この世界は

こんにゃく王子

第1話

ある朝の茶の間で

「臨時ニュースです。埼玉県入間市にて逃走中だった安田容疑者が逮捕されました。安田容疑者は当時5歳だった、、、」

「朝から暗いニュースばかりだな」

「ええ、そうね。こんなに小さい子を、、」

年配夫婦はそんな会話をしていた。コーヒーの匂いが立ち込める。

「そうだ、向井さんと麻雀の約束をしていたんだった」

「あら、そうなの? 世の中物騒だから気をつけるのよ」

「ああ、夕方までには戻るから」

それが夫の最後の言葉だった。夫は泣きじゃくる妻を見ていた。

「すまなかったな、洋子、、」

「あなた、あなた、、」

泣きじゃくる妻をただ眺めることしかできなかった。そこにスーツ姿の男が、タバコの匂いをさせて入ってくる。

「奥さん、犯人が見つかりました。これで、柊木さんも報われます」

「何が報われるものですか!!夫は返ってこないんです!!」

妻は目を充血させて咳き込んだ。犯人は懲役数十年という判決を下された。妻は思った。こんなのは違う。夫の価値はこんなやつの人生何年かけても釣り合わない。夫はそんな妻を天国から見守り、こう言った。

「釣り合わないのは問題ではなく、罪を犯した人間にも反省させる機会を与えるために、年数を決めるんだよ、洋子」

とは言ってみたものの、あまりにも妻が可哀想でならず夫はとある決断をした。その決断を神に訴えた。数年後、天界に時折鬼がやってきた時、決まってこう愚痴をこぼすことになった。

「地獄に来る奴が多すぎる」

テレビから報道番組が流れる。

「ハムラビ法典の復活で、世の中は良くなったのでしょうか?」

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