第十話 仲間の魔法使いはかわいいもの好き
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~マシュ視点~
「優はまだ帰ってこないのかな?」
既に扉の前についてから一時間近く経っている。そういえば仲間に入れてくれた嬉しさと勢いでここまで来てしまったが、自分は彼の実力を知らない。
仲間になることは受け入れてくれたが実は戦闘は初心者なのかも知れない。もしかしたら冒険者になったばかりの初心者ルーキーでほとんどなにも知らないまま仲間になったのかもしれない。そうなれば右はともかく左の道に進んでしまったら確実に死ぬだろう。
嫌がる素振りもなかったし断らなかったので大丈夫だと思ってしまったが実は断れなかっただけかもしれないし優しいから承諾してくれただけかもしれない。一時間来ないどころか扉も開かない、もしかしたら…と思ったと同時に体が動いていた。
「助けなきゃ!!」
急いで分かれ道の地点まで戻り左側の通路に進んでいった。
(左側の敵強いんだよね……わたしでも勝てるかなぁ……。魔法使えないし)
出てきたのはツラー。つららのモンスターで物理攻撃がかなり高い。
「“ラビットダガー”」
マシュが投げた複数のナイフがうさぎが跳ねるかのように壁に跳ね返りツラーに向かって飛んでいく。ナイフは全てツラーに命中し一体も残らずに粉々に砕いた。
マシュは敵の攻撃をかわしつつ急いで進んでいった。
「えっ、これって」
マシュが見たのはマジックバットの群れ。普段はここまで多くはないのだがマジックバットの特性として警戒しているときや怒っているときは仲間を呼ぶと言う。さらにその状態のときは攻撃的になるので普通は倒す必要がない限り警戒されないように通り抜ける。しかし優が初心者の冒険者ならこのことを知らない可能性がある。
(もしかして、優はここで……)
最悪の状況を想像している間にマジックバットに気づかれてしまい、マジックバットはマシュに向かって一斉に魔法を放ってきた。
(うぅ、ドライマジックがあればこんなの……)
ドライマジックとは、魔法を軽減する魔法。マジックバットは数こそ多いもの、一体一体の魔力はそこまで高くない。ドライマジックがあればマジックバット一体の魔法レベルならダメージをほとんど減らすことができる。
そして、マジックバットは円を描くように回り魔方陣を展開した。
「あっ、これってやばいかも」
大魔法は才能がある程度ある魔法使いが使うものだが息の合う者同士が協力すれば平凡以下の魔法使いでも使うことができる。ほかにも例外は存在するが、大体の一般的な大魔法の発動条件はこの二つ。
マジックバットは数も多く、個体としても同じで群れで行動する生き物のため後者の条件にはぴったり。
この洞窟で唯一大魔法を使用してくる危険性のある魔物のため、実はこの洞窟で一番討伐難易度が高く、注意すべき魔物なのだ。
この数のマジックバットが一匹一匹の魔力を一ヶ所に集めて魔方陣を展開させたとするなら少なくとも上級魔法、しかもかなり威力のたかいものだろう。
(だれかっ……!!)
やられると思い目を閉じた、そのとき。
「クー!」
誰かが目の前に立った。そして聞き覚えのある声の主は右手を前に向け
「“リフレクト”!」
そう言うと魔法の壁が出現し、マジックバットの放った魔法をひとつ残らず反射し、一匹残らず撃破した。
その助けてくれた聞き覚えのある声の主は
「優、なの?」
~優視点~
「ふぅ、間に合った~」
間一髪ってやつだね。
「優?本当に優なの?」
「はい、優さんですよ」ニコッ
「生きててよかったぁ~」
あれ? もしかして僕死んだ扱いされてた?
「僕死んだことにされてました?」
「い、いやわたしはただ優の実力を知らなかったから戦闘とか初心者だったらどうしようって思っただけで死んだとは思ってないよ」
よかった。マシュのなかで僕が死んだことにされてたわけじゃないようだ。まあ、戦闘初心者なのは事実なので
「まあ、戦闘初心者ですけど生きてますよ~」
と返した。
それを聞いてマシュは驚いた。優は確かに戦闘初心者と言った、でもさっき使った魔法は“リフレクト”。あらゆる魔力を使う攻撃を反射、相殺する魔法で幻とまでされるほどの最上級魔法だ。才能のある魔法使いがやっとリフレクトの一段階下のマジックリフレクターが使える。ましてや戦闘初心者が使えるような魔法ではない。
「あなた本当に何者なの?」
「はい?」
「いま使ったのはリフレクトでしょ?そんな最上級魔法を使えるのに戦闘初心者ってあり得ないと思うんだけど」
「ああ、それはこの指輪、正確には召喚獣のおかげかな」
というかリフレクトって最上級魔法だったんですか
「召喚獣?それにその指輪って絆の指輪?それって幻のアイテムよね?なんでそんなの持っているの?というかここに来るときはつけてなかったよね?」
質問が多いですマシュさん……
「ここの罠にかかっちゃってね、そこで見つけたんだ。で、この指輪にはいっているのがカーバンクルのクー。魔法を反射する力を持ってるんだって」
「そ、そうなのね」
この洞窟に罠なんてあったっけ?それにここはほぼ調べ尽くされているからそんな超レアアイテムが残っているはずはないんだけど。と、記憶をたどってみるが思い当たる場所はなかった。
「ほ、本当に?」
「うん、まさか落とし穴で5階まで落とされるとは思わなかったけど」
この洞窟に5階なんて存在しないはず、でも嘘をついてるようには見えない。殺意とかモンスターの気配もないので恐らく危険はない……だろう。
「クー、でておいで」
そう言うと指輪から小動物みたいな召喚獣が出てきた。
「かわいい!!」
そう言ってクーをぬいぐるみを扱うように頬をスリスリする。
(警戒心はどうした。)
どうやらマシュの中でクーのかわいさに警戒を忘れたみたいだ。ただ、このままにしておくと話が進まない。あとクーも生き物だしね
「あんまりやるとクーが嫌がるからさ、そのくらいにしてほしいかな」
「あっ、ごめんなさい。とりあえずは優のことを信用する。さっき助けてくれたし」
信用されてなかったのか。といっても戦闘初心者が普通に最上級魔法なんかつかってたら普通警戒するよね
「ありがとう」
とりあえず警戒度は下げてくれたみたいなので素直にお礼を言った
「じゃあスイッチを押しに行きましょう、すぐそこだから」
「了解」
そして、スイッチを押して扉に行くまで何事もなく進んでいった。
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