デートする日には、やはり手を繋ぎたい。

奥野鷹弘

2歩進んでは1歩下がるの3度目には

 ―—―たとえ両想いでも、それぞれがそれぞれの両想いのように物事は進まない。それは、口にしなくても前ぶりをしなくても誰もがもう知っている”想い”の壁。でもだからこそ乗り越えていく様の過程は、ハラハラドキドキする。


 「あとは・・手を握るだけ。」---?



 いつもの待ち合わせのバスターミナル。今日は中学校では卒業式があるばかりに、待ち合わせ時間帯にはお祝いし合おうという子たちで溢れている。その渦巻く建物の中であるふたりは同じ場所でため息をついていた。

 「おれ、着いた・・んだけど」

 「私も着いてるのだけど・・・」

 「「どこ!!」」

ふたりは同時に連絡し合った。電話しても、若い子たちのバス待ちの声が邪魔して聴こえないだろうと出来ないと踏んでのメッセージだった。だからお互いにお互いで「バスターミナル」とだけ書いてしまい、捜し合っている。そしてわずかな時間だったがそんな賑やかな空間が静まり返って、ふたりは顔を見合わせた。

 「っ、お前だったのかよ!!」

 「直人だったの??」

どうやらふたりは、そんな賑やかな空間になる前にお互いを認識していたらしい。


 直人の不手際からレストランの予約がとれていなく、いつものファーストフード店でふたりは語る。

 「ったく、お前ってやつは…栞は。なんでそう、こういう時に限ってめんどくさい格好してくるんかな~。」

 「悪かったね!直人だってね、コーヒーなんか買って飲み歩いているから他人だと思ったじゃない!」

 「とにかく、俺たちには”普通”が一番なんだよ、な。」

 「ひっどい。まぁ解りたいけどさ、でもバレンタ・・」

 勘を働きすぎた直人は、栞の言葉を最後まで聞かずに冷や汗をかいて目の行き場を無くす。また栞も何もないかのように、サンウィンドウに目を向ける。

 「ん?ぇえ、バレた?栞の母にバレたのか?(なんでヒラヒラなんだよ。いつも着ないくせに。)」

 「直人こそ、今日はふたりで決める『デート』だからこそって言いながら、口が滑って”お手伝い”をしてもらったんじゃないの~??(そんなわけないじゃん!でも、お菓子を久々に焼いちゃったからバレているかも・・)」

 「栞のかぁさんにバレたらどうなるか知っているかぁ?俺のかぁさん、お前のところと職場が一緒なんだから…休んでまでしてストーカーしに来るんだぞ??(しおりのかぁちゃんも、俺のこと好きらしいからな)」

 「直人こそ、余計なこと云ってないわよね??私だってイヤなんだから。どこまで進展あったのって?(夜は越えたの?とか)進展どころか、告白すらも・・」

 「?!!っ、、ばっ、ばっかいんじゃねぇよ。そんなものなホストにでも行って口説かれて来いよっ、(あれ、なんか息が苦しい。だから、今日がその答えの日だったじゃないか、)」

 「直人、うるさい。ほら、観て。私たち見られているの、ね、静かにして。(やばい、もう新しい服なのに紅茶を垂らしちゃったじゃない。しかも白いから目立つし・・)」


 「あのぉ・・・お客さん、ちょっとお声を・・」


 「「あ、・・今出ます(やっちゃった~。)」」

そんなこんなで店員さんに注意され、気持ちが落ち着かないままふたりは外へと繰り出すことにした。



 「それにしてもびっくりしたわ。今日は中学校の卒業式だったんだね。」

 「あぁ、そうだったんだな。あれから約10年ってことか。」

 「あの子たちを見ていると思い出すっていうか、なんか引きずっているというか、憧れに抱く人って大体私たちの今の年頃だから、やっぱりなんか複雑だね。」

 「おぅ、そうだよな。俺が好きで見ていたモデルも、今の俺がしていたってことになるもんな。マネはしていても、やっぱり叶わなかったし、早く大人になりたいってほざいてたんもんなぁ。」

 「ね。それで、直人は先生に呼び出されたあとには必ず私に泣きついてきて、カッコ悪いものを『カッコ悪い』と私は言った次の日に元通りの直人になるというね。『カッコ悪いね』。(そのころから、待ってたんだけどなぁ・・)」

 「ホントよ、っま。栞が言ってくれなかったら本当に、カッコ悪かったかもしれないしな。今日の服も、チョイスだし。(服に自信なくて、おかぁちゃんに選んでもらってしまった・・)」

 「”チョイス”?ふん、へぇ~。やっぱりそうだったんだ。(やっぱり、服選んでもらっていたのね。いつも色と服装合っていないんだもん。私を使えばいいのに。)」

 「ぁあ、もう・・バレちゃったかぁ。そう、選んでもらって、それを着て来た。(コーヒーで落ち着かせようよ思ったけど、コーヒー=服じゃないもんな。あれ、胸元のシミ・・)」

 「え?私、服の話をしてないけど・・。そうだったの?というか、いや(服の話するんじゃなかった‥。そういえば、私の服はシミがとれていない紅茶が‥。てか)」

 「どこ視てるのよ?!!」

 「え?胸。」


 「ハッキリ言うんじゃなーーーーーーーいッ!!」


 朝から快晴であったがためか、夕方は細くてまだ冷え冷えする。それでもお互いふたりはそんな寒さを感じさせない何かで、柔らかくそして強く温められていた。まだ中心部だから食べ歩きが出来るものの、地元から離れることを選ばなかったふたりは地元を想い静かに肩を並べ未来を語り当たっていた。


 「お前、栞さ。クッキーを焼いてきたんだろ?」

 「うん、なんでわかったの?私カバン目の前開いたりしていなかったじゃん。」

 「わかるよ。ほら、お前の手・・・」

 大切な何かを触るように、彼はそっと栞の手を引き寄せた。そしてわずかに見え隠れ、いや隠されていた絆創膏を見分け直人は優しくなでた。

 「”ヤケド”したんだろう?栞はいつもそうだ。なにかが次の予定があるというのに、思い付きで想いのプレゼントを追加する。担任の移動が判った時や、誰かが旅立つ日、そして栞が大切にしたいと思っている人に会う時に。今日ぐらいは、栞、そのままで良かったのによ。」

 「っうるさいわね、クッキー、食べたいの?食べたくないの?」

 「、食べたい。」

 「っていうか、逆じゃない?昨日はホワイトデー。バレンタン、それは先月で~。今日は、直人が返事する番じゃないの?」

 「そうか。」



 やけどの手を引き寄せられた痛さよりも、そのまま引っ張られて抱き寄せられた胸が何よりも痛かった。細くまっすぐに見水張りした傷跡よりも、くねくねした遠回りのような真っ直ぐな恋痕がふたりが丁度いいらしい。呼吸を忘れそうになったの感じ、鏡を映る自分のように口元を確認するどちらかふたり。磁石の極がそれぞれ決まったらあとは・・


〈プルうるるるるるうr・・・〉


「「えっ。」」


「「ごめん!」」



「もしもし、直人?いま、まずかった?」

「・・かぁさん。まずかったに決まっているだろ!!バッカやろー!!」

「ごめん、晩御飯のおかず・・もう一品ほしくってね。」

「それだけで、食べてろ!!」

「ぅん・・・。じゃああ、栞ちゃんと頑張ってねっ☆」



「ん?どうしたの、春太。」

「ねぇ、おねぇちゃんさ~。僕が遊んでいたゲーム知らない?」

「えぇ?春太、昨日、自分で友達に貸したから遊べないって愚痴ってたんじゃん。」

「・・・あ、忘れてた。」

「じゃぁ、ねぇちゃんのゲームで遊んでていい?」

「勝手に遊んでいいよ、」



「「はぁ~。」」

「だれだった?」

「春太~・・。」

「俺は、かぁさん。」


「また、私たち邪魔されちゃったね。ダメだね、何とかは何とかあるって口にしてちゃったばかりに。」

「いいよ。その代わりに、手を繋いで帰ろう。」

「直人のお母さんにまた、見つかったりしてね。」

「そんな不安は、今日でもう卒業さ。」

「そうかなぁ~。そういえば、私の服のシミ気にしたでしょ。」

「あぁ。」

「私、一応・・女の子なんだけどなぁ~」

「俺も、男なんだけどなぁ~」



「「ん??」」 

 


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デートする日には、やはり手を繋ぎたい。 奥野鷹弘 @takahiro_no_oku

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