第13章 双子と遊園地

第177話 夏休みと遊園地

 

 日差しが、燦燦と降り注ぐ8月上旬


 夏休みの真っ只中の今日。華と蓮は、葉月と航太と駅で合流したあと、前々から計画さしていた遊園地「ラビットランド」に行くことになっていた。


「じゃぁ、飛鳥兄ぃ! 行ってくるねー」

「あ、待って」


 いつもよりオシャレをした華と蓮が、リビングに顔を出すと、キッチンで食器を洗っていた飛鳥が突然声をかけた。そして、その後差し出していたのは、普通の封筒。


「ん? なにこれ?」


「ラビットランドのチケット。葉月ちゃんと榊くんの分もあわせて、4枚入ってるよ」


「え?! どうしたの!? チケットなんて!?」


 封筒を受け取れば、確かに入場チケットが四枚入っていた。すると兄は


「少し前に、仲良くなったが、週末だけラビットランドでバイトしてるんだよ。試しにきいてみたら、貢いでくれた」


「貢いでくれた!?」


「貢がすなよ!?」


 またもや、その笑顔を利用したのか!?


 1枚1500円もする入場チケットを四枚も友人に貢がせた兄をみて、華と蓮は絶句する。


 またもや、犠牲者が……!


 だが、きっとその犠牲者も、犠牲になったとは思ってはいないのだ。


 ちなみに、その遊園地でバイトをしている飛鳥の友人とは、飛鳥信者の"武市 大河"のことである。


「もう、友達になんてことしてるの!」


「そんなこと言っても、お金払うっていってるのに聞かないんだよ。まぁ、そのうち、なにか埋め合わせするよ」


「つーか。なんで、みんな兄貴に貢ぎたがるんだろ」


「可愛いからだろ」


「自分でいう!?」


 もちろん、飛鳥とて貢がすつもりはなかった。だが、遊園地の話をしたら、次の週には大河が人数分のチケットを持ってきたのだ。


 あの信者っぷりには、驚かされる。


「でも、よかったー。当日券買うのすごく並ぶみたいだし、これならスムーズに入れるね!」


「俺は、スムーズに入りたくないんだけど」


「もう蓮ってば、まだ、そんなこと言ってるの!」


「ほら、蓮華。モタモタしてると、待ち合わせに遅れるよ。あと、帰る前には一回連絡しろよ。それと、葉月ちゃんは、ちゃんと家まで送り届けてくるように」


「はーい! 分かってます!」


「じゃあ、いってきまーす」


「行ってらっしゃい♪」


 そういって、飛鳥が送り出すと、華と蓮は遊園地に向かうべく玄関から出ていった。


 華と蓮、そして、葉月と航太をふくむ、4人のダブルデート。


 さてはて、どうなるのやら?










 第177話 夏休みと遊園地









***


「わー懐かしい~」


 遊園地にやってくると、華は久しぶりにみた光景にはしゃぎ声を上げた。


 ここは、華たちが住む桜聖市の隣町・宇佐木市ウサギシにある遊園地『ラビットランド』


 正面入り口の看板には、ウサギをモチーフとしたキャラクター、ラビリオ君とラビーちゃんのイラストが大きく描かれ、夏休みともあり、そこはカップルや親子連れなどの客で大賑わいだった。


「華、はしゃぎすぎー」

「あはは。だって、懐かしくて、つい」


 少し興奮気味の華に、葉月が声をかけると、華は少しだけ恥ずかしそうに、はにかむ。


 華も蓮も、もうここには何年も来ていなかった。


 それこそ、前に来たのは小学生の時で、それも兄と一緒だったからか、女の子やラビリオ君から逃げ回っていた記憶しかなく。


 その上、その後は、親子四人で遊園地なんて雰囲気でもなくなり、華と蓮が中学を上がったのを期に、テーマパーク系にはあまりいかなくなった。


 とはいえ、まさか、次に来るのが友人達とになるとは。あの頃は夢にも思ってなかった。


 なにより、兄のいない遊園地──それを思うと、少しだけ大人になったような気がして、切ない気持ちになるのは、気のせいか?


「なぁ、華。ほんとに行くの?」


 すると、はしゃぐ華とは対照的に、ひどく不機嫌そうな顔をした蓮が、重く言葉を放った。


 それもそうだろう。今回の目的は「蓮のホラー恐怖症」を克服するために、ラビットランドの中のでも、特に怖いと有名な「お化け屋敷」に入りに来たのだから!


「当たり前でしょ!ここで行かなきゃ、いつ行くの!!」


「別に怖いからって、克服しなくていいだろ。嫌なら見なければいい。ただそれだけだろ」


「それだけじゃないよー。アンタは重症すぎるの! せめてお化け屋敷くらいは入れるようにならなくちゃ!」


 そう言って、華は自然と蓮と腕を組むと、嫌がる蓮を引きづりながら、遊園地の中へと進みだした。


 そして、そんな二人の見つめるのは、それぞれの友人である、葉月と航太。


「相変わらず仲いいよねー、あの双子は」

「まー。今に始まったことじゃねーだろ」


 腕を組んで寄り添う姿は、はたから見たはもう恋人同士だろう。だが、あの二人にとっては、あれもただのスキンシップ。


「よし、俺らも行くか」


 すると、どんどん先に行くを華と蓮をみて、航太が葉月に声をかけた。だが、葉月は、そんな航太に──

 

「あのさ、榊……」

「ん?」


 少しだけ改まった顔をして、見つめる葉月。航太はそれを見て目を丸くすると


「どうした、中村?」


「あのさ。あんたに、ずっと、聞きたかったことがあるんだけど……」


「え?」

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