幼馴染でも恋人でもなくて
おおぞら
この関係に名前をつけるなら
一人暮らし二年目の夏、天の川が綺麗な暑い夜だったかな。急な来客で驚いて、覗き穴を見て急いで開ける。最近すっかり男前になったアイツだ。
「ごめん、どうしても伝えたいことがあって」
「いや、いいけど。でもそんなのLINEでさ。なにも……」
なにもわざわざ家に来なくたって。そう言い切る前に聞こえた言葉……どうして。思わずそんな言葉が浮かんだ。
「ずっと前から好きだった。俺と付き合ってほしい」
……幼馴染だったアイツに告白された。それはもう頬を赤く染めつつ。
ずっと前からって
一方、そんな私が出した答えは、
「ほ、ほ、保留でお願いします……」
考えてほしい。幼馴染だった、いわば親友ともいえる相手から告白されることを。対する私も、そんなの勝手な考えで、アイツはそう思ってなかったんだってことぐらい考えたらわかることなんだけれど。
「……わかった。じゃあ、またね」
普段は余裕ありげで、カッコつけのアイツが頬を赤くしながら告白をしてきた。だから曖昧な返事で終わらせちゃいけない。それなのにあの返事は誠意さの欠片もないじゃないか。そんな風にモヤモヤした気持ちを抱えたまま、その日はほとんど眠れなかった。
※※※※
告白された日から、私はアイツに会っても前のように話せなくなってしまった。曖昧な返事をした自分のせいなのはわかっているのだけれど。
一方で、アイツは、
「おはよ、お前ひどい顔だぞ? ちゃんと寝たのかよ」
「メシいかね? めちゃくちゃ腹減った!」
告白の前と同じ、いつものアイツだった。これは彼の優しさだろう。私が気負いしないようにしてくれたのだろう。しかしその時の私はそんなアイツに対して、
「あ、うん……ううん、寝てない、かな」
だの、
「ご飯……ううん、行かない……、ごめん。やっぱ行く」
だの、また曖昧な言葉を、どっちつかずの言葉を返してしまっていた。アイツの優しさすらも曖昧にしてしまったのだ。
その後はずっとが気になって
そんなこんなで紅葉の綺麗な季節になっても、この名前もわからない関係を続けてしまっていた。アイツは何も変わらず、前みたいな口ぶりで、態度で接してくれていた。変わったのはむしろ私の方で、アイツの一挙手一投足が気になって仕方がなくなっていた。これじゃあまるで、、、そう考えるが、これ以上考えるのを放棄して、アイツの優しさに甘えていた。
どうしてアイツはそんなことができるんだろう。わからなかった。
だから、聞いてみたくなったのだ、だから携帯を取り出し、LINEで、、、いやダメだ。会いに行く。
あの日と同じような時間帯。あの日とシチュエーション、違うのは来客が私で、驚くのがアイツってことと、肌寒くなった外の気温ぐらいだったかな。
「どうして、いつものようにいられるの? 優しさ?」
言葉はすんなりと出た。いろいろと足りない言葉だったけれど察してくれたのか、いつものような余裕ありげな笑みで、
「どうしてって、俺やオマエの中身が変わったわけじゃないからだよ。優しさじゃないよ」
「……どういうこと?」
「幼馴染とか、親友とか恋人とか、それってただの器だと思う。器の中身は全く変わってないんじゃないかな」
「……!」
その言葉で曖昧だった自分の考え、思いが整理できた。要は、私は怖かっただけなのだ。幼馴染、親友だった関係が崩れることが。
それが分かった瞬間、保留していた答えが頭の中に出てきていた。
「器、移し替えてもいい……かな?」
「いつでも準備できてるよ」
訂正、肌寒いはずなのに、顔だけあの日と同じ暑さだった。
幼馴染でも恋人でもなくて おおぞら @Ciel-8690
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