『自由』な世界

夢見 和

さあ、『自由』だ

「これで、これで自由だ!!」


 男は足枷と手枷を壊した。これまで男はずっと、鎖に縛られ、全ての行動を制限されていた。


 言いたいことも言えず、したいこともできず、どこに行くこともできない。

 にもかかわらず、目の前の鉄格子からはまさしく男の思い浮かべる自由があった。


 人々は笑い、楽しげに毎日を過ごしている。

 好きなものを食べ、好きなところに行き、好きな誰かとともにいる。

 嫌いなものを嫌いと言えるところも素晴らしい。


 男はそんな光景をずっと見続けていた。

 鳥が大空を羽ばたくさまを、焦がれるほどに見ていた。

 自分にはなぜ自由がないのか、そう考えた。


 男には手枷、足枷がはめられ、鉄格子のなかに入れられていた。

 仮に男が好きなことをしようとすれば、すぐさまどこからともなく現れる看守によって殴られ、蹴られ、罵倒される。


 地獄のような時間。

 ただただ自由に生きたいだけなのに、それを許してくれない。

 恨みも憎しみもなく、ただ男は心から望んだ。

 目の前に広がる自由を手にしたいと、そう夢見た。


 そしてその日は訪れた。

 看守が殺され、男は剣を持った人物によって解放された。

 枷が外され、鉄格子が開け放たれる。


 待ち望んだ自由。

 歓喜の声が他の鉄格子の中からも聞こえてきた。

 聞けば、剣を持った男は革命軍の者で、規律を重んじすぎたこの国の王たちを殺し、自由を手にするために来た、と言った。

 なんと素晴らしいことか、と男は涙した。


 剣を持った男は、革命を成功させ、国の王となった。

 自由、それを民に与えた。

 男は念願の自由を手に入れた。


 男は早速、大声を上げながら辺りを走り回った。

 そのまま疲れるまで走り続け、見知らぬ場所まで来た。

 たくさんの人間と話し、好きなものをたくさん食べた。

 泣きながら、この自由を謳歌した。


 …ところが、数日したら男のことを悪く言うものが現れた。

 男に向かって、もっと周りを考えろ!と言ったのだ。

 男はその言葉に腹を立てた。自由にしているというのに、なぜ罵倒されなくてはならない。口論の末、男は言いがかりをつけてきた奴を殺した。


 その後も、ただ自分の思うままに生きた。

 自分の言いたいことを言い、好きなものを好きに食べ、怒りを覚えた時はすぐさまそれを実行した。

 男だけでなくたくさんの民が男と同じように生きた。

 自らの思いのまま生きた。


 そして数年後、再び革命が起きた。

 あの時男を助けた王は殺された。

 男はそれに怒り狂い、新たに王になったという者のもとへ行った。


 しかし王の近くにいた者たちに取り押さえられた。

 男はまたしても自由を失った。

 なぜだ、と叫んだ。自由にいきて何が悪いと叫んだ。


 男はそのまま鎖につながれ、反逆者として処刑を待つ身となった。

 …最後まで自由という言葉に翻弄され、世界は秩序を取り戻した。




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