第55話 異能力チートとゾンビノート
俺たちは言われたままに四人組の後ろをついて階段をのぼっていた。二階にある机や椅子で作られたバリケードの隙間を通り抜け、パイプシャッターの一部を開けてさらにその先へ。
「おお……? これは……」
索敵スキルでこの階にゾンビがいないことには気づいていたが、俺はあらためて周囲を見渡す。ゾンビがいないどころではない。あきらかに損害が皆無であった。
ここだけはパンデミックが起こる以前と同様の景観のまま何ごともなく綺麗な校内を保っている。
やっぱりここまで生き残ってるだけあって、この子たちは初期対応を完璧に成功させたのだろうなと素直に感心した。
「……さて」
四階まで上り、とある教室前でリーダーっぽい子がこちらを振り向く。
「とりあえず入って……ください。お茶でも出してあげたいけど水は貴重で」
「あっいえいえそんなどうぞお構いなく!」
へこへこと頭を下げる俺。あ、なんかこの感覚久しぶりだわー……会社行ってた時は毎日してたなあ。
しかしこんな俺の態度に彼女たちは少しだけ警戒心を解いてくれたのか小さく笑った。気がした。
通された教室の中は教室というより会議室という言葉がしっくりきた。白で統一された部屋の真ん中には長いテーブルがぐるりと繋がり四角形に置かれている。そしてテーブルの上には筆記用具とノートが置かれていた。ぱっと見は授業ノートって感じだけど、こんな終末世界で呑気に学校ごっこなんてやってるわけないしなあ……
そんな俺の視線に気づいたのか四人組のひとり、ギャルっぽい美少女が口を開く。
「あーそれね、ゾンビノート」
「ゾンビノート!?」
まさかのノート名にそのまま返しちゃったよ!
「えっ、えっ? ゾンビノートって」
「その前にまずは自己紹介しませんか?」
今度は亜麻色髪の美少女が言う。
「あ、は、はいそうですね……ええと」
俺は後ろを振り向き、そこに並んで立つ二人と一匹と視線を合わせた。秋月ちゃんは何やら訝しげな顔をしていて、チョコ太郎は念のためしばらくは喋らないようにとじっとしている。ちなみにヤス兄貴は本日何本目かの煙草をスパスパ吸って
「ってうおお――い!?」
俺は慌ててヤス兄貴の肩を掴み女子高生たちに背を向けるようにして部屋の隅っこへと連れて行く。
「ちょ、兄貴! さすがに教室では禁煙でお願いしますって! しかも子供の前でしょ!? 何してんスか!?」
いくら俺が童貞の万年さみしんぼおじさんだったとしても、煙草が子供の身体に対して悪影響だってことくらいはさすがに知っている。が、兄貴は心底くだらないとばかりに顔を顰め
「あー? 煙草なんて俺ぁ赤ん坊の頃から吸ってたぞ。おやつみてーなもんだろ」
「全然ちげえわ! っていうか、この煙草どうしたんですか? 元々持ってたやつじゃないですよね?」
「おーさっきの校舎で死んでたジジイのズボンから盗ったわー」
「何してんのあんた」
盗ったわーじゃねええええええ
金目の物を探してるついでに死体漁り……いやゾンビ漁りか? して煙草まで拝借していたとは。
俺が大きな溜め息を吐いたところで、四人組の方からわざとらしい咳払いが聞こえた。
「あの、もういいですか? とりあえず座って話したいんだけど」
「あ、ハイ」
ひえーめちゃくちゃ睨まれるぅぅぅ。しかもなんか俺が怒られたみたいな空気になってるのが解せないんですけど!? ヤス兄貴はそんな俺を見てニヤニヤしてるし、いつのまにか煙草も携帯灰皿にしまっていやがるし!
くそー! してやったりじゃないからな!?
そんな感じで俺たちは横並びに着席して、その向かい側に女子高生たちが座る。
「えーと、俺は山本紘太です。三十歳で、えー、ふつーの元サラリーマン……でいいのかな」
「……草加秋月。ふつーの県立校の、高三です。この子は私の愛犬のチョコ太郎。海外の大型犬で、かなり大きいけど優しい子だから安心してください」
「……ハッ、わっわんわわん!(棒読み)」
「…………
「えっ」
「なんだよ」
「い、いえ別に!?」
まじか。ヤス兄貴のヤスって名字のヤスだったのかよ。ってか名前初めて聞いたな。
俺たちの自己紹介が終わると
「じゃあまずは私から。聖エーデル女子学院高等部三年、
リーダーぽい子が背筋をピンと張り、軽く会釈した。
「私は
「はわっ、そ、
「ウィス。
それに続くように残りの三人も自己紹介する。
にしても学年がばらばらな所を察する限り元々四人は友達同士ってわけじゃなさそうだ。キャラもなんていうか、ばらばらだしな。柚木さんは凛とした雰囲気が魅力的でポニーテールの似合うクール系美少女。天乃宮さんは亜麻色のふんわりセミロングが似合う、所謂ゆるふわ系美少女。空芝さんはまだ中学生ってこともありかなり幼く見える文学系ロリッ子美少女。涼風さんはファッションモデルでもやってそうな今風のギャル系美少女。
うお、つまり全員美少女じゃねえか。いや俺はそういう邪な目では絶対見ないけどね!? ノータッチミセイネン! ダメゼッタイ!
そこからはお互い今までどうやって生き残ってきたのかを話し合う。俺たちの方は細かいところ……まあ俺の異能力チートやらを伏せて大雑把に説明をした。
そして彼女たちの話が始まったのだが、ぶっちゃけ驚きの連続だった。ゾンビパンデミック当初に早々と校舎一棟を閉鎖したこと。元同級生だろうとゾンビには徹底して対応したこと。屋上にあるソーラーパネルと菜園で自給自足の生活をしてきたこと。なんていうか、まだみんな子供なのに俺なんかより全然しっかりしていた。俺なんて部屋に引きこもってネットしてたぞ……あ。やだ、なんか恥ずかしい! むしろ情けなくなってきた!
「それで、このノートは私たちの活動の成果なんです」
柚木さんが机の上に置かれていたノートを手に取る。
「えっと、ゾンビノート……でしたっけ?」
女子高生が持つには随分と名前がアレなノートだなあ。さすがに名前を書かれた人間がゾンビになる! とかじゃないのは確かだろうけどさ。え、そうだよね?
「そのノートが活動の成果っていうのはどういう意味ですか?」
隣に座っている秋月ちゃんが尋ねると、柚木さんが「つまり、私たちはゾンビが発生してからここに閉じこもってただけじゃないってこと」と答える。
「かおるん」
「うん」
すると今度は天乃宮さんが説明してくれた。
「ええと、要するにですね。生き残るにはゾンビを知る必要があると思いまして、私たちでゾンビの生態や対抗策をいろいろ調べて、実験とかもしたりして、それをノートにまとめてきたんです。ほら、ゾンビはゾンビでもいろいろタイプとかあるじゃないですか。ホラー映画でも歩くゾンビと走るゾンビがいるように」
「ま、まじか」
おいおいおい。ゾンビ実験とか。嘘だろ? この子たちすごすぎないか? とんだスーパー女子高生じゃないか! そんなの大人でもそうやすやすと出来ないって!
でもたしかに彼女たちの意見は真っ当かもしれないな。ようするに、本気で敵と戦う為には敵を知る必要があるってことだ。
「あの、そのノートって俺たちにも見せてくれたり……」
「ええいいですよ」
どうぞ、と天乃宮さんがノートを渡してくれた。あちゃあだめだ。ゆるふわな優しい笑顔におじさんおもわず頬が緩んじゃうなあ。
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