22.謝罪

 日曜日の既に日が落ちた遅い時刻の帰り道とあって、俺は香澄と一緒に下校した。香澄の家の最寄りの角で別れ俺は駅前に向かう。

 田舎の小さな無人駅の小さなロータリーには家族か誰かの到着待ちらしい出迎えの車が一台停まっているだけだ。


 ロータリーから北へと延びる駅前通りへと折れると、すぐ右手に花屋があり、営業を終えて薄暗くなっているその軒下で、うずくまっていた影が立ち上がった。


「こうちゃん」

 千鶴だ。

「遅かったね」

 へらへら笑ったかと思えば頬がひくひくして、あっという間に泣き顔に変わった。

「こうちゃん、ごめんね。ごめんね、怒らないでよ……」


 いい歳をして、きれいな格好で、黙って立っていれば有象無象が寄ってくるであろう俺の千鶴は、ぐしぐしと手の甲で目の下をぬぐいながら子どもみたいに泣いている。


 俺は自転車を降りて千鶴の目の前に立った。

「ごめんって言うけど、何が悪かったのかわかってんの?」

「私が、かすみんのこと悪く言ったから……でも、それは私はこうちゃんのお姉ちゃんだから」

 俯いて少し口を尖らせ早口にまくしたてた千鶴は、ぽろぽろと大粒の涙を歩道に落とした。

「なのに、お、お姉ちゃんじゃないとか、なんで、そんなひどいこと言うのお。こうちゃんのばかー!」


 おい。おまえが俺に謝ってたんじゃないのか? 悪いと思ってたんじゃないのか? なのにどうして俺を責めるんだ?

 俺は重く息をついてから首を曲げて夜空を見上げる。街路の明るさで星はさがしにくいけれど、金星はよく見える。


「悪かったよ」

 村元に言われたからではないけれど、俺はとにかくそのことは謝る。

「姉貴じゃないなんて言って悪かった。ごめん」

 俺にとっては否定が肯定なことを、否定する。

「そうだよ、私はこうちゃんのお姉ちゃんなんだから。それは絶対なんだから」

 あくまで肯定し続ける者の強さで、千鶴は断言する。この強さに俺はきっと勝てない。


 ぐしぐし鼻をすすりながら千鶴はようやく俺の顔を見た。ちょうど街灯の下にいるから目がパンダになっているのがわかる。

「その前のこともさ、なんで俺が怒ってたんだと思ってんの?」

 笑いをかみ殺していたから迫力に欠ける声になっちまった。でもそれでよかったみたいだ。千鶴はきょとんと瞬きした後、いつもの調子でふにゃんと笑った。

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