取りあえず紅茶が飲みたい

みし

取りあえず紅茶が飲みたい

「ちょっと、そこで何やってるの……」

 斗姫の声が聞こえる。斗姫は幼稚園以来の同級で知り合い以上友達未満である……。いわゆる腐れ縁の幼なじみと言う奴である。幼い頃からの暴れん坊で、俺はそれに何時も振り回されていたわけだが、高校になっていも振り回されているわけだ。高校も部活も一緒だ……無理矢理入れられた気もするが……あまりに腐れ縁すぎて頭を抱えてしまう毎日なのである。

 俺は部活の時間に斗姫と一緒に暗闇の中に閉じ込められている訳だ。

 突然、親友に羽交い締めにされ、そのまま暗闇に押し込まれたので状況が良く分からない……。あまりにヤバい事ばっかやらかしていたから制裁でも食らったのかとふと頭をよぎる。

周りはよく見えないが何やら狭い場所に閉じ込められた気もする。上から人の感触がする……斗姫の尻か……。

「何やってるのと言われても……ここで身動き取れる訳がないだろ」

 狭くて薄暗くて周りが見えない……そもそもここは何処だよ……それより上に乗っている斗姫の尻が重くて身動きが取れない訳で、この状況をどうにかしろと言われても俺がどうにかすることは出来ない訳である。まず斗姫、上からどけ……。

「とは言っても——この体勢はどうにかならないの——ちょ、何もぞもぞやっているの——変態」

 上に乗っかっているのはお前の方だろ……。お前がどかないと俺は動けないんだけど……。

「つーかお前重いんだよ……」

「今重いっていった……」

 なぜか斗姫の声が震えている……。慌てて俺は取り繕う。

「言葉の綾だ……ってば……おい、そこをつまむな……痛いだろ……」

 斗姫が俺の尻をまさぐった後、つねっている。尻をつねっている手を無理矢理どけると俺の手が斗姫の胸にあたる。斗姫の柔らかな弾力が手の甲が感じ取れる。

「……おっと……すまん」

 暗闇の中でまともに見えないはずなのに……顔が真っ赤だ。

「ちょっと……何しているのよ……」

「それより、お前が上に乗っているから俺が動けないんだけど……。まずどいてくれないか……」

「といっても暗くて周りが見なくて怖いんだけど……」

 斗姫の震えが伝わってくる。もちろん斗姫の尻を通してだが……。

「俺がそばに……いるから安心しろよ」

「誰が側に居ようが怖いものは怖いの……」

「お前、暗闇苦手だっけ……」

 昔の話を思い出してみるとそういえば、小学の時に言ったお化け屋敷は全然ダメだった気がする。それから中学の時に言った肝試しも苦手だった気がする。暗いところが苦手なのは筋金入りだったな……。

「手をつないで居てやるから安心しろ」

「ちゃんと手を握っていてね……」

 俺が手を握ると斗姫が俺の手をぎゅっと握り返してくる。柔らかい小さな手が、包み込む様な感触をもたらしてくる……。こいつの手ってこんなに柔らかったかと俺はふと思った。強く握ってきているはずなのに弱々しさを感じさせる……。胸がドキドキして、汗がだらだら噴き出してくる……

 いつは知り合い以上友人未満の暴力女だと思いなおした。

「いいから、さっさと動け……」

 斗姫が突然立ち上がると……叫んだ。

「なんだ、ここ部活の倉庫じゃない」

 確かによく見回すと見慣れた部活道具が、並んでいる。

 斗姫は、いきなり俺の手を振りほどくとさっさと控え室から出て行った……。

「いったい何だよあの女は……」


「……でもそう言うところが好きなんでしょ」

 暗闇の中から声が聞こえる

「ああ……いやいや、そんな訳がないだろ」

 そういいながら含み笑いをしながら倉庫の影から出てきたのは部長だ。含み笑いをしているのは高校内では聖母と言われているが、ただのいたずら好きである——聖母と言うより悪魔だ。また何か面白い事でも思いついたらしい。

「これ、部長が仕組んだのかよ……」

「もう少し面白いシーンが見られると思ったのに——案外あっさり終わってしまったようね。次はもっとお楽しみのシチュエーションにしてあげるからね。君もまんざらでも無かったでしょ……」

「——こういうのは辞めてくれ」

 俺は叫んだ。


 喉かわいたので取りあえず紅茶が飲みたい……。


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