神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
第1章 神木家の三兄妹弟
第1話 スカウトマンと美女
「好きです! 付き合ってください!!」
真冬の空の下、大衆の面前で、一人の男子高校生が声を上げた。
スーツの上に黒のコートを羽織った黒髪の男、
季節は、クリスマスを目前に
声をはりあげた、その男子高校生の前には、これまた高校生くらいの女の子が顔を真っ赤にして立っていて、あの表情をみれば、今の告白が成功することは容易に想像がついた。
だが、なにが悲しくてクリスマス前に、高校生カップルの告白現場を見せつけられなくてはならないのか?
これも全て「
商店街の中央に舞台を作り、その壇上では、行き交う人々の目に
普通なら、あんな恥ずかしいイベント誰も参加しないだろう。
だが、参加者にはクリスマス期間限定で使える五千円分の地域振興券がプレゼントされるばかりか、見事カップルになった二人には、イブの夜、ライトアップされたツリーの前で、プロのカメラマンが写真を撮ってくれるらしい。
──聖夜は恋人と、心に残る一枚を──
そんな
恥じを
なにより、この
子供医療費の免除だけでなく、一時預かりなどのサービスも充実していて、その上、子供が三人以上いる家庭は、更に支援が手厚くなるらしい。
そして、その流れからか、今では婚活にも力を入れており、このような若者の恋を応援するイベントも多数、開催されている。
更に、そのかいあってか、今やこの街は、子育て世帯だけでなく、これから結婚を考える若者にも人気の街になりつつあった。
ここ数年は、近隣からの移住者も増え、出生率も上がり、子供から老人まで住みやすい街として、密かの盛り上がりをみせていた。
まぁ、この穏やかかつ賑やかな街は、独り身の狭山も気に入っていた。派手ではないが痒いところに手が届く街、それが──
自分も、もし結婚できたなら、故郷の田舎には戻らず、ずっとここで暮らしたいくらいだ。
「おめでとうございまーす! 二人で素敵なクリスマスを~」
そうこうしてるうちに、先程の高校生たちがカップルになったらしい。サンタ服を着た割腹のいい司会者が盛大に祝福すれば、どこかしこから『おめでとう』の言葉と共に拍手喝采。
さすが桜聖市! 住民の人柄もいい!
「はい。では、ここからは飛び入り参加も受付まーす。告白じゃなくてもかまいません! 夫から妻、子供から親、友人や上司への感謝の気持ちなど、あなたなりの愛がこもった言葉を叫んでください!」
すると、予定していた参加者が全てカップルになったらしい。司会者がまた参加者を
少しばかりハードルが下がったその"愛の告白"に、観覧者たちは参加しようかを迷っていた。だが、そんな光景を見つめながら、狭山は深くため息をつく。
「はぁ……愛じゃなくて、上司への愚痴ならいくらでも叫べるのに」
ちなみに、このイベントを観覧中の狭山。
実は今、仕事中だ。
改めて紹介しよう。
ヒョロりとした体型にパーマがかった黒髪。少し、気だるそうな顔をした彼は、今年、モデル事務所に入社したばかりの"新人スカウトマン"だった。
だが、そんな狭山に『千年に一度の美女をスカウトしてこい!』と社長から難題が出されたのは、今朝のこと。
先月から一人もスカウトに成功していない狭山。
これが、どれほど宜しくない事態かは、なんとなくお察しいただけるだろう。
そんなわけで、告白されるほど可愛い子が集まるであろう、このイベントに目をつけたのだが……
(ダメだ! 千年に一人どころか、学校一の子すら見当たらない!!)
せいぜい、クラスで二番目がいいところ。
まぁ、クラスで二番目なら、そこそこ可愛いと思う。だが、狭山が探すモデルは、そこそこではダメなのだ!
外見の美しさはもちろん、スタイルの良さと、人を惹きつける華やかさと気品!
そう今、狭山が探しているのは、クラスで二番目でも、学校一でもない!
──千年に一度の美女だ!!
「はぁ……場所、移すか」
だが、どうやら、お目当ての美女は見つからず、狭山は、諦めて、その場から立ち去ることにした。
だが、その時だった。
ふと顔を上げた瞬間、狭山は、ふわりと舞った金色の髪に目を奪われた。
視線の先に見えたのは、腰まで伸びた長い髪を、無造作に束ね、
無駄な肉のない、スラリとした
見るものを
遠くから見ても一際、目を引いたその姿は、まさに千年に一度の──
「ちょ! ちょっと、スミマセン!!!」
瞬間、狭山は、脱兎のごとく駆け出した。
去り行く女性を視界から逃さぬよう、人混みをかき分けながら進む。
「お嬢さん!!」
「!?」
そして、背後から、おもむろに女性の肩を掴むと、女性が振り向きざまに、狭山を見上げた。
(な、何だこの子。めちゃくちゃ美人だ……!)
年は、高校生くらいだろうか?
その女性は、絵本の中に登場するお姫様のような、そんな美しさと儚さを秘めていた。
深緑色のリボンで、ゆるく束ねた髪は、夕日色にも似た赤みがかった金色の髪をしていて、優しげな瞳から覗くのは、宝石のように美しいマリンブルーの瞳。
そして、スッと通った鼻筋と、寸分の狂いなく整った輪郭と、触れると気持ちよさそうなキメの細かな肌。
それはまさに、この世のものとは思えないほどの神秘的で卓越した美しさを纏っていた。
そう、それはまさに千年……いや、一万年に一人と言ってもいいほどの、金髪碧眼の美女!!!
(きたあああああああああああああああああああああああ!!!!!!)
心の中でガッツポーズをきめた狭山は、その後、ガシッと女性の両肩を掴んだ。
「お嬢さん!! 俺とお茶しない!?」
「…………」
そして、その言葉に、女性が、無言のまま狭山を見つめる。
心なしかひんやりとした表情。
無理もないだろう。
「あ、ゴメン!! いきなり、こんなこと言われても困るよね!? 俺、モデル事務所に勤めてる
「ねぇ」
すると、そんな狭山の言葉をさえぎり、女性が初めて声を発した。
高からず低からず、耳に心地よい声だった。
そして、その声に、狭山が目を合わせれば、その女性はにっこりと天使のような笑みを浮かべて、狭山を見つめていた。
「あのさ、お兄さん」
改めて見ると、本当に綺麗な子だった。
でも──
「俺、男なんだけど?」
「は?」
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