二番目からの言葉

綿麻きぬ

僕とあいつ、僕と君

 僕は何でも一番だ。勉強、運動、音楽、あらゆる面で一番だ。


 二番はあいつだ。僕に一度も何においても勝ったことがないあいつだ。


 でも、あいつはいつも楽しそうだ。僕が楽しくない、そういう訳でもないが。僕は努力しているのにあいつは努力してない。


 そんなあいつは今日、僕に一言言って帰路に着いた。


「君は一番かもしれないが、一番じゃない」


 僕は最初、あいつが僕に嫉妬しているのかと思った。それをそのまま、あいつに伝えた。


 そしたら、あいつは手を振って帰って行った。


 僕は次に本当に一番じゃないのか考え始めた。


 勉強、紛れもなく一番だ。運動、これもだ。音楽、これもである。他の考えつく限り一番だ。


 一体、何が一番じゃないのだろう。


 僕は考える。寝る間を惜しんでも考える。気づいたら日が昇っていた。


 そんな睡眠不足の中で僕はあいつに出会った。


 答えを教えて欲しい、僕はあいつにそう言った。僕はこの時、なんて返ってくるか分からなかった。でも、あいつが非を認めるとしか思わなかった。


「だって君は幸せそうじゃない。なんか、息づらそうだ」


 僕は急いで、鏡の前に立った。表情は至って普通の顔をしている。


 僕の頭にクエスチョンマークが浮かんでいるのをあいつは読んだのだろう。


「君はまるで楽しんでないじゃないか。それに努力したって楽しんでないといつか潰れるから」


 それは僕にとって衝撃でしかなかった。


 僕は努力している、ガンバっている、なのに努力してない君に言われたくなんかない。


「僕だって努力しているさ、君と同じように。違う点は君みたいに人を見下してなんかいないし、自分を褒めている」


 僕が人を見下している? そんな訳ないじゃないか。


「でも、一番に固執している。それに君は誰のために頑張ってる? 努力している?」


 僕は......誰のために、何をしている?


「後、もっと自分を褒めなよ」


 それ以来、僕は何をしても集中できず色んな物の一番から転がり落ちていった。一番から転がり落ちた僕には価値がないように。


 僕は何のために生きてきた? 僕には誰のために何をしてきたか、分からなくなっていった。


 僕は惨めになっていった。何を今まで軸にしてきたか分からなくなっていった。


 そんな時、ふとあいつのことを思い出した。元凶を作り、僕を貶めたあいつのことを。


 久しぶりにあいつに会いにいった。


 あいつは前に比べてやつれていた。そして、あいつは二番ではなくなっていた。


 そんなあいつに僕は声をかけれなかった。


 そんなあいつは僕に声をかけてきた。


「君は元気かい?」


 あいつの様子を見て僕は元気だとしか答えられない。その言葉に僕は元気だという意味を込めて首を縦に振った。


「僕は君に謝らないといけない。君にあんなことを言ってしまったことを。」


 そこからあいつの告白が始まった。


「僕は確かに君を心配していた。君がいつも切羽詰まって色んなことをしていたから、いつか君が壊れてしまうのではないかと。」


 これに僕は何も言えない。


「だから、僕は君に声をかけた。だけど、僕の言葉が君を壊してしまった。」


 言い様もない事実。


「僕と君の関係は一番と二番でよかったんだ。僕が君の妨げをした。君は楽しんでない訳じゃなかった。僕の勘違いだった。後悔しても遅いのは分かっている。でも、謝らせてほしい」


 一拍、間が空いてから一言。


「ごめん」


 これに僕はなんて答えればいいのか分からない。


 ただ、突っ立ているだけだ。


 僕は確かに壊れた。でも、あいつのせいじゃない。前の状態だったら僕はいつか壊れる運命だった。それが早いか遅いかの違い。


 それを伝えればいいのに、声が出ない。


 僕の口から出た言葉は一言。


「ありがとう」


 僕を壊してくれて、僕に謝ってくれて。あいつも自分を犠牲にしたのに。


 その言葉の意味が伝わったのだろう。あいつは泣き出した。




 それから僕とあいつは綺麗事かもしれないけど、歩み始めた。

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二番目からの言葉 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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