新たな相棒

「ロレンいっそのことパスを繋いだら?」

そう提案をするのはビアンカだ。


「なんて?」


「だってそのスライム成体じゃない。」


「ファニは成体じゃないの?」


「スライムは体長5センチ未満で幼体。30センチで成体。ファニはその中間の子供体よ。一応成体からも体長は大きくなるけど一番早く大きくなるのが30センチまでだからそう言われているらしいわよ。」


「でも僕にはファニが居るよ。」


「でも成体のスライムなんて中々居るものじゃないしせっかくだから契約したらって思ったの。ほら父さんだって千に百に十っていっぱい強いモンスターと契約しているじゃない。」


「うん、じゃあパスを繋いでみる。」


ロレンは手をスライムの前に出す。


「継承者の名ロレンを持って汝陣を持つものと共に千を極めんとす。」


ファニの時とは違い何か繋がるものを感じられた。


「ねえロレン。この子の名前はどうする?」


とりあえずファニの時のように触ってみるロレン。


プルプル、モチモチ、ムギュ!


「モチモチ!」


ブレないロレンのネーミングセンス


「いや、それただの感触でしょう。ちゃんと名前を考えなさいよ。」


ビアンカが余りにもそれは可哀想だと思いロレンに注意する。


「じゃあ何がいいかな。ファニの時みたいににドラゴンの名前から取れば良いかな?」


「ファニは何のドラゴンの名前から取ったのロレン君。」


ミーナがロレンに質問する。


「ファフニールから。」


「うーん、それじゃあ今度はドラゴンではなくてレナちゃんみたいに食べ物の名前から取ってみたら。」


ロレンはマッコリの名前が食べ物から来ていたことに驚きレナに思わず質問する。


「レナ姉さんマッコリってどんな食べ物なの?」


「マッコリは父さんが旅をしていた時に最初に訪れた国のお酒。家でも昔の友人から送られてきたのをたまに飲んでいるよ。」


「へえマッコリみたいに白いのお酒なの?」


「白いものが多かったかな。」


少々煮え切らない答え方だがロレンには十分伝わったようで頷いていた。


「じゃあ透明な食べ物って何があるかな。」


スライムの半透明な色から名前を決めようとするロレン。


「透明な食べ物、ゼリーかな。」


ミーナが答える。


「後は葛桜っていうお菓子をユウイチのおっさんが持ってきてくれたことがあったぜ。」


そう答えるはラルだ。


「葛桜?」


「叔父さんが持ってきたのは餡子っていう紅い豆をすり潰したものを透明な皮で包んだ食べ物のことよ。」


ビアンカが美味しかったなあと言いながら話す。


「うーん、サクランボ、ピンク?」


さくらおうとも読める字だからなにか付け足してみたらどうかなロレン君。」


ミーナがアドバイスをする。


「なんか違う気がする。チェリー?銀木犀、シルバーそうだチェシル、チェシルにしよう。」


ミーナのアドバイスを無に帰して、チェシルと名前の決まったスライムはロレンに擦り寄る。


ぐぎゅるるるる〜


「ねえそろそろおやつにしない?」


ビアンカはお腹が空いたのか提案する。


ザパァ


スワンヌが上がってきた。


「うんそうだね。スワンヌも上がってきた見たいだしレナちゃん、ロレン君もそれでいいよね。」


「「うん。」」


ロレンとビアンカは息を揃えて答える。


「じゃあビアンカちゃんとロレン君はこのシートを敷いておいて。私とレナちゃんはお菓子の準備をするから。」


「わかったわミーナ。」


「うんミーナお姉さん。」


ミーナとレナにお菓子の準備を任せロレンとビアンカはシートを地面敷こうとする。


ビュウ


バサッ


風でシートが舞ってしまう。


「ロレンもうちょっと力強く引っ張れない?」


「うんわかったビアンカ姉さん。」


ビアンカの指示を聞き先程よりも若干だが力を込め引っ張る。


「おとと。ロレン、力を込め過ぎよ。」


「うんごめんビアンカ姉さん。」


ロレンはそこまで力を入れたわけではないのにあそこまで力が出たのに疑問を持ちながらシートを敷いていく。


「ファニ、チェシル大きな石を持ってきて。」


ファニは触手で5センチ程の石をぴょんぴょんとシートの端に置いていく


新たな相棒チェシルは20センチ程の大きな礫岩なっていた石を持ってくる。


「チェシルそれは大きすぎよ。でももったいないわね。じゃああそこのちょっと盛り上がってる草の上に置いて。」


チェシルはビアンカの言っていることを理解していないのか別のところに置こうとする。


「チェシル、そっちじゃなくてこっちだよ。」


ロレンが指示するとチェシルは指示通りに動いた。


「うーんやっぱりパスを繋いだばっかりの野生のスライムじゃあ言葉が通じないか。」


ビアンカがしょうがないと言わんばかりのため息をつく。


「でも僕のことは聞いてくれるよ?」


「それはロレンがパスを繋いでいるからよ。相棒となったモンスターは指示するときにパスを通してから言葉を認識しているのだからパスが無い私の言葉に対する受け答えはもう少し時間がかかるわ。」


「そっか。ファニ、チェシルこっちきて。」


ファニとチェシルは触手で頭にクエスチョンマークを浮かべながら(チェシルは幻影)こちらにやってくる。


「ファニ、チェシルに触手の使い方を教えてあげて。」


ファニは丸印を出す。


「ロレン君、ビアンカちゃん準備できたから食べよう!」


「うん。」


ビアンカとロレンが話しているうちにミーナとレナは木皿にお菓子を盛りそれを載せている小さなテーブルを出していた。


「お菓子は何が………。」


バサッ


ビアンカは白目を向いて倒れた。


「野菜チップス如きで倒れるとはビアンカの野菜嫌いは筋金入りだな。」


ラルはビアンカの天敵を指指しながら言う。指差す先には皿に盛られていたのは人参、かぼちゃ、干し玉ねぎの野菜チップスであった。


「んー母さんから渡されたので一番食べれそうなのを出したんだけど。」


レナはどうしようかとアタフタとしている。


するとチェシルが前に出る。


モチッ


ビアンカの頭の下に入り込んで枕となった。


「気持ち良さそう。」


ロレンは羨ましそうにビアンカを見つめる。チェシルはビアンカの頭をこぼさないよう身体を伸縮させていた。身体の小さいファニではこうはいかない。そんな風景を眺めるロレンの眼差しは大きなぬいぐるみを見つめる年相応の可愛らしい瞳であった。


「ロレン君羨ましそうにしているときに悪いけどビアンカちゃんを起こしてあげて私達だけで食べちゃうとビアンカちゃんにも悪いし、野菜で作ったお菓子はアンネおばさんの手作りなんでしょう。だからちゃんと食べさせないと。」


ロレンの可愛い姿に心を奪われながらも建前たてまえとしてはビアンカのことを想ってのことだが本音はビアンカが気絶する事で逃げようとするビアンカを逃さないための巧妙な罠であった。


「うん、ファニ優しく起こしてあげて。」


しかしロレン、ミーナが本音をうっかり漏らしているにも関わらず気づかない。


ぺちぺち


「…や…い……だ…。」


ビアンカは魘されている。


パーーーーーン


ファニは痺れを切らしチェシルをダルマ落としのように打つ。実はファニ、主人であるロレンがチェシルに見惚れているのを見てイライラしていたのだ。その鬱憤を晴らそうとチェシルに八つ当たりの意味を込めて弾き落としたのだ。


「痛ッたーーーーー!!!」


ビアンカは地面に直撃した痛みで起きる。どうやらちょうどしたに小石か何か落ちていたらしい。幸いにも頭は凹んでおらず無傷のようだ。


「コラッ!!ファニそんな危ない事するな!」


ロレンの口調が急変した。


ファニはプルプル震えている。


「ファニそんな事してビアンカ姉さんに何かあったらどうするの!!」


ロレンは未だかつて無いほどに怒っていた。


「ファニ、頭を打ったらどんなことが起きるかわからないんだよ。」


ファニはロレンがそこまで怒る理由がわからなかった。ファニの記憶にはここまで怒られる記憶が無かったのだ。


しかしロレンの言っていることは正しい。小学生に椅子の座り方を注意する理由をご存知だろうか。実はあれで後頭部を打って脳幹が切断し脳死するという事故が存在したのだ。ロレンは母アンネにアカデーメイアでそれに近い事故があったことを聞かされておりイタズラなどでそう言ったことはやってはいけないとファニが来る前から教育されていた。


「ロレン君まあまあ落ち着いて。ファニも反省してるみたいだしね。ロレン君をチェシルに取られたく無かったんだよ。だから大目に見てあげて。」


「うん、ファニ次は絶対やっちゃダメだからね。」


ファニは身体をしならせ土下座の表現をする。


「ファーニィーーー!!!」


しかしここで許さない人物がいた。うっすらと般若を出現させたビアンカだ。やはり血は争えない。もしくはファニのせいで眠っていた力を覚醒させてしまったのだろうか。


いずれにせよファニの受難は続く。

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