マネートラップ 三流詐欺師と謎の御曹司

木崎ちあき/メディアワークス文庫

マネートラップ 三流詐欺師と謎の御曹司

プロローグ


「──MIコンサルティングのまつながです、いつもお世話になっております」

 とにかく笑顔で、明るく、快活に。電話の相手に向かって、俺は普段よりワントーン上げた声で語りかけた。

 耳に当てた携帯電話から相手の返事が聞こえてくる。ああ、松永さん、ご連絡ありがとうございます──明るい声だ。感触は悪くない。

よしざわ様、さっそくご入金いただきありがとうございました。……ええ、たしかに百五十万、確認いたしました、はい」

 現金百五十万円が入ったビジネスバッグをいちべつし、俺はさらに目を細めた。これ以上ないほどの愛想を声に詰め込み、これ以上ないほどの満面の笑みを浮かべて言葉を続ける。

「いえいえこちらこそ、いつもありがとうございます。また来月、ご連絡いたしますね。今後ともよろしくお願いいたします。はい、はい、それでは」

 電話を切った瞬間、俺の顔から笑みがすっと消えた。無表情のまま、手に持っているプリペイド式の携帯電話を背後のがわへと投げ入れる。ぽちゃん、と水に沈む音が聞こえたところで、俺は背中を預けていた橋のらんかんから体を起こした。

 ──馬鹿なやつだ。

 にやりと口の端を上げる。

 計画は大成功。無事にひと仕事終えたお祝いがてら、一杯ひっかけに街へと繰り出す。ふくはくであいばしをスキップで渡りたい気分だった。

 この吉沢という男と連絡を取ることはもう二度とない。来月連絡するというのは真っ赤な?うそだ。

 さらに言えば、MIコンサルティングの松永──そんな奴はこの世に存在しない。これも?。

 先に自己紹介をしておこう。

 俺の名前はおおがねみちる。年は二十九。

 職業は、ただの詐欺師だ。



 

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