第280話 始と終のリベレーション⑤ ~告白~
モデルを目指すとなってからは、ただひたすら、夢に向かって
父は、私の話を聞いて、初めは驚いていたけど、その後はすんなり受け入れて、モデルの基本とか、事務所までの送り迎えとか、色々協力してくれた。
そして、モデルを目指してから5年が経ち、高校1年生になった頃には、ある程度、実力も付いて、私は少しづつ大きな仕事も貰えるようになっていた。
(女性雑誌の専属モデルかー。やっぱり、専属契約出来るのは大きいよね?)
昼食時間、机に向かって、父が作ってくれたお弁当をたべながら、私は昨日、事務所できいたオーディションのことを考えていた。
来月、かなり大規模なオーディションがあるらしい。有名雑誌の専属モデルを選ぶオーディション。うちの事務所からは、数人しか申し込み出来ないみたいだけど、モデルとしてステップアップするには、またとないチャンスだった。
「ミサ、また考え事?」
「え? あ、ゴメン」
すると、向かい合わせに座り、一緒に食事とっていた当時の友人が声をかけてきた。
名前は、
香織とは、中学でたまたま席が隣になってから、よく話をするようになった。
学生時代は、香織の他にも、男女問わず友達もいて、それなりに楽しく過ごせていた。
「また、モデルのことでしょ?」
「うん。今度、オーディションがあってね!」
「ミサは相変わらず、モデルのことばかりだね」
「だって、楽しいもの!」
モデルを目指すのは、決して楽な事じゃなかった。色々と制限は強いられるし、食べ物にも気を使うし、日焼けとか怪我とか、肌荒れとか厳禁。
でも、それも全て夢のためだから、できることはなんでもやったし、努力も惜しまなかった。
「ねぇ、ミサは、まだ好きな人いないの?」
「え?」
だけど、そんな私とは対照的に、同世代は恋愛に興味がある時期だった。
誰が誰を好きだとか、誰と誰が付き合っただとか、そんな話を、よく聞かされた。
「いないよ」
「もう、いい加減、好きな人くらい作りなよ。別に彼氏いても、モデルはできるでしょ? この前は、先輩の告白も断ってたし」
「あー、でも、あの先輩は私の外見しか見てないもの。それに、私、あーいうチャラそうな人苦手だし……だいたい、好きな人って無理して作るものじゃないでしょ?」
当時の私は、恋愛には全く興味がなかった。それよりも、夢を叶えるのに一生懸命だったから。
だけど、その頃の私は『町一番』と言われるほどの美少女でもあったから、男子からよく告白されていた。
呼び出されたり、手紙をもらったり、まちぶせされたり。
全て、断ってはいたけど、中には、それをあまりよく思わない人もいたのだろう。
「ミサはいいよね、美人だから」
「え?」
「自信があるから、それだけ余裕なんだよ。作ろうと思えば、いつでもつくれるもんね、彼氏」
「別に、そういうわけじゃ……」
「紺野~」
香織と話していたら、今度は、男子が声をかけてきた。
「紺野、今日の放課後、一緒に帰ろうぜ!」
「帰らない」
「じゃぁ、次の休み、デートしよう!」
「しません!」
ニコニコと笑って話しかけてきた彼は、隣のクラスの高橋
サッカー部で、女子からもそれなりに人気のある爽やかなイケメン君。そして私は、この高橋くんに、数ヶ月前に告白された。
「ねえ、高橋くん。私、告白断ったよね? いい加減あきらめて」
「諦めねーよ。俺、やっぱり紺野のこと好きだし! それに、俺のもっとうは、めげないことだから! なぁ紺野、一回デートしよう! 案外しっくりくるかもしれないじゃん!」
高橋くんは、とにかくしつこかった。
ある意味、真っ直ぐな人でもあったけど。
「デートしても変わらないよ。私、今は彼氏とか作る気ないし」
「つれねーなー。じゃぁさ、デートは諦めるから、今日一緒に帰ろう!」
「帰らないって言ったじゃない。私、今日は香織と……」
「山崎も一緒でいいからさ!」
「一緒でもって……香織、どうする?」
「え? あ、うん。私は、別にいいよ」
「……そう。なら、今日だけね」
「よっしゃ! じゃぁ、放課後、生徒玄関で待ってるからな!」
◇
そして、少し強引な約束を取り付けられた、その日の放課後。授業が終わると、私は、鞄の中に教科書を詰め込見ながら、帰り支度をしていた。
今日は、モデル事務所に行く予定はなかったし、誰かと一緒に帰るのは久しぶりだった。
空を見れば、秋の空はうっすら夕焼け色に染まっていた。窓の外から風がそよそよと吹き込めば、私の夕日の色にも見えるストロベリーブロンドの髪が、さらさらと流れた。
「ミサ!」
「……!」
ボーっと外をみていたら、少し騒がしい教室の中で、香織が声をかけてきた。
「半田先生が呼んでたよ。今から美術室に来てほしいって」
「美術室?」
「絵のモデルになってくれってことじゃない? 半田先生、前にミサのこと描きたいっていってたし」
「そうだけど……今から?」
半田先生は、美術顧問の女の先生。
気さくで話しやすく、私の事をひどく気に入っているようで、前にも絵のモデルになってほしいと言われたことがあった。
「まぁ、行ってきなよ。高橋君には、私から伝えとくから」
「うん……そうだね」
高橋君には、少し悪い気がしたけど、先生に呼ばれたなら仕方ないなと、私は、美術室に向かうことにした。
美術室は、特別棟の三階。
あまり人気のない棟だから、すれ違う生徒はほとんどいなかった。そして、美術室につくと、私は引き戸を開けて、中の先生に声をかける。
「半田先生ー」
だけど、中から返事はなく、もしかしたら準備室にいるのかもしれないと、私は更に美術室の奥へと進んだ。
バタン──ッ!!!
「!?」
だけど、その瞬間、背後の引き戸がピシャリと閉まる音がした。
シンと静まる美術室に突如響いた、大きな音。
まるで怒りをあらわにするような、その激しい音に、私は恐る恐る入口の方へと振り返る。
すると、そこには、同じ学校の生徒が数人、こちらを睨みつけるようにして立っていた。
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