恋愛心拍数

暗黒騎士ハイダークネス

第1話


 放課後、夕焼けの赤が窓から差し込む頃に、1人の眼鏡の少女が本を読んでいた。


 つんっ


「ひゃ!?」


 そこに邪魔をする少年が1人。

 にこやかな笑みを顔に浮かべながら、悪戯が成功した幼子のようにその少女を驚かせたことを喜んでいた。


「えへへ・・・やわらかい」


 そして、その少女の頬をぷにぷにと触って、その肌の柔らかさを無邪気に味わっていた。


「・・・」


 だが、その少女は本をしおりに挟んだ後、無言で席を立ち、その少年の後ろに立ったかと思うと、一閃!


ガツン


「いたい」


 本の角で叩かれた少年は、少し涙目になりながら、痛む頭を両手でおさえていた。


「本を読む、邪魔するなって、さっき言ったわよね?」


 この少年、30分ほど前にも、少女に同じようにいたずらを仕掛けていたのである。

 また懲りずにいたずらを仕掛けて、怒られる少年、だけど、その表情は満面の笑みだった。


「・・・えへへ」


 少女は察した。

『あ、こいつ全然懲りてないな』と


「・・・」


 少女は無言で少年の耳を引っ張った。


「いたい、耳引っ張らないで、みーちゃん」


「みーちゃん、いうな」




 そこに現る1人の背の高い少年。

 その仲良さげな2人を見て、こう一言。


「いつも夫婦やってんな」


「「夫婦じゃない!」だよ~」


 耳を引っ張られていた方も、引っ張っていた方も、彼の方を向いて、息の合った返事をする2人。

 息はあっても、意見は食い違っているが・・・


「いたっ!もうみーちゃん照れ屋さん」


 夫婦と肯定した少年を少女はバシバシと遠慮なくたたく。


「この笑顔・・・つぶしたい」


 それを受けても、少年は笑顔を絶やすことはなかった。

 若干だが、ノリノリで返事をしていたような気がしないでもない。


「いやん♪」


 完全にノリノリであった。


「アハハハハ・・・」


 そして、その返事に・・・怒りの表情を忘れ、感情が消えた少女が鞄を持って、少年を引きずる姿が・・・少年もそれに抵抗することもなく、鞄も持ちながら、笑顔で連れ去られていく。


「はる~また明日な」


 そう引きずられていく少年に別れのあいさつを済ます彼。


「あら?いいのよ、中野君、あなたも一緒で」


 ゴキッゴキッ


 腕を鳴らす音は彼女のほうから聞こえた。


「遠慮願います、はい」


 敬礼をした後の彼は、風よりも早く、その場から逃げていた。


「あら、残念」


「お~た~す~け~」


 助けを求めている気がしないゆるい声で言ってはいるが、その声が届く範囲に人はいなかった。


 バタンッ


 勢いよく扉は閉められた。

 そして、教室に残る影はなくなった。




 いつもの帰り道、並んで帰る二つの影。


「学校ではやめてって、いつも言ってるでしょ!」


 その横では、今さっきまでは無表情だった彼女が表情豊かに隣の少年に抗議する。


「えへへ~だって~」


 さっきと変らず、のほほんとした返事で少女に返す少年。


「だって、とかじゃかくて、やめて!」


「む~そばにいないと不安だし」


 そう僕不満です!という風に少年は頬を膨らませながら、少女に抗議する。


「そんな別に、同じクラスで家も隣同士でしょ」


「でも、そばじゃないもん、僕は一番前の席で、みーちゃんは真ん中だし・・・隣の家だって、近くであってそばじゃないもん~近くて遠いの!」


 両手をぶんぶんとふるわせ、これは大事なことなの!と強調しながら、少年は少女に抗議する。


「はぁ~もう」


 呆れたように、これ以上言っても無駄かなと諦めたように少女は溜息を吐く。


「ねぇ、みーちゃん、みーちゃん」


 そう少し前に出ながら、くるりと振り返る少年。


「なに?」


「だ~い好き」


 少女に向かって手を広げながら、まっすぐな笑顔を少女に向けて、そう言った。


「もうっ!!心臓に悪いから!わたしの心臓に悪いから、これからは不意打ちもなしね!!」


 夕陽のせいか、いつもより赤く染まった頬と、不意打ちで食らって上がった体温を感じながら、そう慌てたように少女は言う。


「えー照れたみーちゃんの顔見れなくなるのいや~♪みーちゃんも言ってよ~」


「もうっ・・・わたしも、好き、だから・・・」


 最後の方に言う言葉はだんだんと小さくなりながら、顔を真っ赤に染めながら少女は言った。


「え?なになに、聞き取れなかった、もう一回ね?」


 そう甘えたような笑みでそうねだる少年。


「あんた!わたしより耳いいでしょ!!」


「えへへ~だめ、かな・・・?」


 そう甘えるように目をちょっと伏せながら、上目づかいでねだる。


「好きよ・・・大好きよ!もう!!!わたしの心臓持たないからあんまり学校でやってこないでね!」


「もう~照れちゃう♪きゃっ><」


「あんた!わたしの話を聞け!!」





 その翌日も懲りずに、少年は少女の心臓をドキドキさせるのであった。


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