これから先も二番手

真己

第1話

『ごめん、秋。俺やっぱり……』

 目の前で顔を伏せる秋。俺は言葉が出ない。

 「いいの、飛鳥馬君……聞いてくれて……あ、ありがとう」

 言い切った後、目を潤ませながらも顔を上げる。

 『お、俺のせいだけど、あの、泣いていいから』

 「ご、ごめんなさい」

 それだけ言って俺に抱きつき泣く。

 『ごめんな、こんな俺で』

 俺は本気で思った。

 




 「飛鳥馬君、先に部活行くね」

 『うん……俺遅くなるかも』

 「分かったよ」

 赤くなった目を隠して、走って行った。もう姿は見えない。

 秋にあんな顔をさせてしまった。俺が……



『笑える』

 俺は笑う。声を出して笑う。

 『あの顔、サイコー』

 『ほんとに望みがあったとでも思ってんだろうか』

 ああ、アホらしい。

 『キャラに恋するわけないじゃん』

 やばい、笑い死ぬかも。怖くないけど落ち着け、飛鳥馬"加賀"。

 

 さてそろそろ説明が必要だろう。 端的に言う。この世界がゲームだ。いやさらに正確に言うと、ゲームを元にして作られたアニメの世界というのが正しいだろう。

俺は一度死んでいる。普通の男子生徒として生まれて、生きて、死んだ。俺はある日、死んだ。何の前触れもなく、何の予兆もなく、事故で死んだ。

普通に悲しかった。その時死んだ時は悲しむ暇もなかったけど。

悲しんだのは 俺が再び飛鳥馬守、として生まれたことに気づいたことだけだった。しばらくして、俺はこの世界がゲームだと気づいた。 そして俺がこの世界の主人公になり変わったことも。

 嘘だろうと思っ。スポーツゲームに青春をかけ戦い、友情を深めて、トロフィーを目指す。そんなの俺の精神に合わない。

だけど、この世界は俺に主人公になれと圧をかけてくる。どんなことをしても、その未来へと突き進んでしまう。

こうやって主人公とは違う行動したとしても、 ヒロインは俺を好きになる


 別にアイツは飛鳥馬守じゃなくても惚れてくるんだ。

アニメでは一途みたいっだったのに。ほんと残念。

 残念なんて俺が死んでからずっとだけど。

 せめて飛鳥馬に転生しなければなあ。飛鳥馬"守"を演じるのはもう嫌だ。

 将来すら決まってる世界なんていらない。未来ぐらい変えてみせる。どうしたら……。




 そうか……、こうすれば。

 俺はグラウンドに歩きだした。


「飛鳥馬、遅かったな」

 『ごめん、決めたいことがあったんだ』

 少しずつベンチに近づく。

 『秋、』

 「飛鳥馬くん?」

 『好きです。付き合ってください』


 「ど、どうして」

 与謝野メグミの、か細く驚く声と明後日の方を向く数名が見える。

 『さっきは恥ずかしく言えなかったんだ』

 そう秋にしか聞こえないように囁けば、抱きついてきた。

 「私も」

 





 『これで変わるはず、イヤ、変えてみせる』

 どんな手を使っても原作どうりにはさせない。

 悪いが、利用させてもらうよ。

 ……もうたくさん、こんな世界。

 「飛鳥馬? なんでこんな暗い所にいるんだよ。行くぞ」

 風丸が電気のスイッチをつけた。

 『あっ、待ってくれよ』

 電気をつけたまま、部室から出た。

 そして、原作どうりの笑顔を創った。



 俺は俺であって偽者で、主人公とは違う二番目だから。

 原作を壊す偽物の恋をする。

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