平行線恋愛劇 頼むから惚れてくれないです?

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 俺には今気になっている女の子がいる。

 大人しい雰囲気の清楚な子だ。


 話は変わるが俺には夢中になっている子がいる。

 その子も、大人しい雰囲気の清楚な子だ。


 でも悲しいかな。

 釣り合わあないとかそういう事を考える前に、まず出会えない。

 どうやっても、天地がひっくり返っても恋人同士にはなれない。


 だって、その子、二次元キャラだもの。


 高校生活で部活は要らずに帰宅部してたら、オタクになっちゃった。

 アニメとかみてたら、二次元に恋しちゃった。


 で、話を戻そう。


 最初に言ったあの子が気になったきっかけ。

 それは、ここまで言えば分かるだろう。


 好きなアニメに出てくるキャラクターそっくりの女の子だったからだ。

 外見的特徴も同じだし、性格も同じ。

 これ以上ないと言うくらいの理想の女の子。


 だから、俺はその子を見かけてから毎日こう言っている。


「付き合ってください」

「嫌です」


 てな感じに。


 もちろん何度も言ってるからと言って、ぞんざいに喋るわけではない。

 これは告白だから。一大事イベントだから。

 ちゃんと気持ちをこめてる

 一日一日が人生一大事の青春中だ。


「好きです、付き合ってください」

「無理です」


 だから、丁寧に気持ちを伝えてるし、人前で告るとかそんな晒しプレイ的な事もしてない。


 でも。


「……付き合って、くれないです?」

「あげないです!」


 とうとう本日で、玉砕記録が三桁を超えました。






 うーん、分からん。何が駄目なんだ?


 高校の食堂で、昼ご飯を食べながら友人に相談してみた。


「何がってお前。そんなの決まってるだろうが。全部だよ全部」

「ふぁ!?」


 はい、友人からのつっこみ入りました。

 悩み過ぎてもう何が駄目なのかよく分からんくなった頃、遠慮のない距離感が持ち味である俺の友人に、相談してみたんだけど……そんな冷たいお言葉を頂戴してしまった。


 すげないつれない。冷たい態度の友人君は、俺にそのわけを話してきた。


「まず動機が不純だろ。アニメのキャラに惚れてとか、その人全然見てねーじゃん」


 ぐさっ。


「はい次に、自分の気持ち押し付け過ぎなとこだろ。しつけーよ、お前。自分が好きでもない奴から毎日告られてるとこ想像してみ。迷惑だろ」


 ぐさぐさっ。


「あと、告白するだけで、理由とか言ってないじゃん。それってお前チキンなの? それとも自分の動機が不純だって自覚してるからなの?」


 ぐさぐさぐさつ。


 ぐうの音もでないとはこの事だ。

 俺が意図的に見ない方にしてきた事実を、これでもかと全力で見せつけてきやがって、友人の暴挙を批判覚悟で止めるとか青春かよ。まじマブダチだな。ありがてぇ。でもそれとこれとは別だ。


「間違ってても良い、俺は俺の気持ちに正直に生きるんだ!」

「はいはい、ふざけてねーで、これからどうするか考えたらどうだ? あぁ?」

「はいそうですねすいません」


 とはいっても、これだけ現実付きつけられた後で、告るとかなくない? ありえなくない? やっぱもう駄目じゃん? 相当やらかしてるじゃん? 見込みゼロだし、すっぱり諦めるしかないんじゃない?


 と、真面目にそう思ってた時期が俺にもありました。


「あれ? あの子……」

「えっ?」


 でも悲しいかな。

 俺は心の底までオタク色に染まっていたのだった。

 つまり無理だった。


「「あっ」」


 例の女の子が通りかかった。

 彼女の姿を目にした瞬間、俺の体は動いてしまっていた。


「好きです付き合ってください」

「む、無理って言いましたよね?」


 視界の中に、引いてる彼女と引いてる友人の顔が同時に映った。

 そんなにダメです?





 あれからも俺の告白撃破記録は伸び続けた。


「好きです、俺と付き合ってください」

「ごめんなさい、お断りします」


 はい、駄目ー。


「好きなんで、ちょっとでいいから付き合って」

「それは、最低ですね。無理です」


 げきついー。


「あの、そこの道まで……」

「そういう見え透いた策には乗りませんから」


 最初の頃の大人しかった彼女は、今ではもう立派に断り文句の達人になってしまっていた。


 でも最近はちょっと変わってる事もある。


 二次元キャラと乖離してきた彼女だけど、会話するのが楽しくなって来ていた。

 それに……。


「好きで……」

「えぇぇぇん、ママどこぉー」

「えーっ!」


 迷子の子が偶然通りかかった時なんかは、一緒に親御さんを探してあげたりしたし。


「付き合っ……(ザァァァ)どわぁぁ、ゲリラ豪雨か!」

「へくちゅん」

「あれ、傘持ってない?」


 傘の片方のスペース貸してしてあげたら、お礼に喫茶店で一緒にお茶してくれた利した時の優しさを目撃してしまうと、何かこう俺の第二の心臓が鼓動し始めるというか。よく分からん。


 で、そんな最近の近況を頼れる相談相手に、高校の食堂で話せば。


「どっちかが折れるって発想はないのかね」


 こういう反応だった。

 呆れたような友人のセリフに「少なくとも俺からはないね」と告げる。


「でも、しつこくて馬鹿で救いようのないお前ならともかく、お遊戯会でもじもじしてた、あのおとなしかった女の子がね。正直以外だな」


 え、そんな前から知ってたの?

 いつから?

 俺が告る前から?

 さてはお前……。


「狙ってたわけじゃねーから。家が近いからたまに話すだけだよ。気弱な性格がコンプレックスで、無理な事でも頼まれたら全然断われないとかって」

「へー」

「案外、あの子迷惑そうな顔して、お前に感謝してたりしてな」

「まっさか。それだったら俺になびかないわけないだろ。って何だよその残念そうな物を見る顔」

「そんなの決まってんだろうが。お前がちゃんと自分を見てくれるのをあの子は待ってるんだよ」


 そういうもんなのかね?


「お前こそ、アニメっぽくなくなったあの子を諦める気はないのか」

「ないね。なぜなら二次元キャラのあの子だって、成長したらちょうど現実のあの子みたいに逞しくなるって確信してるから」

「筋金入りのオタクだな」


 何とでも言いたまえ。


 まあ、でももしもだけど。

 もしも最初に現実のあの子に出会っていたら、きっと違っていたんだろうな。


 俺が最初に惚れるのは3次元で、後から2次元になってた可能性がある。

 その場合は付き合えただろうか。


 何にせよ俺は諦めが悪いからな。


「あ、あの子がいるぞ」

「え、どこだ。ちょっと告白してくる」

「はいはい、行ってこい」


 どっちの場合でも中々交わらない平行線の恋愛を続けていただろうな。

 案外似たようなもんだったのかもしれない。


「頼むから惚れてくれないです?」

「無理です、あげないです」


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