気になるアイツは召喚獣?
@aruru-aruru
第1話オワリとハジマリ
「……驚いた。聖剣も折れ、魔力も底を尽きたと言うのにこの障壁を破るとは。」
「…るせぇ、糞ったれ。」
手も
ああ…必ず守ると言ったのにこの
もう手は使い物にならない。打ち付け続けた頭も、脚も、骨が浮き出てしまって歩くことさえままならない。
しかしあと一歩…あと一歩で手が届くんだ。
「もうやめてレノ。私なら、大丈夫だから…!」
懸命に伸ばせども届かない少女はそう言って無理矢理笑顔を作った。
馬鹿言うなよ…これからじゃないか。まだ何も終わっちゃいない。
「勇者はここで朽ちるが運命。その忌々しい血を断つことが我が宿願。」
「うぐっ」
漆黒のフルメイルを纏った魔族は少女の身体に手を伸ばし、それは身体をすり抜けて少女の心臓を握った。
「やめろ…!」
這え!這え!アイツを愛しているなら、這って戦え!
「ここでお前たちを消せば我らの大願は成就に傾く!我が王!魔王グスターヴォよ!再び生まれ
魔族の男は叫んだ。そしてその手に魔力を込める。
黒い魔力が暴走し、あたりを粒子レベルにまで分解する。
彼女が、溶けていく。
「アリシア…!!」
そしてそれらが塵と化す直前、少女は微笑みながら、
「またね。」
そう呟いた。
それが、俺が最後に見た光景だった。
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「おねえちゃん急いで!」
「わかってるってば!もうっ、どこにいるのよ!」
まるで深い森の中で一枚の葉を探すように駆けまわる少女たち。
「焦り、逆効果。」
「う、うっさいわね!」
「おいおい、喧嘩してる場合じゃないだろ。」
年端もいかない7人の少女が探すのは、たった一つ残された可能性。
もはや天文学的な数値とも言える薄い薄い一枚。
だがそれは運命の悪戯か、はたまた必然か、目の前へダイスのように転がった。
「…あ、あった!!」
「嘘?」
「ほんとに~?」
「だってほら!これ見てよ!」
差し出された光を少女たちは目にした。
中には涙を流す子もいる。愛おし気に手を伸ばす子も。皆それぞれの感情を胸に抱いて、その暖かな光に身を委ねた。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
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暗闇の中、ただ漂う。
俺はいつからこうしているのだろうか。右も左もない、ただの闇の合間。
どうしてここに居るのだろう?俺は今まで何をしていた?
いや、そもそも俺は誰だ?
「おとーさん!」
声が聞こえる。
お父さん?一体誰の事だ?
「パパぁ…!」
「父上!」
いくつにも重なる声。
そして闇が眩いばかりの光へと変わり、小さな影がぼんやりと浮かび上がる。影はやがて大きくなり、何かを形作った。
それが女性のものだと分かったのは光が収まってからだった。
『さあ、目覚めなさい。』
「っ…!」
不思議な声と共に俺は覚醒した。
身体を見渡すと、手があり、足があり、人なんだと思い出す。
『レナード・アーヴィング。それがあなたの名前です。』
「レナード…。」
瞬間、あらゆるビジョンが流れ込んでくる。
花畑で手を取り合う二人の姿が浮かんでは消え、夕陽の元で肩を触れ合う光景へ。
それが記憶なのだと分かってから全てを理解した。
「俺は死んだのか?…アイツも。」
『…ええ。』
そうか、俺はアイツを守れなかったのか。
笑えてくる。
好いた女一人守れずに何が聖騎士だ。ご立派な剣を持とうとこれじゃ只の木偶の坊じゃないか。
『ですが、機会は失っておりません。』
「機会?」
何を言っているんだ?
『彼女は死の直前、再会を願いました。それは無理な願いであっても可能性が残っていれば別の事。さあ、こちらを御覧なさい。』
そう言って、ダイスが転がった。
その一面には街道を行く馬車とそれを囲むように走る騎士たちの姿。
映像が切り替わり、それは馬車の中へと移る。
そこには煌びやかなドレスに身を纏った少女と、もう一人、聖職者の服を着た…
『そこの獣人の少女に見覚えはありませんか?』
アイツだった。
犬のような耳と尻尾が生えていること以外、瓜二つだ。
『彼女は世界にとって必要不可欠な存在。故に、転生を果たしました。』
「転生?」
『新たに命を得、既に17歳となっています。あなたと最後に別れたのもこの年齢でしたね。』
そうだ。
孤児だった俺は10歳から冒険者稼業で生計を経て、功績を残して叩き上げで22歳の時に聖騎士の座に就いた。
そして、
「もうっ、レノさんたら!そんなことばかり言ってると勘違いしちゃいますよ?」
「す、すまん。悪気はない。」
鈴を鳴らすように笑う。
まるで天使のような笑顔で俺みたいな武骨ものにも接してくる彼女に惹かれるのに、そう時間はかからなかった。
それから彼女が17歳を迎えた時、勇者の血をひいた彼女にのみ果たせる封印の儀式として、聖者の塔へと向かい、そこへ奴が現れたのだ。
「ようこそ勇者の末裔。」
「だ、誰?!ここへは誰も入れない筈よ!」
「おや…人ならば、が抜けているな。」
「え?!」
数百年前に滅びたと思われていた魔族。
伝承では勇者と呼ばれた男が自らの命と引き換えにその王を打ち倒し、長きにわたる戦争を終結させたらしい。
その勇者の血を残す彼女を狙って。
異変に気付いた俺は禁じられているのも構わず扉を蹴破った。
だが、知っての通り俺は何もできずに敗れたのだ。
『間もなく彼女はまた命を落とすでしょう。』
「…なに?」
『いくら転生の機会を得ても、それはあくまでも仮初のもの。数分後、この馬車を狙って悪しき輩が暴挙に出ます。…かつてと同じ時をもって生が尽きるのは
そんなふざけた話があるか。
それじゃアイツは悪戯に命を得てるのと同じじゃないか。
「俺は転生とやらは出来ないのか?」
『…残念ながら貴方には無理です。』
それは絶望にも似た宣言。
声は『しかし』と続けた。
『似た方法ならあります。』
「それは?」
もう藁にも縋りたい気持ちだった。
『貴方をこのまま世界へと送るのです。勿論相手はあなたの事を覚えていませんし、他にも弊害があります。』
「それなら今すぐやってくれ。」
覚えていようが関係ない。どれだけ弊害があろうと、今この時アイツを守れるのであればそれだけで僥倖だ。
『分かりました。ですが弊害に関してだけはお伝えしておきましょう。』
そう言って彼女は続けた。
俺はどうやら召喚獣や
日常のあらゆる行動から魔法やスキルの使用において魔力を消費し、それが尽きると
その弊害は凄まじいもので、魔力値が半分を下回れば立っていられない程、20%を下回れば昏睡しもはや消滅を待つばかり。
『ほぼ人間ではなくなるので、睡眠や食事で回復するのは微々たるものです。むしろ一日の消費量で考えればマイナスでしょう。』
「回復の手段はないのか?」
『一番確実かつ安全なのは、その資格を持った女性と触れ合う事です。』
「資格?」
『貴方の存在を否定しない者…とでも言いましょうか。貴方が貴方として存在する理由そのもの。
よく分からないが、その資格を持った女性に触ればいいという事か。
簡単…ではないが無理難題ではないだろう。
「分かった。気を付けよう。」
『ええ、そうしてください。貴方はとても儚い存在。今回の奇跡は次は望めないでしょう。』
チラッと横目で確認すると、映像では既に兵士たちが取り囲まれている状況だった。
これはいけない。急がなくては。
『…時間が無いようですね。それでは転移に参りましょう。』
「頼む。」
短く答えると、やがて俺を光が包んでいく。
『貴方のステータスは死亡した時と同じ状態です。存分に力を振るいなさい、聖騎士レナード・アーヴィング。』
その言葉を最後に、俺は世界へと舞い戻るのだった。
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