腐令嬢、謝罪す
「深海まで深く反省しろとあれほど言ったのに……今度は地殻を潜って、地下深くマントルに沈んでください。マントル突き抜けて内核まで行って燃え溶けて圧縮されてください。そして二度と地上に現れないでください」
「本当にすみませんでした。これからは地下深く潜って暮らします」
「まさかステファニだけでなく、リゲルたんまでBL汚染するとは……あんたはウィルスか何かですか? いや、この気持ち悪さをウィルスと同等に扱っては可哀想ですね。比喩に引っ張り出されたウィルスに、いえ、全生命に謝ってください」
「はい、生命さん、ごめんなさい」
ピッカピカの入学式が終わり、再び教室に戻って担任を含めたクラス全員の自己紹介等を済ませて解散となった後、私はイリオスに引っ立てられ、正座させられた上でこんこんと説教されていた。
ちなみに場所は、旧校舎となる別棟にある旧音楽室。
厳重なセキュリティを誇るアステリア学園ではあるが、この室内だけは監視カメラが設置されておらず、おまけに窓もなければ防音効果も抜群という、まるで『都合良く誂えられた』かのような場所だ。
それもそのはず。ここはゲームでも登場した、注目を浴びることに疲れたイリオス王子が一人になりたい時に使う『秘密の隠れ家』なのだ。
グランドピアノがぽつんと置いてあるんだけど、放置されてるのに調律もバッチリで、ゲームのイリオスはこいつを弾いてストレスを発散していたんだとか何とか気障ったらしいこと抜かしとったわ。
もちろん、引っ張り込んだリゲルにも聴かせてたよ! ミエミエの惚れさせたる感がクソほどウザかったよ!
そんなわけでここは、まさにヒロインとの逢引にはもってこいの場。
だけど私に限っては、悪役令嬢と腐女子の合挽き肉にされそう。ついでに捏ねて焼かれて、クラティラスハンバーグにされかねねーなぁ。
「本当に、何てことしてくれたんですか! リゲルたんは天使だったのに! クラティラス嬢は僕の最推しの女神だったのに! 二人が仲良くしている姿は、夢がドリームな天国パラダイスの極楽ヘブンだったのに!」
「こっそり盗み見しといて、天使とか女神とか気持ち悪すぎー。夢がドリームも何も、いっつもえっげつねーBL妄想語ってたんだが? リゲルも軽く言ってたけど、お前の時なんてさぁ……」
「言わないでください! 聞きたくありません! あの可憐なリゲルたんが、まさか既にアホウル
「誰がアホウル腐じゃー! 死ね、オタイガー!!」
「地上に出るなと言ったでしょーが! とっとと沈め、アホウル腐ー!!」
これが、麗しき仮面を被ったイリオス第三王子の中身。
くっつくかくっつかないかの瀬戸際を攻めるプラトニックでピュアっピュアな微百合が大好物だった同級生、オタイガーこと
私、
江宮という男は一人で自分だけの世界を築き、そこへの干渉は何であろうと頑として許さないといった面倒臭い奴だったので、結局BLを認めさせることはできなかった。
高校を卒業してからは別々の大学に進んだんだけど、初のゴールデンウィーク帰省の際に偶然遭遇。一緒にいたところを運悪く突っ込んできた車に撥ねられて共に死亡し、何の因果かこうして生まれ変わってまた巡り会ってしまったというわけさ。
にしてもさぁ、この配役はひどすぎね?
だって私、全ルートで死亡確定の悪役令嬢だよ? しかもその大元の原因が、このクソ王子がヒロインのリゲルに惚れて婚約破棄されるからなんだよ?
リゲルがどの男を選んでも、必ずこいつによる婚約破棄からの死亡エンドよ? 悪役令嬢の扱い、雑すぎだろ。
ゲームを作った奴を殴りたいのは山々だが、それより江宮だ。こいつなんかのために死ぬとか本当にありえねーよ。
はっきり言って、中の人は江宮な王子に婚約破棄されたところで痛くも痒くもない。むしろ喜びのあまり、舞って踊ってクラティラスフェスティバル開催して、その日を記念日にしたいくらいだ。
しかし、どうやら私が死ぬのは『自殺』ではないらしい。
乙女ゲーム好きの妹に押し付けられ、ヒロインあざとすぎ問題とメイン攻略対象であるクソ王子の勘違い俺様野郎タコ殴りしたい問題に苦しみつつ、やっとこさクリアした私と違って、江宮はとっとと完クリした後でこのゲームの続編となるライトノベルまで網羅していたそうな。
そのラノベによると、クラティラス・レヴァンタの死因は何と『暗殺』――――そして私の死をきっかけに、この国が大いに荒れることになるっぽいのだ。
詳しく知りたかったけれど、江宮は何度聞いても口を割らなかった。恐らく、とてつもなく悲惨な展開が待ち受けているのだろう。
何しろ、そのラノベのジャンルは乙女ゲームからの派生にも関わらず『戦記物』に分類されるみたいから。
その未来で、アステリア王家の一員である彼も戦乱の世に翻弄されるに違いない。
それはさておき、中の人は天敵のウル腐でも、奴にとってクラティラス・レヴァンタは最推し。私を含め、この世界の女の子全てを幸せにしたいというのが江宮の願いなのだ。
そこで江宮は、私の死亡フラグを回避するために尽力すると申し出てきた。
ほら、正座で痺れたクラティラス様のか弱い足に、治癒魔法を施してくださっているじゃろう? 私の外面が最推しじゃなかったら、あのお高そうな革靴の底で蹴っ飛ばされてただろうよ。
このようにイリオスは、王子でありながらこの国では数少ない『魔法を使える』という能力も有している。
イケメンでプリンスで魔法使いとか、盛りすぎ設定にも程があるわ。オタイガー江宮のくせに生意気な。
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