スカイ・ナブ

エリー.ファー

スカイ・ナブ

「空を飛ぶ方法をご存知ですか。」

「知りません。帰っていいですか。」

「待って、ちょっと待って。」

「なんですか。」

「もう一回言うよ。ちゃんと聞いててね。いい。いくよ。」

「はい。」

「空を飛ぶ方法をご存知ですか。」

「知りません。帰っていいですか。」

 あたしの腕を引っ張って帰らないようにしてくる先輩はあたしよりも背が小さかった。

 本当に小さくて、他の男子から豆粒だと馬鹿にされていた。

 あたしはそこらの女子よりはかなり背が大きい。

 だから、先輩は絶対にあたしといるところを見られたくないだろうし、あたしが近くにいることで余計にコンプレックスの色が濃くなるはずだ。

 でも、先輩はあたしに優しい。

 あたしがどんなにつれない態度をとっても、先輩は何度も何度もあたしのところに来て、色々と話しかけてくれる。

 先輩。

 先輩。

 いいですか。

 あなたの目の前の長身しか取り柄のない無表情の女は。

 あなたのことが好きなのですよ。

 言葉にして伝えるのがもどかしいほど。

 本当に、本当に、大好きなのですよ。

「ねぇ、もうちょっと待ってよ、いいから、別の返事してってば。」

「帰ります。」

 帰りたくないです。

「いいからさぁ、もう少しここにいてってば。」

 もう少しじゃなくて、ずっとここにいさせてください。

 先輩のそういう、いつまでも付き合ってくれるところが好きです。

「この後、塾あるから、早くしてくれよ。」

 えぇ。

 えぇ。

 このタイミングで言うかね。普通。

 分かってないとは言え。

 その。

 ここで言うかね。

 えぇと。

 あたしは、そういう所よりも。

 えぇと。

 あたしは、先輩がいつも汗臭くなくて爽やかな香りのするところが好きです。

「ちなみに、このシャツもう五日も洗ってないんだよね。」

 えぇ。

 えぇと。

 えぇと、ねぇ。

 あたしは、ですね。

 えぇと、そういう所よりも、ですね。

 先輩のそのふさふさの髪の毛が好きです。

「突然だけど、俺さぁ、ハゲだから今までカツラ被ってたんだよね。」

 先輩の目の色が好きです。

「カラコン。」

 先輩が野球部でレギュラーな所が好きです。

「昨日退部した。」

 先輩が雨の日に、猫に優しくしている所とか好きです。

「猫アレルギーだし、あれはマジで二度とごめんだわ。」

 先輩が、二年前にアルデイド星人との戦いに勝利し、地球が第三惑星地球からヒャクデオドノワールというのに名前が変わるのを避けたにも関わらず、千年の時の中で、自分のした行為など砂粒程の価値もないと言い切って、姿を消し、今なお伝説として呼ばれ続けている所が好きです。

「あれは、センディの星からやって来た国賓からさずった魔法の杖から生まれた妖精、シェンディの力と、それまで地球全体に悪の組織として根深く存在していた、ギャグルスターとの和解が成立したことによる数の確保と、ギケンジョウ師による修行のおかげでたくさんの人たちが千年流の秘術を使えるようになり、戦力の向上が図れたことによる、当然の結論。」

「そういうのとかっ、全部っ、抜きにしてっ、もうっ、とにかく先輩が好きぃっ。」

「俺もぉっ。」

 めでたしめでたしじゃん。

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