第384話 花嫁と和装


(どうしよう……めちゃくちゃ似合うかも……っ)


 あかりのウェディングドレス姿を想像し、微かに頬が赤らむ。

 なにより『結婚しない』と言っていた、あのあかりの花嫁姿なんて、きっと妄想でしか見れらない!


(ていうか、あいつ、マジで結婚する気ないの?)


 恋人も作らず、結婚もしない。

 あかりは、確かにそう言っていた。


 つまり、一生、独身でいるということ。


 最近は、おひとり様をあえて選ぶ人だっているし、そんな生き方があってもいいと思う。だから、あかりが、そうありたいなら否定はしない。


 でも、あかりは、まだ19歳の大学生で、恋だって、そんなに経験はしていないはず。それなのに、まだ若いあかりが、もうそんな選択をしていることに、少しだけ違和感を覚えた。


(そういえば、あかりって、今まで誰かと付き合ったことあるのかな?)


 出会ってからのあかりは知ってるけど、それ以前のあかりのことは何も知らなかった。


 知りたいとは思うけど、話してくれそうにない。だが、結局自分は、その程度の人ってことなのだろう。


 あくまでも友達の一人で、あかりにとっては、それ以下でも、それ以上でもはい。


 むしろ、友達だから、あかりは傍にいてくれる。もし、俺が、あかりのことを好きだと分かったら、きっと……


「いらっしゃいませー! ドレスをお探しですか〜」


「……!」


 瞬間、店の入口から声がして、飛鳥は我に返った。どうやら、ドレスを眺める飛鳥達を見て、店員が声をかけてきたらしい。

 すると、中から出てきた、若々しい店員たちは


「まぁ、なんてお綺麗な方!」


「そんな所に立ってないで、中へ入って、試着してみてください!」


 そんな感じで、背中を押されたかと思えば、あれよあれよと、店の中に連れ込まれた。


「ちょ、飛鳥兄ぃ、どうしよう!」

「どうしようって言われても……」


 きっと、成人式か、結婚式ぐらいしかお世話にならないであろう高級感あふれる店の中で、華と二人して慌て始める。

 すると、案の定、店員さんは


「ウェディングドレスをご覧になってましたが、ご結婚されるのは、こちらのですか?」


 なんて、言って飛鳥を見つめた。


 あぁ、やっぱり、女に間違えられたうえに、結婚の予定があると思われている!?


「あ、すみません。俺、です」


「え!? それは大変失礼致しました! とても綺麗な方でしたので、てっきり……では、タキシードをお探しですか? でしたら」


「あ、違うんです! 私たち、ウェディングドレスを探しにきたんです!!」


「!?」


 だが、そこに、華がまた余計なことをふきこんで、飛鳥は軽く焦る。


 だって、そうだろう!ウェディングドレスを着るなんていわれたら、店員さんが、どんなに困ることか!?


「あ、すみません。今のは」


「あーなるほど! ですか! わかりました! 大丈夫ですよ。サイズがないならオーダーメイドもできますし。でも、お兄様なら女性用でも入るサイズがあるかと。2階に沢山ドレスがありますので、ぜひ、ご試着なさってみてくださいね!」


(ん? そういうことって、どういうこと?)


 だが、どう解釈されたのか?

 その華の言葉をあっさり理解した店員は、すたこらと飛鳥たちを2階に通した。


 2階には、ドレスルームがあった。そして、その壮大な光景は、まさに圧巻!


 広いフロアには、何百着ものウェディングドレスやカラードレスがあった。ほかにも、白無垢に色打掛、振袖などの和服もひと通り揃っていて、それには、華と葉月も、キャッキャとはしゃぎ始める。


「わぁ、綺麗〜」

「すっごい、こんなにあるんだー!」


 そして、そのはしゃぎぶりに、飛鳥はなんとも言えない表情をうかべた。


 あれ? なんか

 試着しないといけない雰囲気??


「ちょっと待って華……女装服、ドレスにすんの?」


「いや、まだ決めてないけど……でも、せっかく試着していいっていってくれてるんだしさ。着てみようよー」


「そうだよ、飛鳥さん。絶対似合うよ。私、飛鳥さんのドレス姿、見てみたーい!」


「お前ら、本当楽しそうだな」


 店員さんに背を向け、3人コソコソと話す。

 華と葉月は、まさにノリノリだった。


 すると、今度は店員が、一着ドレスを手にして、あれこれ説明を始めた。


「こちらのウェディングドレスは、先日入荷したばかりの新作なんですよ。それに、こちらのカラードレスは、有名なデザイナーがてがけたもので、ほら、お兄様の髪の色ともピッタリ! 見惚れてしまいそうなほどですね! なにより、お客様ほどの美しさなら、きっと和装もお似合いですよ! 金髪碧眼なら、黒の色打掛とか! あぁ、想像しただけで、胸がときめきますね! ていうか、良かったら我が社専属のモデルになりませんか!? ドレスも和服もタキシードも全て着こなせる、最高の逸材だと思うんです! お願いします! ぜひとも貴方の写真を、うちのパンフレットに使わせてください!!」


「いや、すみません。モデル的なお話は、全てお断りさせて頂いています」


 ズズイッと目を血走らせながら、専属モデルへの勧誘を、さりげなくぶっ込んできた店員に、飛鳥はばっさり断りの返事を入れた。


 まぁ、気持ちは分かる。

 だが、モデルだけは嫌だ(←トラウマ)


 しかし、その後、飛鳥のお断りが効いたのか、店員はあっさり引き下がり、改めて、ドレス選びが始まった。


 ……と言っでも、選んでいるのは、飛鳥ではなく華と葉月だが。


「ねぇ華、こっちは?」


「あー、マーメイド的なやつ! 飛鳥兄ぃ、足綺麗だもんねー」


「本当〜。マジで女子が羨む美脚だよね! 膝から下が長い」


「あー確かに。オマケに腰の位置も高い」


「それな! しかも、肌も綺麗だし、まつ毛も長くて多いし。何食べたら、あんな風になれるんだろうね」


「うわ、やめてよ! 私、同じもの食べて生きてきたのに!?」


 食べ物は、きっと関係ない!──と華が言えば、葉月は腹を抱えて笑いだした。


「ていうかさ、店員さんもいってたけど、和服もにあいそうだよね、飛鳥さん」


「あー、それね、私も候補に入れようと思ってたの! さっきいってた色打掛とか! でもさ、普通の着物も捨てがたいんだよねー」


「あー、それに飛鳥って名前古風だし、名前にちなんだ柄にするのもいいかも?」


「あー! それいいね〜!」


(早く決めて欲しい……)


 女の買い物は長いというが、ドレス選びは、更に長くなりそうな雰囲気だった。


 だが、飛鳥が側で見守りつつも、暇を持て余していると、再び店員が声をかけてきた。


「妹さん、とても喜んでるみたいですね」


「え、はい。そうですね」


 店員の言葉に、飛鳥は普段の調子で、笑顔で答える。すると店員は、更に会話を重ねる。


「恋に障害はつきものですけど、こんなにも、ご家族が祝福してくれるなんて、とても素敵なご家族なんですね」


「えっ……はい、そうですね」


 一瞬、小首を傾げる。


 恋? 障害? 家族が祝福?

 一体、なんの話?


 すると、困惑する飛鳥に、店員はズバリと言い放った。


は、日本ではみとめられておりませんが、式や写真だけでも撮ろうと、こうしてドレスを選びに来る方も、最近は増えてきてるんですよ。一生に一度のことですし、私達も全力でサポート致しますね! ところで、お相手のは、どのような方なのですか?」


「…………」


 ん? お相手の……男性??





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