風が吹けば福来たる
鈴木 千明
今日も副会長は忙しい
ここは、とある中高一貫校の生徒会室。放課後、生徒会の副会長である俺は、自由奔放な生徒会長の置いていった仕事を、いつものように黙々と片付けていた。
扉の向こう、廊下からドタドタと足音が聞こえてくる。
「
「
生徒会役員の一ノ瀬は、やる気に満ち溢れた高等部1年の男子生徒だ。如何なる時も全力なのは結構だが、ブレーキがぶっ壊れているせいでしばしば面倒事を起こす。あと暑苦しい。
「すみません!それより、また
そんなことだろうと思った。
「今行く。あいつを引き止めておけ。あと廊下は」
「わかりましたぁあああ!」
俺の言葉を遮り、ドタドタという音が遠ざかっていく。
「はぁ…」
またか…
体育館裏で仁王立ちしていた一ノ瀬を退けると、風紀委員と共に風間が待っていた。
「あら、遅かったわね。」
足元には3人の男子生徒が伸びている。高等部2年の、要注意人物たちだ。
「今回はなんだ?」
「こいつらが中等部の男の子を脅してたから、お仕置きしてやったのよ。」
風紀委員に付き添われて、中等部の男子生徒が立っていた。少し離れたところから、怯えたようにこちらを窺っている。
「3人で1人を脅すなんて、プライドが無いのかしら。」
突き刺すような視線に、3人が震える。
「風間、何度も言っているが、暴力に訴えるんじゃない。風紀委員長のお前が、風紀を乱す原因になってどうする。」
「こういう奴らは、痛い目を見ないと学ばないでしょ。それに、〝暴力〟じゃないわ。私が彼らに振るったのは、中等部の子が味わった恐怖の分だけ。理性的に、制御された力よ。」
納得しそうになる自分を、慌てて引き戻す。
いかん、こいつの口車に乗っては…!風間が過去に起こした、停学一歩手前の騒動を思い出すんだ。
風間が風紀委員長になってすぐのこと、1つ上の先輩2人に、全治2週間の怪我を負わせたことがあった。その2人が今まで散々問題を起こしていたためか、風間は指導室送りだけで済んだのであった。
「兄さん?」
聞き馴染んだ声がして、そちらに顔を上げる。
「
司は中等部1年で、頭が良くて行儀も良くて美的センスに溢れていて少しドジだがそこがまた愛おしい今日も笑顔が眩しい俺の弟だ。
「友だちが怖い思いをしたって聞いて、居ても立っても居られず、飛んできちゃいました!」
しかも友人思い。司の辞書に欠点の文字は無いのか、そうかやはりか。
「俺が来たからにはもう大丈夫だ。」
「助けたのは私だけど。」
「風間先輩、ありがとうございます。」
「どういたしまして、司くん。あぁ、兄弟でこんなに違うなんて、世界は残酷ね…」
「黙れ。」
2人の間に割って入り、風間と睨み合う。
「司、この女の半径2メートル以内に入るんじゃない。」
「人を危険物みたいに言わないでくれる?」
「〝みたい〟じゃない。危険だろうが。」
「に、兄さん、大丈夫だよ!」
俺のブレザーを軽く引き、司が顔を出す。かわいい。
「風間先輩は悪い人じゃないって、僕は知ってるから!」
「騙されるな、司。こいつは危険だ。風紀のためだと口では言っていても、気分次第で気に入らない奴を殴りつけるような女だ。俺も何度被害に遭っていることか」
言っているそばから足を踏まれる。声も上げられずに悶えていると、司がぶんぶんと首を振る。かわいい。
「違うよ!風間先輩が兄さん以外の人にちょっかい出してるの見たことないし!それに僕は、風間先輩なりの…あ、ああ、愛情表現だと、思う、から…」
自分の発言が恥ずかしくなったのか、尻すぼみになっていく。かわい…え?今なんて?
「司、熱でもあるのか?風間が、俺に?あり得ない。」
司の前に屈み、おでこに手を当てる。熱はないようだ。
「ほ、本当です!前の騒動だって、あれは相手が兄さんを襲おうとしてたかむぐっ!」
信じ難い発言をしていた気がする司の口に、何かが突っ込まれる。棒付きのキャンディだ。
「司くん、それ以上はダメって、お姉さんと約束したでしょ?」
風間から発せられる威圧感に、司は少し顔を青くしてコクコクと頷く。かわいい、じゃなくて!
「司をイジメるな!あと約束ってなんだ!それと、いきなり口に入れて喉に詰まらせたらどうするんだ!バカ女!!」
「教えるわけないでしょ、このブラコン男!」
高笑いと共に逃げる風間を追いかける。
「一ノ瀬先輩は追いかけなくて良いんですか?」
「弟くん、俺はそこまで空気の読めない男じゃないっ!これぞ青春、ですなっ!」
「ふふっ。青春、ですね!」
風が吹けば福来たる 鈴木 千明 @Chiaki_Suzuki
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