修行15日目
「オラオラ!!」
これは紛れもなくロレンの声である。彼はこの15日間実家に帰ったりもしながらも今まで以上に辛い訓練を思い浮かべてそんなものが天国に思えるくらいの修行を行ってきた。
その修行が彼の人格を変えた。彼の肉体が大人と同じ体格にまで無理矢理成長させなければいけないと思わせるほどに。身体は白い毛で覆われ筋肉も発達している。身長は180にまで高く、たかが2週間でそこまで成長させる手段があったとしても想像を絶する痛みがあったことを予想させるほどに過酷な修行を連想させる。
彼は現在、ゴブリンの上位種100体の群れの中に居た。
「スゥーーー!!」
彼は学んだ、自分がどれだけ幸せな環境に居たかを
彼は学んだ、人間はモンスターよりも弱すぎることを
彼は学んだ、スライムが細胞の代わりにできるということを
彼は学んだ、相棒達とならばどんな環境も乗り越えやすいことを
彼は学んだ、生きるということを
それを集約するにあたり今の人格を作り上げた。
「喝ッ!!」
氣を最大限に使う技
一喝
正確には氣を相手に最大限に感じやすくする技、この技は怒氣を感じやすく威圧が半端では無い。そのためゴブリン達は瞬く間に怯む。
ロレンはその隙を突けぬほど柔な修行はさせられなかった。
体重を前にかけ倒れるように走っていく。
金的、鼻、眼球、筋肉中心部、鳩尾、頭、顎、脊髄部
生物の急所という急所を的確に当てていく。
流れ作業のようでいて職人技を見せるかのように淡々とゴブリン達の攻撃区域を予測しできない陣地に走りそこから放てる最良の攻撃手段を放っていく。
たかが2週間足らずにどこまで仕込んだのか、子供の頃は動きを真似ることは大人以上にやりやすいとされている。それでも尚これは以上な速度である。
「ふう、終わったか。」
一息つくロレン。
「まだまだ甘いぞ、ロレン君。」
どうやらファニ達の修行が終わったらしく様子を見にきたようだ。
「まあそうだよな。ユウイチ叔父さん達の方が早いからな。」
未だロレンの内の最強は父達にあらず。
「最強の高みはまだ遠い。それとファニが居たと思わしき場所がわかったぞ。」
「どこなんだ。」
「サヒフ皇国の辺境都市、クリフォト領だ。」
「サヒフ皇国?」
「隣国のチヤガ共和国を跨いでの国だから知らないのも無理はない。それに秘匿性の高い国だからな。だがその分他国の情報を伝達するのが早く無ければ成り立たない。だから転移可能なモンスターも多い。」
「戦争国家か。」
「ああ大火事で街全体が焼け今はアンデットの巣窟になっている。天使や神でも浄化できる状況下に無いし何より入国すらプロの冒険者しか入れん。」
「じゃあプロになるしかないな。」
「じゃあ早くプロになるために今まで修行が天国に思えるくらいの修行をしようか。」
「十分死人のような修行をしてるけどな。」
彼が行なった修行方は戦闘をして筋繊維が切れたらスライム細胞で接合する。それを永遠と繰り返す。ただそれだけだ。他にも抗体の作成などはしたがメインはそれだ。
「ファニの脳細胞も引き出させなければならないしな。」
「そうだな。叔父さんが探し当てたものから察するにあったんだろ。」
ユウイチもまた成長した何とかデオキシリボ核酸を紐解くまでに至った。
そしてファニが何故知能が並みのスライムよりも高いのかがわかった。
「ああファニは故人のある一部分を食べている。」
「主人、私のこと嫌いにならない?」
ファニもまた知った自分が人の脳を食べたことを。
「嫌いならいさ。多分以前主人の知り合いかなんかなんだろ。」
「ああ誰か似た生命の設計図が無いか探してみたんだが昔あったことのあるプロ冒険者の毛髪が反応した。」
「誰なんだ。」
するとユウイチがロレン達に写真の貼られた紙を渡した。
「プロ冒険者ランクS、神崎 佐奈江。二つ名で死狼と呼ばれていた女の人だ。今は生きているかは定かではないが年齢にすると30くらいだ。だが消息がSランクになった20歳に途絶えているから調べるのは少々国の機密事項にまで潜り込まなければ無理かもしれん。恐らくファニはそれを食べたと言える。」
「神崎。そういえばシンキョウってどう書くんだ。」
「シンキョウはこのように書く。」
心郷
「それとロレンの物も調べたがこっちはさっぱりだ。カスリもせん。昔あった貴族や冒険者達の偶々服についていた生命の設計図の一部を当たってみたが誰もいなかった。」
「そうか。レナ姉さんと結婚するのは当分先になりそうだな。」
「主人!じゃあさ先に私の方を探してみようよ。」
「ああそうだな。その為にも早く修行を終えないとな。」
「ファニ、主人、修行をそんなに早く終えたいのならルタの里に行きませんか?」
チェシルが提案をしてきた。
「ルタの里、何でだ?」
「精霊人の里か。なるほど。」
ユウイチは理解したようだ。
「精霊信仰の強い土地では魔力と氣の片方もしくは両方の力が強く高所トレーニングのようなものが出来ます。それに私のような精霊から力を授かった魔物もより強くなります。」
「じゃあルタに頼んで行くか?」
「その前にもう一つ依頼をファニ達とやって貰おうか。」
「ああ、オーガの討伐だろ。」
「正確には悪魔とオーガの混血。デーモンオーガのな。」
ユウイチは意地悪そうに微笑んで続きを話す。
「デーモンオーガは半端者だが稀に悪魔より強い者もいる。今回はどちらだろうなあ。」
「なんか、絶対悪魔より強い気がしてきた。」
こういう時の心郷家は必ず強い者を引き当てるのだ。
「ほらそろそろこちらに向かって来ているぞ。どうやら俺の力に反応したようだがな。」
ドドドドドドドド!!
「マジか。チェシル[業魔・桜翁、犀花]、ファニ[最小魔王]」
チェシルは業魔をファニはロレンの体内に入って行った。
「相変わらず凄え技を使う。」
「あくまでも業魔の代わりだぜ叔父さん。」
[最小魔王]
業魔の使えないファニに業魔の代わりとして創られた技。
ドカッ!
敵が来たようだ。
「じゃあやるか。」
静かに敵を見据える。デーモンオーガは体長5メートルはあろうかという巨体と山羊の角を持っていた。彼は興奮している。ユウイチの方を凄く睨むがユウイチに戦う意志がないことを察すると今度はロレンに殺気を向けた。
ロレンを殴りにかかる。ロレンは殴る起動を読みデーモンオーガの拳に視界が隠れるよう動きつつ砂と石が混じったものを拳に投げたながら懐に入り込む。
デーモンオーガは一瞬手応えがおかしいことを考えてしまった。そこを見逃すロレンではない。素早く手裏剣を右脇下に刺し離脱する。
「ヒュウ〜硬いな。」
追撃しなかった理由は手裏剣が皮膚に刺さり抜け無くなってしまったからだ。
デーモンオーガはニヤリと笑うとロレンにそこらにあった倒木を投げつけてきた。
ロレンは手裏剣の穴に何やら金具と糸を取り付けるとハイパ●ヨーヨーの如く高速回転させ倒木を切り裂いていく。
「ふう。」
デーモンオーガは倒木をどんどん投げつけていく。
ロレンは作戦を変えた。
倒木の矢の嵐を突っ込んで行く。当たりそうになると自分を回転させながら倒木を一瞬押して威勢を殺して回避。もしくは手裏剣を刺し糸で引っ張りいなす。
とうとうデーモンオーガの懐に入り込んだ。
「ファニ[最小魔王・一丸魔王軍]」
ファニの技とはファニ自身がロレンの細胞の司令塔になるというある種の自殺行為に近い技であった。簡単に言えば自律神経すらファニの思うがままに動かせるということ。即ちファニに全ての生存を任せている。よほどの信頼とファニ自身の知識が無ければ成立することの無い技だ。
一丸魔王軍
それはファニに神経に枷を与えている脳の操作権を奪い野生の動物と同等の力と人間の知能を残し行う諸刃の剣の技
そして右脇下の手裏剣を左手で引き抜く。同時にいくつもの筋肉細胞が壊れる。ファニはすぐさま細胞に命令を出し分裂させ筋肉細胞の穴を埋めていく。
だがそれでも動きが一瞬鈍る。
デーモンオーガはそこを突き右手でデコピンという最も早く近距離で打てる技を使ってきた。
ロレンの顔が爆発する未来が見えた。
(チッ、ツイストドロー。)
ロレンはすかさずもう一つの糸を仕込んだ右手の手裏剣をデーモンオーガの左肩を狙い最小の動きと手首のスナップを利かせ投げる。
デコピンが来るよりも早く突き刺さり、そこからロレンは出来うる限りの力で左腕を右人差し指に叩きつけ手裏剣を引っ張ることでデーモンオーガの体勢を崩した。
デーモンオーガは体勢こそ崩したがくるりと一回転する事で手裏剣を外す。
闘いはまだ始まったばかりだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます