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青辺 獄

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 あなたは第二次選考落選の選評に私への悪口を書いて居られる。「前略。――異世界が舞台なのに、現実の文化が残っていることに違和感がありました。もっと勉強しましょう」

 おたがいに下手な嘘はつかないことにしよう。私はあなたの文章をもらった手紙で読み、たいへん不愉快であった。「太陽のノア」は八年前、私、二十四歳の夏に書いたものである。「ばらばら☆ぷりんせす」という題であった。それは、現在のものにくらべて、たいへん萌えを意識したものであった。そのとしの夏、東日本に大震災が起きて考えさせられ、私のその原始的な端正でさえあった「ばらばら☆ぷりんせす」という作品を切りきざんで、災厄から立ち上がる人間の強さを作中の随所に出没させ、日本にまだないラノベだと威張ってまわった。友人達にも読んでもらって、評判がよい。元気を得て、さらに手を入れ、消し去り書き加え、五回ほど清書し直して、それから大事にクラウドに保存して置いた。今年の正月ごろ友人のイラストレーターがそれを読み、これは、君、傑作だ、どこかの新人賞に送れ、と言った。

 八月の末、二次選考落選の選評を読んだところに、あなたの文章があった。「ヒロインをもっとかわいく書きましょう。ゴキブリを食べる女の子はさすがに引きます、云々。」事実、私は憤怒に燃えた。幾夜も寝苦しい思いをした。

 異世界に転生し、パンツを見るのがそんなに立派なラノベなのか。刺す。そうも思った。大悪党だと思った。だいたい「太陽のノア」は異世界ではなく、未来の地球が舞台である。現実の文化が残っているのは当然のことで、もっと勉強しましょうという言葉は、MF文庫J、あなたにこそふさわしい。

 私はいま、あなたと智慧くらべをしようとしているのではありません。私は、あなたのあの文章の中に「萌えの惰性」を感じ、「現実世界」のせつなさを嗅いだ。私はそれを二三のひたむきな読者に知らせたいだけなのです。それは知らせなければならないことです。私たちは、もうそろそろ、都合のいい異世界転生に飽きはじめているのだ。

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