第7話 ヒロ、ガンバって!

 それから数日後。

 あたしは色々な気持ちを抱えながらも、こうしてヒロと変わらずに、今、この時も一緒にいられることが何よりも大切なことと感じていた。

 だって、この先ずっと一緒にいられる保証なんて、何処にもないって気付いたから――

『幼馴染でホントに良かった』

 時間が巻き戻ったとしても、やっぱりあたしはヒロの幼馴染でいたい。

 心の底からそう思う。 


「ヒロー! ご飯できたよー!」

 そんなことを考えながら、今日はヒロの家で夕飯の支度をしていた。

 あたしのウチは共働きで、お父さんお母さんの帰りが遅くなる時には、こうしてあたしが作りに来る。

「?」 

 下から呼んでみたけど返事がない。

「ヒロー!」

 ……応答なし。

「何やってんのよ」

 あたしは不平をこぼしつつ、太ももからエイッ! と力を込めて階段を踏みつけながらヒロの部屋へ向かった。

「ヒロ~」

 呼びかけながら、ドアをガチャリと開く。

 するとそこには、両手で頭を支えて椅子にドッカリともたれ掛かり、豪快にイビキを掻いて眠るアホの姿が……(汗)。

『どうやったらこの態勢で熟睡できるのかしら?』

 あたしの悪戯心が騒ぐ中、パソコンの画面にふと、視線が流れた。

『?』

 見られて困るような感じでもなかったので、少し覗いてみる。

「……」

 クルクルと、マウスのホイールを操作する――。

『なるほどね~』

 おおよその見当はついた。

【小説投稿サイト】

 これを見たヒロは、「自分なんかが小説書いていいんだろうか?」、そう思ったに違いない。

 真面目に一生懸命に書いている人達と自分を比べてしまった。

 中にはそうじゃない人達もいるはずなのに、ヒロの目は、そこには向かない。

 だからヒロは直ぐに止めてしまう。

 一生懸命な人に道を譲ってしまう。

 でも、そういう思いを汲み取れるからこそ、相手を思いやれるし、気遣いもできる。

 

 ……。


「大丈夫だよ」

 あたしは微笑んだ。

 だって、小説は比べるものじゃないと思うから。

 思いを書き綴るものだと思うから。

 伝えたいことをしたためるものだと思うから。

「……ヨシ!」

 後は、ヒロを起こしてなんて言ってくるか、それ次第。

「ヒロ、ちょっと起きて……ヒロ!」

 あたしはヒロの肩を軽く揺すりながら、空いている方の手で、胸の辺りをポンポンと叩く。

「……ん?」

 ヒロが寝ぼけ眼にキョトンとした表情で、あたしをホェ? と少し見上げた。

(正直――カワイイ(照))

「ご飯できてるから、下りて来て」

 あたしはクルッと背中を見せて、ゆっくりと歩幅を狭くして歩く……すると、「なぁ、チー……」

 ヒロがあたしの背中に、「聞いて」と、同じ意味の「チー」を投げかけてきた。

「なぁに?」

 あたしは振り返り、ヒロの呼びかけのトーンから、優しく見つめることにした。

 そして、ヒロの次の言葉を連想しながら、どんな言の葉をヒロに贈ればいいかを考える。

「小説さぁ……」

『……やっぱり』

 あたしはヒロへ、一呼吸置いてから贈る――

「ヒロはヒロのスタンスでやればいいじゃない♪ あんた自分で、〈動機が不純でも原動力に変わりはない〉って、言ってたんだし。それに……」

 つい笑みが溢れてしまう――

「まだ数週間かもしれないけど、続いてるって、関心してるんだから……♪」

 あたしは自分のことのように喜んでる気持ちが前に出過ぎないように、「とりあえず腕によりをかけて作ったんだから、それ食べてから考えてよね!」と、顔色をピッ! と戻して、まだ頭の冴えていない小説家さんに伝えた。

 そしてあたしは手を後ろ手に組み、気分よく先生の部屋を後にした――すると、

「おう!(♪)」

 どちらかといえば言の葉というよりも、あたしの後姿で理解したヒロの決意が贈られてきた!

 階段を下りるあたしは、『もう1品なんか作っちゃおっかな♪』と、一歩一歩、踏面を労わるように優しく足を置きながら、桜井家の冷蔵庫に入れた食材を頭の中で確認していた――(笑)。

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