第210話 本命と遊び
それから暫くして、華と蓮は、飛鳥が買い出しに行く予定だった新しいスーパーまで行くと、醤油と卵と、お昼ご飯を買い、自宅マンション近くの公園で、早めの昼食をとることにした。
時刻は11時すぎ──
広々とした公園の中には、子供たちが遊ぶ遊具がいくつか並んでいて、その公園の隅にある東屋の中に入ると、華と蓮はテーブルに向かい合わせに座り、スーパーの袋の中から昼食を取り出した。
手掴みで食べられるサンドイッチと惣菜パン、その他に、紅茶のペットボトルを取り出すと、封を開けながら華が、深々とため息をつく。
「はぁ~~」
「お前、さっきから、ため息つきすぎ」
「つきたくもなるよー。あんなところ見て、しかも家から追い出されるなんて……っ」
そう言って、再びため息をついた華を見て、蓮も眉根をよせた。
確かに、華の気持ちは、よく分かる。
あの兄が、部屋に女の子を連れ込み、家にいた妹弟をわざわざ追い出したのだ。
これは、もう確実に、あの部屋で──
(……参ったな。帰ってから、どんな顔して会えばいいんだ)
同じく買ってきた炭酸飲料を飲みながら、蓮もため息をついた。
すると、向かいに座る華が、
「ねぇ、蓮。もしかして、今までも、私達がいない間に、女の子を連れ込んだりしてたのかな?」
「…………」
まさかの発言に、蓮は息をつめた。
今まで、女の影が一切なかっただけに信じ難いが、アレを目撃してしまうと、疑惑は芋ずる式に増えていく。
つまり、華が言いたいのは……
「初犯じゃないかも?……ってこと?」
「だって、飛鳥兄ぃモテるし、その気になれば女の子なんていくらでも引っ掛けられるし。むしろ、今まで彼女がいなかったのが、おかしいくらいだよ。もしかしたら、私たちが知らなかっただけで」
「…………」
まぁ、あの兄が童○とは、まるっきり思えないし、それなりに、ご経験はあるだろうと、蓮だって思ってる。
だが──
「いやいや、ちょっと待て! 俺、少し前まで兄貴と同じ部屋だったんだけど!? そんな形跡一切なった……ていうか、流石に部屋に連れ込んでたら気づくだろ!」
「でも、飛鳥兄ぃなら、完全犯罪こなせると思う! 形跡なんて、残さないと思う! 今日だって、私たちの予定が中止にならなかったら、絶対気づいてないもん!」
「そ、そうだけど」
「あーもう、信じられない!! だいたい、彼女じゃないってどういうこと!? 飛鳥兄ぃ、なに考えてんの!?」
「落ち着けよ。仮に、彼女じゃない子を連れ込んでるとしても、もしかしたら"デリバリー的な人"かもしれないだろ?」
「デリバリー!? ちょっと待って、なにそれ!? お金払って買ってるってこと!?」
「でも、不倫とかよりマシだろ!」
「そういう問題じゃないでしょ!?」
昼食をとるのも忘れ、華と蓮は兄の疑惑について語り合う。だが、話せば話すほど、ドツボにハマっていきそうだった。
すると、一通り叫びあったあと、華はより深いため息をついた。
そりゃ、華だって、男所帯で育ってきたのだ。
男性のそういった部分は、ある程度、理解しているつもりし、あの兄だって、見た目はあーでも、れっきとした男!
男女のそう言った行為に、興味が無いわけがない。
のだが……
(なんか、まだ信じられない……)
今まで、ずっと自分達の見本になるような兄だった。そんな兄が、最近、危ない恋愛に手を出している。
紹介してくれないのは、やはり自分たちに知られては困るような関係だからなのか?
はたまた蓮のいうとおり、大人のお店のお姉さんなのか?
(でも、飛鳥兄ぃが、そんな人、わざわざ家に呼ぶかな……?)
兄は、基本的に、自宅に人を呼ばないタイプの人間だ。
友人だってそれなりにいるが、家に招いたことはなく、唯一、家に訪れるのは隆臣さんくらい。
だからこそ、余計に気になった。
もし、さっきの女の人が、最近、兄の話題に出てくる「後輩」なのだとしたら。お互いの部屋を行き来したり、夏祭りに差し入れを届けに行ったりするの仲だとしたら、それなりに"親しい仲"なのかもしれない。
「ねぇ、蓮」
「ん?」
「あのさ、さっきの女の人……なんだか、すごく柔らかそうな……」
すると、不意に、華が呟いた。
さっき、兄が部屋から出てきた時、開いた扉の隙間から、わずかに見えた女の人は、とても"柔らかな雰囲気"を纏っていた。
長い髪と、お淑やかそうな見た目と、ふわりとした優しげな雰囲気。
それは、まるで──
「柔らかいって、なにが? 胸の話?」
「はぁ!?」
だが、華の言葉を別の意味と捉えたらしい。素っ頓狂な返事をした蓮に、華がツッコむ。
「もう、なんでそうなるのよ!」
「だってあの人、そこそこ胸大きかったし」
「大きかったって……あんた、あの一瞬で、どこ見てたのよ!?」
「一瞬じゃないし! 俺は、あの人が部屋に入る前にガン見してるから」
「あのね! 私がいいたいのは雰囲気! 柔らかそうな雰囲気のお姉さんだなって思ったの! てか、あの人、飛鳥兄ぃの好きなタイプとは真逆の人じゃん!?」
そう、仮に危険な恋愛に手をだしていたとしても、前に兄が語っていた"好みのタイプ"と、あのお姉さんは、全く違うタイプだと思った!
「まぁ、確かに強そうでもないし、レスラー系でもないよな、どうみても……」
「でしょ! それに、どちらかと言うと、こう、守ってあげたくなるような、ふわふわした感じの人だったじゃん!」
「でも、それは、多分アレだろ」
「アレ?」
「だから、本命と遊びの女は、違うってことだろ?」
「……………」
瞬間、華は絶句する。
なぜならそれは、耳を疑いたくなるような言葉だったから!
「は? 言ってる意味がわからない」
「だから、彼女にするならレスラー系だけど、遊びで抱くなら、やっぱり可愛くてスタイルいい子がいいってことなんじゃないかと? あの人、結構スタイル良かったし」
「うわ! なにそれ! 最っっ低!!」
だから、好きでもないタイプの女の子をつれこんでるのか!?
華は、ついに頭を抱えた!しかも、その遊び相手を選ぶ基準が、まさか身体!?
いや、遊びだからこそ身体で選んでいるのかもしれないが、今まで品行方正な兄だっただけに、華は信じられない程の衝撃を受けた。
「嘘でしょ、お兄ちゃん……っ」
「でも、考えてみろよ。結構、若い人だったし、不倫とか先生ってことはないだろ。かといって、兄貴が見知らぬ他人を家に入れるとは考えられないし。ならあとは、身体だけのお付き合いってことになるだろ。それも、そこそこ深い仲の」
「ふ、深い仲……っ」
言葉を濁したが、つまりセフレ的な人だといいたいのだろうか?
「ま、兄貴モテるからな。彼女作ると、逆に面倒くさそうだし、そういう割り切った関係の方があってるのかも? それに、あの人が本当に後輩で、そういう関係の人なら、大学で話さないようにしてるって言ってたのも納得いくだろ?」
「そ、そう……だけど……っ」
これは、もう確定だろう。
つまり、兄には大学の後輩に身体だけの割り切った関係をもつ女の子がいて、自分たちがいないのをいいことに、その子を部屋に連れ込んで、よからぬ事を──
「あーもう、やだ……夢なら覚めてほしい……っ」
「残念ながら、夢じゃねーよ」
双子の中で、はっきりと確定した兄の疑惑。
テーブルに突っ伏して酷く項垂れる華みつめ、蓮は苦々しげに、サンドイッチを口にするのだった。
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