がお弁当を広げながら、声をかける。


「おつかれー! 二人とも、徒競走1位だったなー」


「でしょ~! 無事に目標達成!」


「それより、喉乾いた、なんかある?」


「あるよ。何がいい?」


 双子がシートの上に腰を下ろすと、飛鳥がクーラーボックスから、双子たちの返答を聞いて、飲み物を差し出す。すると、そこに……


「神木ー!」


 と、青いハチマキをした男子生徒が、やってきた。


 だが、神木と名のつく4人が、同時に、その少年に目をむけると、少年はキョトンとした顔をして、自分の言動を振り返る。


「あ! そっか、みんな神木か」


 そして彼は、蓮の友人でもあり、当時、まだ中学1年生のさかき 航太こうたくん。


 今でこそ、仲が良いが、この頃は蓮と友人になって間もない頃で、まだ「蓮」ではなく「神木」呼び。

 そして、華との面識は一切ない。


「どうした、榊?」


 すると、駆け寄ってきた航太を見て、蓮が声をかければ、航太は、申し訳なさげに話し始めた。


「あのさ、お前、クラス対抗リレーのアンカーできない? 時田が、さっきの徒競走で足くじいたみたいで」


「あー、別に構わないけど、俺がアンカーでいいの? 榊の方が早くない?」


「そんなに、かわんねーだろ」


 航太は、現在、体育委員をしていた。だからか、負傷した時田くんの代わりを探しているようで、蓮に声をかけてきたようだった。


 ちなみに、双子はこれでも運動神経が良く、特に足が早い。


 まー、これも兄の取り巻きから逃げるために、知らず知らず培ってきた特技なのだが……


「分かった。いいよ」


「サンキュ~! じゃぁ、ついでに、バスケ部にも入部しない?」


「はぁ?」


 だが、その後、蓮の肩を掴むと、航太は、笑顔で入部を勧めてきた。


「お前、ドサクサに紛れて、なに勧誘ぶっこんでんの?俺、部活はやんないって」


「勿体ねーな。せっかく、運動神経いいのに」


 航太が、残念そうに呟く。

 すると、それを見て、侑斗が


「こんにちはー、蓮の新しいお友達?」


「あ、初めまして。榊 航太と申します。蓮くんとはクラスが一緒で、色々とお世話になってます」


「榊くんかぁ。こちらこそ、いつも蓮と仲良くしてくれて、ありがとね」


「いいぇ、俺の方こそ、仲良くしてもらってますし」


「いいよ榊、そんなに、畏まらなくても」


「え、そうか? じゃ、神木、リレー宜しくな! それじゃぁ、お食事中にすみません。失礼しました」


 そう言うと、航太は侑斗と飛鳥に軽くお辞儀をし、神木家の元から去っていった。


「へー……なかなか、礼儀正しい子ー」


「そうだなぁ。爽やかだし、イケメンだし。バスケ部なら、榊くんモテるんじゃないか?」


 走り去っていく航太を見つめがら、飛鳥と侑斗がボソリと呟く。すると、蓮が


「さぁ、モテるかどうかは知らないけど……俺達は、第1だったけど、榊は第2小学校に通ってて、アイツ、その近くにある榊神社の一人息子だよ」


「え? 神社の子なの? どおりで、礼儀正しい」


「将来、家継がなきゃならないから、中学高校は好きなことするんだって……て、華どうした?」


 すると、どうしたのか?

 兄と父と話をしていた蓮は、ボーッとしている華に気づき声をかけた。すると、華は


「いや、今の子。さっき一緒に、フォークダンス踊った子だなーって思って」


「「え?」」


 華は、航太をみて、午前の部最後のフォークダンスの際に、一緒に踊った相手の一人だったのを思い出したらしい。

 だが、その話に、侑斗と飛鳥が


「え? 榊くん、うちの可愛い華ちゃんと、手つないだの? それは聞き捨てならない」


「ちょっと、釘刺しとけば良かった」


「いや、フォークダンスで手をつないだの、榊くんだけじゃないから! 何人いるとおもってんの!?」


「てか、父さんも兄貴も、態度変わりすぎ。さっき礼儀正しいとか、爽やかとか言ってたの誰だよ?」


 どれだけ印象が良くても、どうやら、それとこれとは話が別らしい。


 華と蓮は、娘を溺愛している父と兄に顔を曇らせつつも、榊くんの身をわずかに案じたのだった。




 【後編に続く!】

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