第90話 あかりとエレナ


「へーそれでお姉ちゃん、刺されちゃうかもって、心配してるんだ」


 あれからしばらく、あかりとエレナは、二人ベンチに座り、会話を弾ませていた。


 エレナから、悩みを聞きたいとの申し出。


 そこで、あかりは、今もっとも悩んでいるのことについて話をすし、深くため息をついた。


「まー、本当にファンがいるとも限らないし、相手が私とも限らないんだけど、皆の話を聞いていたら、不安になっちゃって」


「うーん……たしかにそんな話聞いたら、不安になっちゃうよね。私もお姉ちゃんが、怪我するのは嫌だなー。でもさ、そんなに人気者だなんて、そのお兄さん、凄くかっこいい人なんだね」


「うん、確かに見た目は凄くいいかな。みんな"絵本から出てきた王子様"みたいって言ってたし、怖いくらい整った顔していて……あ、そう言えば、髪の色はエレナちゃんと、よく似てたよ?」


「え? その人、金髪なの?」


「うん。金髪で髪が長くて、あと目も綺麗な青い色をしてて……あんまり綺麗だから、初めて会った時、女の人だと思っちゃった」


「へー……なんか、 うちのお母さんみたいな人なのかな?」


「え? お母さん?」


「うん! うちのお母さんも、金髪で髪長くて、瞳の色も青いから。いいな~……私も瞳の色、青だったら良かったのに」


「え?」


「私、瞳の色はね、なの。目の色は、日本人のお父さんに似ちゃったみたい……」


「そうなんだ……」


「うん。 うちのお母さん、二回結婚してて、私はなんだって。でも、私が産まれてすぐに離婚しちゃったみたいで……だから、お母さんは、私の目の色が嫌いなんじゃないかな? 一人目の旦那さんの写真は大事に持ってるのに、私のお父さんの写真は一枚も持ってないから」


 そう言うと、エレナは、微笑みながらも、悲しそうに俯いた。


 きっと、自分の父親の顔を知らないのだろう。


 あかりは、そんなエレナを見て、ただ聞いてあげることしかできない自分に歯がゆさを感じた。


 もっと、力になれることがあればいいのに、自分には何も出来ない。


「あ! でも、そのお兄さん、お姉ちゃんの荷物持ってくれたり、自転車から守ってくれたんだよね? 悪い人って感じしないけどなぁー」


 だが、その後また、エレナが先輩のことを尋ねてきて、あかりは、切り替わった話題に再び、その神木先輩のことを話し始めた。


「……確かに優しいところもあるけどね。でも、あの人、どうみても嫌がらせして楽しんでるようにしかみえないし、性格は悪そう」


「そうなんだ?」


「うん。大体、人のことをいきなり呼び捨てで呼ぶなんて、遊びなれてるようにしか見えないし。もしかしたら、女の子弄んで喜んでる悪魔みたいな人かもしれないし」


「え!? そんなにチャラい人なの!?」


「チャラいっていうか……あ、でも、スーツとか着たら完全にホストみたいかも?」


「……ホスト」


「うん! それに、自分のことは何も話さないくせに、人のことばかり根掘り葉掘り聞き出して、まるでニコニコしながら近づいて、人のこと騙す詐欺師みたい! 実際に、何考えてるのかよくわからない人だし、いくら優しくされたからって、そう簡単に信じちゃいけない相手だと思」


「おい」


「!?」


 瞬間、二人が座るベンチの後ろから声が聞こえた。

 その声に、あかりとエレナがゆっくりと振り返えると


「俺が……なんだって?」


 そこには、にっこりと綺麗な笑みを浮かべて「噂の先輩」が立っていた。

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