好きならば攻略せよ!

姫宮未調

好きならば攻略せよ!

一大決心をした、親が帰ってこない今日。


「ねえ、侑希ゆうき? 」

「なに? 」

「きょ、今日うち来ない? 」


キョトンとされた。


「……今日は二人とも帰ってこないから二人きり、だよ? 」

「!? 」


お互い照れてしまう。

好きっていい。


……しかし、事件は下校時に起きた。


「ね? 手、繋いでいい? 」

「あ、ごめん。塞がってる」


帰り道、思わず欲しい文庫本を店頭で見つけて買ってしまったから、鞄に入らずぶら下げていた。


「……そんなこと言って、本当は俺と手繋ぎたくないんじゃないの? 」

「違うってばあ」

「じゃあなんで繋いでくれないの? 」

「だから、本で塞がってるんだって」

「俺より本が大事なの?! 」


こうなると手が付けられない。

片方にすると、手が痛くなるから嫌だった。


「片方だと手が痛いの。うちまで我慢して、ね? 」

「やだ、繋いでくれるまで動かない」

「子どもじゃないんだから」


取り敢えず歩いてくれたけど、後ろから。

何かブツブツ言っていて怖い。


「……ねえ」

「なに? 」

「やっぱりその本、返品してきてよ」

「え、なんで? やだ」

「……好きな男(キャラクター)いるんだろ?! 浮気だよ! 」

「二次元に嫉妬するのやめて! 」

「……やっぱり好きなやつ(キャラクター)いるんだ」


毎度毎度、同じような嫉妬をされる。

最初は嬉しいものだ。

だが度々されたらイラッとして、が入ってしまう。


「……あたしが自分に自信ないの知ってるくせによく言えるよね? そりゃあ、侑希はカッコイイもん。あたしじゃなくても寄ってくるでしょ。なんであたしなの? あたし可愛くないし、可愛げもないし。だから、恋愛小説読んで恋愛知って、少しでも頑張りたいんだよわかる?! 」

「俺には一番可愛いんだよ! 他のやつなんか知るかよ! 二次元のイチャイチャ見るより俺とイチャイチャしてればいいじゃん!

「だから、あたしのどこがいいのよ! ブスでデブで、性格こんなだし! イチャイチャとかわかんないよ! 侑希いつも困った顔するじゃん! 少しでも勉強したい気持ちもわかんないの?! あたしだって侑希が好きだから喜ばせたいよ! 」

「俺が甘やかせばいい話じゃん! 美来みくはただ甘えててよ! 俺だけ見ててよ!

「いつも言ってるじゃん! 甘え方わかんないんだってば! 恥ずかしいとか照れるとかはわかるよ、甘えるってどうすんの?! って毎回聞いてるのに教えてくれないじゃん!


毎度毎度、懲りずに気持ちをぶつけ合う。

結局はお互いがお互いの意図を汲めないまま、気まずい沈黙が流れる。


☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆


部屋でポテチとコーラをつまみながら、ベッドに寄り掛かりながら並ぶ。

肩がぶつかりそうでぶつからないギリギリの距離。

もどかしくて、切なくて。

そんな想いの中、録画していた恋愛ドラマを流し続ける。

もちろん、頭に内容なんて入っては来ない。


何も言ってくれない、何も言えない。

期待させて、期待して。

お互い動かない、動けない。


好きになるって簡単なようで、難しい。

そっと空いている手に触れようとして止めた。

お互いどこまで好きなのか、一方通行なのか。

悩んでもキリがなくて。

聞いても明確な応えなんて帰って来ない。

それは、自分の聞き方も悪いけれど。


「なあ」

「ねえ」

「何? 」

「そっちこそ」


沈黙が耐えきれなくて、考えもなしに口を開く。


「……俺、馬鹿だから、馬鹿だけど。美来が好きだから」

「あたしだって侑希が好きだよ。ねえ、どこが好きで好きって言ったの? 」


何度も聞いている質問。

いつも誤魔化してるのか、考えなしなのか、応えてくれない。きっと今回もと胸が痛くなる。


「…………」

「ねえ! なんで聞くと黙るの? 軽い気持ちで言ったの? じゃあなんで……うち来たの」


最後は小さくなる。哀しくて。


「…………」

「あたし不安なんだよ? 安心させてよ! どう好きでいてくれてるか。会話も噛み合わないし、怖いし! ねえ! 」


涙が出てきた。なんで何も言わないの。

視界がボヤける。溢れ出した涙は止まらない。


ふと、温かい感触に包まれた。

涙で視界では確認できず、抱きしめられていると認識したのは数秒後。


「……え? 」

「わかんない。でも、どうしようもなく美来が好きだから。抱きしめたいのも、手を繋ぎたいのも美来だけだから」


声が震えていた。

ああ、なんて不器用な人なんだろう。


「美来は可愛いよ。俺にはすべて可愛い。顔も声も話し方も、仕草もぜんぶ。他の誰かに見せたくないくらい。俺だけ見てて欲しい。誰かと話してるの見てるだけでも嫉妬しちゃう。……さっきの店員にだって嫉妬した。どうしようもないくらい好き」


付き合ってから気がついた。

お互い病んでいて、ベクトルの違う病み方をしているなって。

ダメな人だって知ったときにはもう好きで。

不器用なんだなって分かっていても、自己否定してしまう自分は明確な応えがほしくて。

お互いをまっすぐ見ているのに、通り抜けてしまう。

ずっとこのままじゃつらいだけだとわかってはいても、好きだから。


「あたしは侑希が好きなの。あたしに好きって初めて言ってくれて。あたしは自分が嫌いなのに、消えちゃえばいいのにって考えちゃうような人なのに言ってくれて。あたしは侑希のために自分を好きになりたいの」


背中に腕を回し、力を込める。


「……ごめんね。どこが好きでってわからない。ぜんぶとしか言えない。俺には美来だけだから、お願い。ずっと一緒にいよ」


純粋すぎて眩しい彼が好きだから。


──♪♪


着信音がした。

彼がゆっくりスマホを取り出す。

離れて後ろを向いた。


「あ、桜ちゃん? どうしたの? ごめん、明日学校でいい? ……」


──ブツッ


あたしの指は、赤い電話マークを押していた。


「……え?」

「え? じゃないよね? 桜って、隣のクラスの子だよね? どういうこと? ねえ、あたしには自分だけ見てろって言っといて、自分はいいの? 」

「ち、違うよ? 俺が好きなのは美来だけだよ! ホントだよ! 桜ちゃんは友だちで!

「じゃあ、『彼女のうちにいます』って今すぐメールでもLINEでもして! 」

「え、あの、それはその……」

「できないの? 浮気相手なの? 」

「違うよ! 違う! 」

「じゃあ、して」


青ざめた彼がしっかりLINEに返事するまでをみとどけた。

確かに彼の返事は浮気を匂わせないけど、相手の文面からは好意を感じた。


「友だちやめろとは言わないけど、ハッキリしてよね。……じゃないと、殺すよ? 」


あたしの中にドス黒い嫉妬が渦を巻く。


「……うん、ハッキリする」


そんな彼が取った行動。


「あ、桜ちゃん、ごめんね。俺、彼女が美来がホントに好きだからさ。もう連絡して来ないでね。バイバイ」

「え、そこまで……」


する必要はないと言いたかった。

けれど、あたしの言葉は続けられなかった。

彼の唇があたしの唇を塞いでいたから。

びっくりして固まってしまう。


「ごめんね。俺馬鹿だから、桜ちゃんが俺のこと好きだって言われるまで気が付かなかった。俺も美来だけだよ、大好き」


笑顔が可愛くて、胸が締めつけられた。


「美来が俺のこと、殺したいくらい好きだって知れてすごく嬉しかった。ごめんね、不安にさせて。えへへ、大好き」


そう言って、目の前で桜のアドレスやLINEを削除した。


ああ、普通の恋愛なんてあたしたちには無理だ。


──あたしたちはあたしたちの恋愛をしよう


Fin


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