腐令嬢、罪を告白される
一旦グラウンドに行って、ステファニに『仲直りのために、しばし人気のないところで語らう』と伝えてから、私は旧音楽室に向かった。いきなり二人揃っていなくなったら、大騒ぎになるに違いないので。
ったく、人には立場を弁えろっつったくせに、自分こそ王子だってこと忘れてんじゃん。後先考えずに行動しやがって!
音楽室は、やはり鍵が開いていた。
室内に入るや、むわっとした熱気が襲う。
そんな中、イリオスは最近の定位置だったピアノではなく、隅っこの椅子に腰掛け、頭を抱えて項垂れていた。私が部屋に入ってきたのはわかっているようだけど、無反応だ。
彼の前に椅子を持っていき、私はなるべく優しい声で語りかけた。
「……ねえ、カミノス様にあとでちゃんと謝りなよ? ひどいことされたからって、ひどいこと言っていいってわけじゃないじゃん? カミノス様だって、勘違いしてただけだし?
「僕のせいなんです……」
イリオスが小さく声を発する。この言葉を聞くのは、二度目だ。
『イリオスのせいじゃないです。カミノス様がゲームとは違う動きをしたのは、僕のせいなんです。僕が、悪いんです』
カミノス様が自分に固執する理由を、彼はこう言っていた。けれど、何があったのかは話してくれなかった。
ん? 待てよ。
そういえば、カミノス様が言っていた。セリニ様の事故の後、イリオスは意識がない状態でずっと自分の名前を呼んでいたって。
あれも、もしや……。
「あの日……大神さんが事故に遭ったのは、僕のせいです。僕が、大神さんを死なせたんです……僕が大神さんの命を奪ったんです……」
突然の罪の告白には驚いたけれど、私は平静を装って笑ってみせた。
「何でそうなるの? だったら、
「違う、違うんです……」
けれどイリオス――ではなく江宮は、私の言葉を否定した。
「僕はあの日、あの場所で、大神さんを待ち伏せしてたんです。
「待ち伏せ? どうして……何なの、
高峰美鈴。
前世では私の親友で、江宮の元カノだった人物だ。
ここでその名を聞くとは思わず、問い返す声が震えた。江宮は躊躇ったのか、少し黙ったけれど、途切れ途切れに答えてくれた。
高三の卒業式の帰り、美鈴と会って別れを告げたこと。
美鈴は泣きながらも、それを受け入れたこと。そばに置いておくと思い出して辛いから、これまでもらったプレゼントを全部返却させてほしいと申し出てきたこと。
しかし江宮はそのためにまた会う時間を取れば、彼女にさらに辛い思いをさせると考えたこと。
『いらないなら、捨てるか売るかしてください。BLグッズもあったはずだから、大神さんにでもあげたらいいんじゃないですか?』
私を名指ししたのは、江宮にとっては『美鈴の親友』であり『BLグッズのリサイクルにピッタリな相手』というだけで、それ以上の他意はなかった。
けれど美鈴は、そこで涙を蒸発させる勢いでブチ切れたそうな。
「そりゃ美鈴だって怒るよ。あの子、おとなしいけど超一途で、BLでも二股浮気ハーレムは許さないタイプだったもん。たとえ犬猿の仲の相手とはいえ、別れ話の最中に他の女の名前を出したのは逆鱗鷲掴み以外の何物でもないよ。私だって、一応は性別女だし」
「そう、ですね……僕も迂闊だったと思ってます。もう取り返しはつきませんけど」
江宮は素直に反省の弁を述べた。
ちなみに公園のベンチに座って話していたそうだが、美鈴は自販機で買ったカフェオレを江宮の顔面にぶっかけた上にバッグで横っ面を殴って、そのまま帰っちゃったそうな。
まぁ美鈴が愛読してたBL漫画が、いきなりの受け死亡からハーレムエロ展開に突入した時よりはマシ……かな。燃やされなかっただけ幸せだと思え。
円満にとはいかなかったものの、これで彼女は自分のことなど忘れてくれるだろうと江宮は安心したという。そして予定通り、その足でショップに行ってスマホを新規で購入し、全ての関係をリセットした。
「もう連絡が来ることはないと思っていたんですけど……高峰さん、僕が一人暮らしのために家を出てからしばらくして、実家の方に来て母さんに荷物を預けたらしいんです。ゴールデンウイークに帰省して、初めて知らされました。母さんには、僕が家に戻るまで黙っていてくれと伝えていたそうです」
さらに美鈴は江宮の母――
そこで江宮は仕方なく、美鈴が荷物と一緒に置いていったという連絡先に電話をした。
「荷物の中身は、僕が彼女にあげたプレゼントでした。それを大神さんに、僕から直接渡してほしいと言われたんです。大神さんが帰ってくる電車の時間もその時に教えられて、次の日に会うからちゃんと渡したかどうか確かめるって……これで最後にするから、気持ちに区切りをつけるためにどうか叶えてほしいとお願いされて」
そして江宮は、美鈴のお願いを実行した。いや、しようとしたけれど叶えることはできなかった。
会って話してる間に、私と江宮は事故に遭って一緒に死んでしまったから。
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