神木さんちのお兄ちゃん!【完】

雪桜

第1章 神木家の三兄妹弟

第1話 スカウトマンと美女


「………」


 木枯こがらし吹く寒空の下。


 賑やかな街なみの中に、男は一人たたずんでいた。


 男の名は、狭山さやま まこと


 黒のスーツにコートを羽織った彼は、今日も変わらず街に出て、誰もが振り返るようなを探していた。


 季節は、クリスマスを目前に控えた12月中旬。


 ふと視線をそらせば、そこには赤と緑の煌びやかなショーウィンドウが建ち並び、もう何度きいただろう。


 耳には、タコができそうなくらい、ひたすらクリスマスソングが流れていた。


「はー、社長も無理いうよなー。千年に一度の美女なんて、そう簡単に見つかるかよ」


 狭山は、モデル事務所に勤める新人スカウトマンだった。


 そして、そんな狭山に『千年に一度の美女をスカウトしてこい!』と社長から難題が出されたのは、今朝のこと。


 道路に面して、様々な店が建ち並ぶこの通りには、デート中のカップルに営業に勤しむOL。そして、買い物中の主婦や雑談を楽しむ女子高生と、多種多様な人物が行き交っていた。


 だが、ここに立ち4時間半!


 顔は冷えきり唇は青ざめ、買ったホット缶コーヒーも飲み終わる前に冷えきった。


 それなのに、狭山が、どんなに目をこらそうが、社長ご指名の『千年に一度の美女』が現れることはなかった。


(はー、どこかにいないもんかね? うちの社長のお眼鏡にかなうような美女は……っ)


 深くため息がでる。


 今日は日曜だ。その上、クリスマス前で、これだけ人がいるのだから、一人くらいモデルにスカウトできそうな子がいてもいいだろうに、どうやら今日はハズレの日らしい。


「……仕方ない、場所移すか」


 すると狭山は、癖のある黒髪をわしゃわしゃと掻き乱すと、 この通りを諦め、その場から立ち去ることにした。


「──!」


 だが、その時だった。


 顔を上げた瞬間、狭山は、ふわりと舞った金色の髪に目を奪われた。


 視線の先に見えたのは、長く柔らかな髪を緩く一つに束ね、颯爽と歩いている女性の姿。


 無駄な肉のない、スラリとした肢体。

 見るものを惹き付ける美しい横顔。


 遠目からみても、一際、目を引いたその姿は、まさに千年に一度の──


「ちょ! ちょっと、スミマセン!」


 その瞬間、狭山は脱兎のごとく駆け出した。 

 

 雑踏の中を進み、人混みをかき分けながら、慌てて女性の肩をつかむ。


「お嬢さん!!」


「──!?」


 するとその瞬間、女性が振り向きざまに狭山を見上げた。


(な、なんだこの子、メチャクチャ美人だ……っ)


 高校生くらいだろうか?


 その女性は、絵本の中に登場するお姫様のような、そんな美しさと儚さを秘めていた。


 深緑色のリボンでゆるく束ねた髪は、夕陽色にも似た赤みがかった金色の髪をしていて、優しげな瞼の奥に見えたのは、宝石のように美しいマリンブルーの瞳。


 そして、スッと通った鼻筋と、寸分の狂いなく左右対称に整った輪郭と、触れると気持ちよさそうなキメの細かな肌。


 それはまるで、この世のものとは思えないほどの神秘的で卓越した美しさを纏まとっていた。


 そう、それはまさに千年……いや、と言ってもいいほどの金髪碧眼の美女!!!


(うぉっしたああああああああああああああああああああああ!!!!!!)


 その瞬間、狭山は(心の中で)ガッツポーズをきめると、容赦なく女性の肩を掴んだ。


「お嬢さん!! 俺とお茶しませんか!?」


「…………」


 その言葉に、女性が無言のまま狭山を見つめる。


 心なしかひんやりとした表情。

 無理もないだろう。


「あ! いきなり、こんなこと言われても困るよね!? 俺、モデル事務所に勤めてる狭山さやまっていいます! 君、モデルとか興味ないかな!? うちの事務所けっこう有名で、提携してる出版社もたくさんあるし、お嬢さんほどの人なら、すぐにでも売れっ子のモデ」


「ねぇ──」


 すると、熱くなる狭山の言葉をさえぎり、女性が初めて声を発した。

 

 高からず低からず、耳に心地よい声だった。


 そして、狭山が改めて目を向けると、その女性はにっこりと天使のような笑みを浮かべて、狭山を見つめていた。


 改めて見ると、本当に綺麗な子だった。


 それは一瞬にして、恋に落ちてしまうほどの──


「俺、なんだけど」


「え?」



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