修行生活1日目

あれからというものロレンは曽祖父母の記憶が戻ったことを話し、母を説得して修行を行うためユウイチと共に近隣の街よりも遥かに遠い辺境都市に来ていた。移動方法はユウイチが契約していたクロススライムという空間を繋げることのできるスライムから一瞬できた。ルタ達はお留守番だ。


「しかし、ユウゾウも一緒にするのかと思っていたがな。」


父はレナの訓練もといロレンが修行を開始するにあたって訓練以上修行未満のことをつけるため別行動である。無論ロレンはそのことを知らない。


「ねえユウイチ叔父さん。なんでこんなところに来たの?」


あまりにも人が多い都会にユウイチに手を引かれながらも四苦八苦するロレン。彼は訓練をしていたところからてっきり森か山でやると思っていた。


「まず冒険者のプロ試験では環境適応力を嫌と言うほど試される。ロレン君には病気の様々な知識と病気に対する抗体を作ってもらう。」


「抗体?」


「そう抗体。ようは病気にかからないようにする為の予防の1つだ。」


「へえ。」


「主人!私は黴とかの抗体持ってるよ!」


「私は微小ながら植物の病気への抗体を持っています。」


チェシルは現在スライム形態で話している。


「僕も何か抗体があるのかな?」


ロレンは自分にどのようなものがあるかを気にしていた。


「そろそろ着くから心の準備をして起きなさい。」


「「はーい。」」


そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。


「大きい!」


なんというか要塞を思わせるような大きな建物だった。


「入るぞ。」


ユウイチは取り繕っても隠しきれていないくらいにやけていた。


「会長お帰りなさいませ。」


「「「会長お帰りなさいませ」」」


「ああただいま。じゃあロレン君早速修行に移ろうか。」


そう言いロレンの手を引きある部屋に案内した。


そこは畳のベッドと薬箱のある部屋だった。


「じゃあロレン君。この呼吸マスクをして寝転がってくれ。後は氣を高め続けろ、絶対緩めるな。ファニとチェシルはその氣と魔力を高め続けろ!じゃないとロレン君が死ぬぞ。」


さらりととんでもないこと言ったユウイチ。


時すでに遅しロレンはマスクをつけてしまった。


「!!!??」


ロレンの全身が金縛りにあったように動けなくなった。慌てて氣を全力で身体に循環させる。しかしそれでも金縛りにあったようなものが抜けず逆に苦しさが増してきている。


「ファニ、チェシルとっとやれ!」


ファニとチェシルはロレンの身体に纏わりつき外側から氣と魔力をコントロールして少しでもロレンの負担を減らせるよう努力した。


だがそれでもロレンの苦しみは止まらない。


「ファニ、チェシル限界を超えさせろ!お前らスライムの可能性をもって人の限界を超えるんだ!」


ファニとチェシルはユウイチの意図を察した。そこからファニとチェシルは己が細胞をロレンが毒で犯されている細胞に片っ端から移植した。正確には壊れた細胞を取り込みロレンの細胞に無理矢理合わせて細胞を修復するという荒技だが。


しかし効果はあったようだ。ロレンの顔色が心なしか良くなっている。


ユウイチの行った行為は病原体のインフルエンザウイルスとトウガラシに含まれるカプサイシンを同時に取り込ませるという脳に後遺症を与えかねない行為である。予防注射のような弱体化されたウイルスの作り方などはユウイチが知らない。故にロレンの生命力と相棒達の力量を調べ、細心の注意を払って行ったが正気の沙汰ではない。


時にカプサイシンは多量に摂取すると脳を破壊する。インフルエンザも脳のフィルターを破壊することで有名だ。そんな2つのことをすれば確実に脳へのダメージが降るのは当然のこと。


普通に神経障害を起こし金縛りにあったロレンはなんとか生き残ったが、本当に転生者とは思えないほどのやり方をするユウイチ。


「よし、次行くぞ。今は痛みが感じにくいしちょうどいいだろ。」


もう一度言おう。この男正気ではない。むしろ父ユウゾウよりも恐ろしいかもしれなかった。

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