生きる

@paruharu

第1話 おじいちゃん

「なんで生きているんだろう」


その答えを見つけた時、人生の終わりを遂げるのではないかと思っている。



11月19日


目が覚めると枕もとの時計は8時を指していた。よく寝たな~。なんて思っているとあることに気がつく。

「遅刻だ。」

特に急ぐそぶりも見せずに1階に降りていく。迎えに来てくれていた幼馴染には先に行ってもらい、自分はゆっくりと準備を始めた。

「あんまり莉子ちゃんに迷惑かけるんじゃないよ。」

母に言われたその一言でどこからともなく怒りの感情が襲ってきた。

「わかってるよ。」

ぶっきらぼうにそう答えると母はあからさまに機嫌を悪くした。ああ、メンドウクサイ

遅刻が日常的になっている今、朝の準備は手慣れたものだ。洗面台と顔を向き合わせ、そこから当たり前のようにあふれ出てくる温かいお水には何時もお世話になっている。

そんなことを当たり前と感じている人は、もう少し昔のことを知ったほうがいい。

と、そんなことを語っている私も平成生まれであって、昔のつらさを本当に知っているわけではない。

今の時代に感謝している、感謝をしている私は珍しい人間なのか。否、感謝をしないのがおかしい。

「行ってきます。」

返事はない。当たり前だ。私が最後に家を出たから。

バス停に向かう途中で小学生を見かけた。あの子も遅刻か。なんて思っていたら、左後方から、右前方へ長いものが道路を駆け抜けていく。

「あ」

声に出すより先に足を動かせ。と思うだろうが、そんなことはしない。無駄なエネルギーは消費しない。なら学校へ行くのも無駄ではないのか。と、何回も思うが

「今でも学校へ行けない人がいるんだからその子たちのためにも行きなさい。」なんてことを言われた。代わりに学校へ行ってほしい。なんて思うが、まあそんなことは無理だろう。

私はきれいごとを抜かす大人が大っ嫌いだ。世の中はそんなきれいにできていない。そんなことは何十年か長く生きている大人がいちばんわかっているはずなのに、

 あなたのためを思って言ってる。

 目覚ましなさい。だの、ウルサイナァ

目を覚ましたほうがいいのはアンタラだ。夢見がちな大人はたちが悪い。

頑固で意地っ張りなんだ。喧嘩したって最終的に首を垂れるのは子供のほうだ。自分が悪いのに、それにいら立って無理やりないちゃもんをつけて謝らせてくる。

謝らせることで何かを得ることができるのだろうか。優越感?憂さ晴らし?そんなこと知ったものか。八つ当たりはやめろ。子供の、否、弱き者の叫びだ。

「ありがとうございます」

バスを降りた。そこからさらにバスを乗り換えて学校へ向かう。

「あの、ちょっといいですか?」

「どうしました?」

バス停で待っているとおじいさんが声をかけてきた。

「ここから北の駅ってどうやって行くんですか?」

「次のバスに乗れば行けますよ。終点が北駅なので。」

「ありがとう」

会釈をしてスマホとにらめっこしているが、どうもおじいさんの行動が気になる。バス停に貼ってある時刻表を見て長駅を指している。北駅に行くんじゃなかったの?

「ここから北駅行けるの?」

「行けますよ。終点まで乗ってれば着きますから。北駅でいいんですよね?長駅じゃないですよね?」

「乗ってれば着くんだね。ありがとう。」

そう言ってまた長駅の時刻表を見始めた。少し嫌悪感を感じた。

「うちの息子がね~」

と話し始めたが正直,何を言っているかわからない。多分歯が抜けている。ただ、楽しそうに話しているので、少しばかり冷たい青い小鳥の画面にさよならを告げ、ポケットにしまった。

話を聞こうと意気込んだものの、本当にわからないので目を見て相槌をうった。こんなに長く感じる10分間はこれまでにあっただろうか。いつもすることがなくてもスマホを持ってみれば

一瞬で10分という時間を無駄にする。英語はそこそこ話せるし、聞き取れるが、歯のないおじいちゃん語は世界に誇れる難しさだなと思う。

右目の片隅に一筋の光が舞い込んできた。バスだ。バスが来た。今回ばかりは本当に感謝した。

ポケットからスマホを取り出しいじっていると、20分近くかかる道のりはあっという間に目的地に着いた。スマホって怖いなと心の中でつぶやき定期券を取り出し

「ありがとうございます」

とバスを降りる。学校についた。

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