侑斗さんとゆりちゃん ④

 ※ご注意※


 前半は、普段より過激な表現があります。

 後半は、癒しです。


 苦手な方は、スクロールして後半まですっ飛ばすか、このままUターンしてくださいね~





 ◇


 ◇


 ◇





 その日の夜──


 無事に入籍した侑斗とゆりは、飛鳥と共に結婚祝いをして、ケーキを食べた。


 3人並んで写真を撮り、侑斗が飛鳥をお風呂に入れた頃には、もう21時をすぎていて、ゆりが、いつもの部屋で飛鳥を寝かしつけたあと、リビングに戻ってきたのが、23時ごろ。


 キッチンから続く6畳のリビングには、テレビとローテーブルと3人がけのソファーが一つ。だが、そのソファーに座り、うたた寝をしている侑斗に気づいたゆりは、そっとそばに歩み寄り、眠る侑斗の顔を覗き込んだ。


(寝ちゃってる……ちょっと無理させちゃったかな?)


 昨日は、深夜3時まで仕事をしていた侑斗。あまり寝ていないうえに、今日は一日連れまわしてしまった。


 その上、テーブルの上には、お祝いをした時から飲み続けていたビールの缶がいくつか空になっていて、きっと、酔いもまわり寝てしまったのだろう。


 ゆりは、侑斗の肩に手を触れると、ゆさゆさと揺すり起こす。


「侑斗さん、起きて。ここで寝ると、風邪ひくよー」

「んー……っ」


 すると、ゆりの声を聞いて、侑斗がうっすら目を覚ました。呆然とゆりを見上げる侑斗は、ふと飛鳥がいないのに気づく。


「ん……飛鳥は?」


「さっき寝たよ。はしゃぎすぎたのか、ぐっすり」


「あー、そうだ……風呂はいって、寝かしつけにいったんだった」


「もう、大丈夫? あと、コレまだ残ってるけど、もう飲まないの?」


 ソファーにもたれかかり頭を押さえる侑斗に、ゆりがコレといってビールの缶を差し出せば、その缶には、まだ少しだけ中身が残っていた。


 どうやら飲み終わる前に、寝てしまったらしい。侑斗は、その缶を素直に受け取ると、残りのビールを一気に飲み干す。


 どのくらい寝ていたのか、少しぬるくなったビールは、あまり美味しいとは言えなかった。


 だが、思いのほか喉は潤い、その後再びゆりをみつめれば、ゆりは侑斗に背を向け、テーブルの上を片付けていた。


 次第に暑くなり始めた初夏。


 Tシャツにショートパンツといった無防備な姿を晒すゆりは、正直、目のやり場に困った。


 細くて長い黒髪に、華奢な背中。綺麗な曲線を描く腰のラインは、子供とも大人とも言えない独特な色っぽさを感じさせた。


 だが、それもそのはず。ゆりは、ほんの数か月前まで、女子高生だったのだから……


「ゆり」

「え? なに……んんッ」


 飲み干した缶をテーブルに置くと、侑斗は、ゆりを抱き寄せ、そのまた口付けた。


 背後から、後頭部を抱えるようにして、深く深く口づければ、その瞬間、ほのかに苦味のあるの味と、アルコール独特の匂いがして、ゆりは小さく眉を顰めた。


(ん、苦い……ッ)


 未成年のゆりには、まだわからないお酒の味。だけど、それが余計に、大人の男とのキスを実感させた。


「は……侑斗、さ……っ」

「ゆり」


  呼吸の合間に、名前を呼び合えば、それから暫くキスをしたあと、侑斗は、背後からゆり抱きしめた。


 ピタッと体が密着し、ゆりの首筋に顔を埋めた侑斗は、どこか甘えたような声を発する。


「ゆり……俺と……結婚してくれて、ありがとう……っ」


「……!」


 耳元でささやかれ声に、僅かに鼓動が早まった。


 12歳も年上で、日頃はすごく包容力があってしっかりした大人なのに、お酒が入り酔いが回ってくると、それが、たちまち一変する。


 可愛いというか、素直というか、いつも以上に甘えてくる。


 だが、そんなことを考えていると、今後はTシャツの中に、侑斗がするりと手を忍ばせてきた。服の中に入り込んできた手が、直に肌をふれると、ゆりは慌てて侑斗を静止する。


「ちょッ……ちょっと、まって!」

「なんで? まだ、なんかあるの?」

「あ、ある! ご飯炊いてない!」

「いいよ。明日の朝はパンで」

「え!? ていうか、侑斗さん、眠いんじゃないのッ?」

「ゆりの声で、目が覚めた」

「覚めたって……あっ、や……ッ」

「はは。ゆり、可愛い」


 話しながらも、その手は止まらず、時折強弱をつけて敏感な部分に触れれば、ゆりは、たどたどしく甘い声を漏らした。


 腕の中には、今日『妻』になったばかりの愛しい子がいた。


 もう誰のものにもならない、自分だけの可愛い可愛い女の子。


 そう思うと、無性に抱きたくなってしまった。


「ゆり」

「ん……っ」


 再び、名前を呼べば、侑斗は、ゆりの体を引き寄せ、そのままソファーの上に押し倒した。


 覆いかぶさり、身動きを封じれば、そこからまた、執拗にキスを繰り返す。


 息もできないくらいの激しいキス。


 いつも主導権を握るのは、どちらかと言えばゆりの方なのに、こんな時は、一気に立場が逆転する。


 普段は、優しすぎるその行為は、いつもより激しくて、まだ不慣れな身体は、反応するたびに切なげな声を漏らす。


「は……やっ、ぁ…だめ…っ」


 言い知れぬ快楽が、身体中をかけ巡る。


 自分のあられもない声が室内に響けば、恥ずかしさに身体はどんどん熱くなって、頭の中が真っ白になる。


 たが──


「侑斗さんッ!」


 再び静止の声をかければ、ゆりは涙目になり侑斗を見上げた。


 ──といっても、それは嫌がっているわけではなく、顔を真っ赤にして、どこか熱に浮かされたように潤んだ瞳を向けるゆりをみて、侑斗は目を細める。


「どうした?」


「ど、どうしたじゃなくて……侑斗さん、明日、仕事でしょ? ちゃんと休まないと、身体壊しちゃう……ッ」


「大丈夫だよ。むしろ、ここでやめた方が身体に悪い」


「あ、っ……でも」


「ゆり」


 すると、侑斗が、またゆりの名前を呼んだ。


 ソファーがギシリと音をたて、より深く身体が重なり合うと、侑斗は、ゆりを見つめ


「お前、って言ったよな?」

「う……っ」


 決して視線をそらさず、熱く囁かれたその言葉に、思いのほか胸が熱くなった。


 優しく微笑みながらも、どこか熱をおびた視線を向けられれば、その瞳から、目が離せなくなる。


「まだ慣れてないし、ゆっくり進めようと思ってたけど、お前があんなこというから、俺もゆりとの子供が欲しくなった。……ゆりが火つけたんだからな? 覚悟しろよ」


「っ……」


 その言葉には、さすがのゆりも観念したらしい。その後、侑斗の背にするりと腕を回した。


 距離が近づき抱き合えば、そっと頭をなでられた後、また優しく口づけられた。


 お互いに愛を確かめるように、甘く優しいキスを繰り返す。


 だけど、それと同時に、さすがに煽りすぎたかもしれない。


 ゆりは、この時ほんの少しだけ、侑斗に火をつけてしまったことを、後悔したとか……?





 ❀


 ❀

 

 ❀





 そして、それから、幾つかの季節が過ぎ去った――4月1日。


「飛鳥、見えるか?」


 産婦人科の新生児室前で、侑斗が飛鳥を抱き上げ声をかけた。


「あの子達だぞ。飛鳥の

「きょうだい……?」


 新生児室の中には、ここ数週間のうちに生まれた赤ちゃんが十数人。


 そして、その奥に見えた保育器の中には、他の子達よりも一回り小さい赤ちゃんが、二人いるのが見えた。


「ちっちゃい……」


「生まれてくるのが二カ月も早かったからな……でも、無事に生まれてきてくれた」


 侑斗は飛鳥を抱っこしたまま、産まれたばかりの赤ちゃんを見つめ、目を細めた。


 新しい命が生まれた瞬間に、こうして立ち会えた。まだ正産期に入る前に、急に陣痛が始まってしまい、ひどく心配した。


 正直、助からないかもしれない……そう思った。だけど、この子達は、無事に生まれてきてくれた。


「ねぇ、お父さん」


「ん?」


「お母さんは……?」


 飛鳥が、二人の赤ちゃんから目をそらさず、侑斗の服をキュッと掴むと、侑斗はそれを見て、優しく微笑んだ。


「そうだな、会いに行くか。お前達のお母さんに……」




 ❀


 ❀


 ❀




 新生児室から少し離れた、個室の中に入ると、ベッドに横たわるゆりの姿が見えた。


 汗をかき、ひどくぐったりとしていて、飛鳥は疲れ果てたゆりを見て、パタパタとそのそばに歩み寄った。


 世間はもうすぐ、朝を迎えようとしていた。昨夜、いきなり陣痛がはじまり、ひどく苦しむ姿を見ていたからか、飛鳥は、ゆりの顔を覗き込み、恐る恐る声をかける。


「お母さん……まだ、痛い?」

「……飛鳥」


 飛鳥の声に、ゆりがゆっすらと目を開けた。


 いつものふわりとした、優しい笑顔。それは、さっきの苦しそうな表情とは違い、とても安らかで温かい表情だった。


「うんん、すごく痛かったたけど……赤ちゃんの顔みたら、痛いの全部吹き飛んじゃった」


 ゆりは、そっと手を伸ばすと、飛鳥の小さな手をぎゅっと握りしめた。


「赤ちゃん……見た?」


「……うん」


「名前はね。女の子が『華』で、男の子が『蓮』…今日から、飛鳥の妹弟になる子たち……飛鳥、になったんだよ」


「……」


 その言葉に、飛鳥は無意識に、ゆりの手をぎゅっと握り返す。


「もう、独りじゃないからね。お父さんも、お母さんも、妹も、弟もいる……飛鳥には、たくさん家族がいる。だからもう絶対……独りぼっちにはしないからね」


「……っ」


 その瞬間、部屋の中で、一人閉じ込められていた時のことを思い出した。


 いつも一人で、遊んでいた。


 誰もいない所に、話しかけて、でも返事はなくて、飽きたら、ずっと窓から外を眺めてた。


 温かい家族に憧れた。


 決して壊れることのない家族を夢見た。

 ただ、普通に笑える日常が欲しかった。


 でもそんなの

 ずっと、叶わないと思っていた。


 だけど───



「………うっ、俺……っ」


 嬉しさのあまり、その先の言葉は声にはならなかった。


 ゆりと出会ってから、諦めていたものが、一つ一つ現実になっていく。


 飛鳥がゆりの手を握りしめながら、ぽろぽろと涙を流すと、ゆりがもう片方の手で飛鳥の涙を拭い、侑斗が飛鳥の頭を優しく撫でた。





 「お兄ちゃん」という言葉は




 どこか擽ったくて



 とても温かい響きだった。






 飛鳥の小さな小さな妹弟



 華と蓮は



 夜明けと共に産まれてきた。





 朝日が昇る、4月1日




 神木一家の新しい「日常」は





 小さな町の片隅で




 ひっそりと始まりを迎えた






 その日の空は




 まるで祝福でもするかのように




 澄み渡るような青空と






 桜の花が、ひらひらと咲き誇っていた。







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