F.F

@code513

第1話

橘ユフィ。それが俺の好きな人だ。名前から分かる通り、彼女はハーフだ。彼女のお母さんが日本人でお父さんがアメリカ人だと四月の自己紹介の時に言っていた。そのためだろうか。彼女はとてもフレンドリーで学校中の人は先輩、後輩、同学年含めて、一回は話したことがあるのではないかと思うほどだ。

俺は同じクラスだから、彼女はよく話しかけてくれる。今日はFirst.Fantasy。通称FFの話を友人としていたら、途中で彼女も会話に入り楽しく話した。どうやら彼女の父はゲーム好きらしく、その影響で彼女も少しはやるようだった。しかも、FFⅠから持っているらしかった。それを聞いた友人が「えっ、ちょーすげーじゃん。ちょー見てみてー」なんて言ったら、彼女が「じゃあ、今日家来る?」と誘ってくれた。

「行きます」

気がつくと、俺は敬語で食い気味に答えていた。

彼女が少し引いていたのは、俺が気持ち悪かったのではなく、俺のゲーム好きの熱に当てられたからだ。きっとそうだ。そうに違いない。お願い、そうだと思っていて。


そんなわけで、今俺は彼女の家の前にいた。何故か知らないが、俺の一歳年下の弟と一緒に……。我が友は用事があるから行けない、と言っていたので、もしかして二人っきりとドキドキしながら彼女の家に行く途中、「あれ、どっか行くの兄さん」と下校中の弟と鉢合わせてしまった。そして弟も一緒に橘さんの家に遊びに行くことになったのだ。

この愚弟め!せっかく二人っきりだと思ったのに。

「橘先輩のやっぱり家結構大きいですね」なんて言ってる弟を横目に見る。もしかしてと思っていたが弟は橘さんのことが好きなのかもしれない。思い返してみると中学校の時は野球部だったのに、高校に入ってからは彼女が入っている英会話クラブに入ったり。俺が弁当を持ってくるのを忘れたら、わざわざ俺の教室に持って来てくれていた。

もしこれらのことが、俺への善意からではなく、唯彼女の視界に入ろうという魂胆があったとしたら……。わざわざ兄のために先輩の教室に勇気をもって入ってくる、優しさアピールだったとしたら……。

まずい、非常にまずい。

弟は俺より、社交的でコミュ力があり、話しかけやすく話しやすい。

こいつが恋のライバルだったら、勝てる気がしない。

いや待て、大丈夫だ。俺の方が一年早く彼女に出会っている。例え同じクラブに入っていようが、まだ3ヶ月といったところ。最悪互角だが、まだこちらにアドバンテージがあるはずだ!

そう自分に喝を入れると、彼女や弟に続いて家に入る。

「ただいま」

「おじゃまします」

「はい、いらっしゃい」と、優しそうな雰囲気の女性が出迎えてくれた。きっとユフィのお母さんだろう。橘ユフィと輪郭や目元がとってもよく似ていた。

ブランドで光に反射してきらめくユフィの髪とは違って、艶のある黒色だった。

「ちょっとお父さんの部屋から探して持ってくるから、リビングで待ってて」と言うとユフィは階段を駆け上がるっていった。

俺と弟は、ユフィのお母さんに案内されリビングのソファーに腰を下ろした。自分の家のソファーと違いとてもフワフワしていた。

そして、俺はソワソワしていた。

落ち着かない。女子の家なんて、小学校以来だぞ!しかも好きな子の家なんて!

落ち着け。このままソワソワしてたら、キモがられる。

とりあえず深呼吸をした。そうすると、家の中の様子がゆっくりと認識できるようになっていった。

南側に大きな窓に木目調の床。部屋の隅には観葉植物。ボートの上にはお洒落な小物とワインボトルが置いてあり、白い壁にはコルクボードに写真が貼ってあった。ソファーの前には、ゲームが楽しめるように46V型のテレビと横には高そうなスピーカーがあった。

父が掘り当てて来た恐竜のうんこの化石が飾ってあるウチとは雲泥の差だ。

そんな自分の家とは違う洒落た空間でも弟は堂々と隣に座り、携帯をいじっていた。

女子の家経験値が違いすぎた。

なんてやつだ。俺なんて集合写真の時みたいに膝の上に拳を乗せて固まっているというのに。

「はい、お菓子。よかったら食べて」とお母さんが紅茶とクッキーを持ってきてくれた。

「「ありがとうございます」」

「ミルクと砂糖はいる?」

俺は角砂糖を二つ入れ紅茶を口に含み、紅茶を味わっていると「ただいま」と少し独特のイントネーションの日本語を話す男の声と共に玄関が開く音がした。

まさか!

たまらず壁に掛かっている時計を見る。

まだ4時だぞ、仕事終わりにしては早すぎないか?

ムリムリムリ!いきなりお父さん登場。しかも外国の人なんてハードル高すぎだろ!

兄がいるなんて聞いてないけど、せめてお兄さん登場でお願いします!

そんな希望も虚しく、リビングにユフィのお父さんが入ってきた。

スキンヘッドだった。

てっきりユフィ同様、輝くブロンドの髪かと思ったら、頭皮が輝くタイプだった。

身体が高いとか、瞳の色が黒じゃないとか、様々な特徴があるのにもかかわらず、俺の頭はユフィの父の頭でいっぱいだった。

「あら、どうしたの?いつもより早い帰宅だけどなんかあった?」

「いや、特にやることもなかったからサボってきた」

「なんだ、よかった」

ユフィの母は胸を下ろした。

いやいや、ユフィのお母さんサボってこと、つっこもうよ!おかしいでしょ!

「こんな時間に帰ってくるのは初めてだがらなんかあったのかと思っちゃたわ」

てか、今日に限ってサボってんじゃねぇよ!

いや、落ち着けとりあえず挨拶しなきゃ。第一印象は大事だ。将来、家族になるのかもしれない。俺はソファーから立ち上がり、挨拶をしようとした

「おじゃましてま……」

「おや、鳴海じゃないか、いらっしゃっい」

「お邪魔してます、P.Pさん。それと隣にいるのが僕の兄さん」

「え、あっ、えーと、お邪魔してます。娘さんと同じクラスで、鳴海の兄の海斗です。はじめまして」

「おおぉ、君が海斗君か娘からよく聞いてるよ」

あれ、なんかおかしくね?なんか弟と知り合いっぽくね?それより、いま弟、P.Pさんって言わなかった?PPさんってなに?パパの略?え、なに。それって、お義父さんってこと。行くとこまで行っちゃったってこと?親公認ってことぉぉ⁉︎

えぇぇぇぇ!まだ互角だと思ってたけど、一回の表コールド負け?いや、まだだ。まだハッキリと試合終了のコールはされてない。まだ土を拾うには早いはず!!

「そうですか……。あの、俺の弟と知り合いなのですか?」

できる限る平静を装って声を出す。大丈夫?俺の声震えてない、涙声になってない?

「あれ、兄さんに言ってなかったっけ?ほら、1ヶ月前。兄さんが風邪ひいて行けなかったFFのオフ会、僕が代わりに行ったときにあったんだ。

ねっ、PPさん」

「ええ、偶然鳴海が落とした生徒手帳を拾ってね、娘と同じ学校だったから、話しかけたんだ。そしたら、娘と同じクラブっていうじゃないか。だから娘の学校生活が気になってね。たくさん話したんだ。今ではメル友だよ」

「へぇぇ、そうなんですか。ということはPPっていうのはハンドルネームですか?」

「そうでだよ。ピーター・ポールでP・Pただのイニシャルさ」

ホッと一息をつく、よかったぁぁ。PPはパパじゃないのか。ああ、よかった。

じゃないだろ!弟め、確実に外堀を埋めていってやがるっ!なんて策士だ。俺が互角だったと油断しているうちに、素手に相手の懐に入り込んでいるだとぉぉぉ!

まずい。非常にまずい。PPがパパじゃないと喜んでいる場合じゃない。俺も早く手を打たないと!

「じゃあ、俺ともメル友になりませんか。FF友達として」

将を射んと欲すればまず馬を射よ。まずお父さんを攻略して俺も外堀を埋めてやる。

「ぜひ、お願いするよ。やっぱり友達は多い方がいいからね。これからは海斗君もぜひ僕のことをPPと呼んでくれ」

「じゃあ、僕のこともハンドルネームのケイトって呼んでください」と言いつつメアドを交換する。

これでPPをパパと言えることに一歩近づいた。

「じゃあ僕は鳴海じゃなくて、シールって呼んで」

ちっ。やはり便乗してきたか。お互いニックネームで呼び合うことで、弟よりPPと仲良くなろうと思っていたのに。

「じゃあ私のことは、マムと呼んで」

なんかお母さんも便乗してきたぁぁぁ。しかもマムってmom?お母さんってことか?えっそれって公認ってこと?と悩んでいると

ユフィがFFコレクションが入った箱を抱えてリビングに入ってきた。

「なんでマムなの叔母さんなのに」

母親じゃないのかよ!

「なんとなくかな?」と言いながらニヤリとこっちを見た。

わかった、この人ただ俺をからかってあそんでただけだ。

「あっ、パパお帰り。鳴海君と海斗君がパパのFFコレクション見たいっていうから、持ってきたんだけど見せていいよね」

「あぁ。もちろんいいとも。二人は友達だからね。そうだ!今日は早く帰ってきたし、皆んなでFFをやらないか」

「いいですね!やりましょう」俺の野望の為に。


そして俺達兄弟と橘家の皆で2時間ほど仲良くゲームをした。


「「じゃあ、お邪魔しました」」

俺と弟は靴を履くと振り向いて、見送りに玄関まで来てくれた橘家に頭を下げる

「うん、二人とも気をつけて帰ってね」

「また、いっしょにゲームしょうね。ケイト、シール」

「はい、また一緒にやりましょう」

俺と弟は橘家を後にした。


今日の恋の成果報告

橘ユフィの家に行き、ユフィのFarther友達Friendになりました。











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