閑話 とある客とマスター
とあるバーにて
「おいマスター今日は頼みがあるんだがいいか。」
客はこのバーが開店した当時からの常連客である。この店は客の故郷の酒も置いてあり店主もまた客の国の同郷である。
「珍しいな。新しい孫でも生まれたか?」
「いやひ孫さ、それも男の子だ。」
彼の子や孫には息子がまだおらず初ひ孫で初の男子が生まれたと思うと自然と頬が緩む。
「そうか、それはめでたいな。じゃああれだな、でもお前その夢叶える前に俺かお前のどっちか死んじまうじゃねえか。」
「ハッハッハ、そんときや
「おっかねえな。お前が髑髏になって店に来たら聖水割で成仏させてやるさ。」
「おいおい成仏するのはひ孫と飲んだ時だけにさせてくれよ。」
「俺が死んでなかったらな。俺は髑髏にはなりたかねえからな。」
「じゃあ髑髏にならないうちに本題に入ろうか。今年、記念に我が家で作った米と桜を入れたリキュールをラベル付けて置いといてくれないか。ラベルには◼️◼️◼️って名前でな。」
そう言いリキュールの瓶を出す客。
「それがひ孫の名前か。昔流行った名前のアレンジか。」
「そうみたいだな。一応貴族と子を成したようでな妾ということから少々構いやすい環境ではないそうだ。」
「そうか、じゃあ授けるんだな。」
なにやら含みを持たせて言うマスター。
「ああ、ひ孫が儂の生涯を見せようと思う。」
「そうかお前の家業も廃れずに済みそうだな。」
マスターは彼の頼むいつもの一杯、米焼酎の水割りを出す。
「そういうマスターは大丈夫なのか?」
グイッと一杯飲み干してから言う客。
「こちとら趣味で始めた店さ、潰れるならそれもよしとするしな。まあお前とひ孫が来るまではやめるつもりもねえがな。」
空のグラスに米焼酎を注ぎ足し、さらにグラスを取り出して芋焼酎をストレートで注ぐマスター。
「そうかそうか、じゃああと15年はやってもらわんとな。」
カンッと音を鳴らし乾杯しながら互いに酒を飲む2人。
「そうだなお互い元冒険者、氣や魔力のコントロールで長生きしてるがあと15年はちと互いに厳しいからそれこそ互いに髑髏になっているかもな。」
「違いない。儂たちの相棒はもう行っちまったが儂たちはまだ地獄には行けねえな。」
「おいおい地獄行きが確定かよ。」
マスターは心外だとばかりに言う。
「当然だろ。儂らは何回浮気したと思っていやがる。その度に妻を泣かせてよ。女が多いとはいえ1人と結婚すると言った儂達の運命に相応しいことこの上ない。」
「そりゃあ一本取られたわ。まあ相棒も浮気してたしな。」
話が脱線し始めている客とマスター。
「お前は《猫の祝福》だったな。旅先の野良猫に所構わず発情してたもんな。」
「そうそう、いつぞやの寺で一発かましたときは驚いたな。」
「あのときは寺主に怒られたな。仏の前で何させたんだってな。」
「結局子供が出来ちゃって1匹だけど新種のモンスターが生まれたらしいぜ。」
「元気だといいな。」
「元気だろなんたって俺の相棒の子供だぜ。」
客とマスターはさぞ懐かしいのかとても和やかな目をしていた。
「そうだな何はともあれ新たな家族という生命の誕生に乾杯。」
客がグラスを掲げる。
「新たな生命の誕生に乾杯。」
マスターもそれに応じる。
コロン
その小さな祝杯の音は今宵の夜の町を超え大きな星空へと
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