アールブ
ロレン達はあれからお菓子を食べ終え(無論ビアンカも野菜チップスを完食した。)、件の桜と銀木犀のあるところに来ていた。
「やっぱり今は桜は咲いていないわね。」
ビアンカがそう呟く。咲いているのは銀木犀だけである。
「そうだね。なんでベレーさんはどっちも咲いてる絵を描いたんだろうね?」
「それはわからないわ。」
ミーナの疑問にビアンカはさっぱりわからないと匙を投げる。
「けど銀木犀は綺麗に咲いているね。」
ロレンは地面にある銀木犀の花を手に取る。
「そうだねロレン君。この銀木犀は押し花にでもして思い出にするのも良いかもしれないよ?」
「押し花?」
「そ、お花を紙で挟んでそれから本とかに挟んで平べったくして乾燥させるんだよ。私とビアンカちゃんはひまわりの花弁を押し花にして本のしおりにしているよ。もっともビアンカちゃんはあまり本を読まないから使ってないと思うけどね。」
「そんなことないわよ。私くらいたまにだって本は読むわ。」
「じゃあなんの本?」
「叡智の主人達とかよ。」
「ふふロレン君に読んであげたんでしょう。」
「もうミーナったらからわないでよ。」
見事なミーナの交渉術。ビアンカの性格読み取りロレン達に姉らしいところを見せたいがために意地を張る。そこを家族想いだと直すことでビアンカの子供特有の羞恥心を煽りつつも褒めているため無下にしづらくさせる。さすが村長の孫娘、人をよく見ている。
一方でほったからしにされたロレンは、銀木犀はもういいやと早々に興味を変え、桜の木を探していた。
「桜はこの木かな?」
ロレンが桜の木に近づこうとする。
バンッ
ファニが突然ロレンを突き飛ばした。
「ファニ、どうし……。ミーナ、レナ、ロレンを連れて早く逃げなさい。私とラルで時間を稼ぐわ。」
ビアンカの視線の先に居たのは弓矢を携えている金髪の耳が異様に長い美女アールブがいた。
(謎の声S:なんだと
ミーナとレナはビアンカの意図を瞬時に察知してロレンの手を引き全力で森を掛けた。
「バレましたか。そこのスライムは何かと勘がいいみたいね。」
「ラル[閃光花火]最大出力で!」
「オラァァァ!!」
ラルはビアンカの指示のもと全力でアールブに向かって閃光花火を出す。その威力は技の特性を考えるとする火炎放射よりもタチが悪かった。
「火精霊の主人ですか。相性が悪かったですね。[風と成りしもの、水と成りしものよ。存在を持って我の信仰を対価に我の庇護を求める]」
アールブは水と風の結界を張り閃光花火を防ぐ、が結界から少量の石が飛び込え再び燃え強い閃光放ちアールブの目を焼いていく。
「くっ生意気なガキどもがあぁぁぁ。」
怒りにより豹変したアールブ。
ビアンカは母からあるものを持たされていた。それを閃光花火と共に使えば強力な技になる為森に入るときは必ず持って行くように言われていた、それはアルミニウムでマグネシウムを包んだ直径5ミリにも満たない小さな玉である。
閃光花火により熱せられたアルミニウムとマグネシウムは強い閃光を放ち、燃えている状態で水と接触すると水素を精製し更なる燃焼を促す禁水性物質。
(謎の声S:たまにある金属火災のニュースで中々火が収まらない理由と同じで原理は単純だがかなりの被害が出るので絶対に真似をしないでください。火事になると消防が来ても上手く火災の詳細が伝わっていない場合水で消化活動を行って更なる炎上により二次災害が発生します。)
ビアンカとラルは既に技を出し切りすぐさまロレン達を追いかけて過ぎ去っていた。
「ふふふ、この私をコケにしておいて逃げられると思っているのかい。[風よ、信仰の対価へ導きを]」
ビアンカの向かって言った方向に風が靡く。アールブはビアンカの追跡をして行った。
ロレン達は走っていた。
「ゼェハァゼェハァ、ロレン大丈夫?」
「うん、まだまだ大丈夫だけどあの人は何なの?」
「ハァハァ。あれはアールブ、精霊人という種族の一つで男の子を攫いに来るのだから早く村まで帰らないと。行くよ。」
〜解説〜
精霊人
人とは違い《世界の祝福》を用いずに複数の精霊と契約し、従えるのではなくその力を己自身が行使する人の総称。なぜか子供もしくは赤子を攫うものが多い。
〜解説終わり〜
ミーナは呼吸を整えると再び走ろうとする。
パァン
しかしファニがミーナを突き飛ばした。ミーナが行こうとしていた先には矢が刺さっていた。
「やはりそのスライムは死線を潜り抜けたタイプかい。なかなかやるね。」
そこには気絶ビアンカを簀巻きにし背負ってラルを風と水の檻に閉じ込めた先程のアールブがいた。
「ビアンカ姉さん!ラル!」
「そこの男の子をこちらにくれるのなら、この女の子と火精霊は解放してあげても構いませんよ。」
自分が優位に立ち落ち着きを取り戻したのか口調が戻るアールブ。
「ロレン、そいつの話を聞くな。ビアンカは私がなんとかする!」
「その檻から逃れられるんですか。仮にも貴女と同じ精霊の術で作られた檻。できるわけないでしょうに。」
挑発されながらも為すすべのない絶対絶命のロレン達。
「ファニ!」
ロレンは指示を出す。
すると地面から鋭い石が木の上から葉っぱが回転して飛び出した。
「おやおや、やんちゃな男の子ですね。」
何事も無かったかのように避けるアールブであったがビアンカを束縛している縄を切った。
「ちっ、だがそれで助けられたと…」
バーン
チェシルがビアンカ目掛けて突進しすぐさま回収して姿を消した。
「おーやるなロレンとチェシル。」
ロレンとチェシルの見事な連携に関心するラル。
「人質の分際で偉そうですね。小娘は逃しましたがまだ貴女が残っていますよ。」
「そうだな。でもよそ見は厳禁だぜ。」
そうこの瞬間ラルに視野を向けていたアールブはスワンヌとマッコリの強襲に気づかなかった。
「スワンヌそのまま爪を打ち込んで。」
スワンヌは爪でチクっと刺すとアールブから遠ざかる。
「カモノハシ、毒ですか。」
アールブは身体への異常を確認するが特に問題は感じなかった。
「マッコリ、傷口に入り込んで!」
マッコリはスワンヌの開けた小さな入り口に入り込む。
「その程度のことが私に聞くとでも、[水よ、その身をもって我が身に
アールブはすぐさまマッコリを体外に排出する。その隙にマッコリの本体はラルの檻を通り抜けラルを包んで再び檻の外に出るマッコリは檻からの攻撃によりきずついたもののラルは無傷であった。
「でも私は逃げられたぜ。おばさん。」
ラルは挑発する。
「なんだとこの火精霊が!」
ラルはアールブが振り向くと同時に閃光花火を出しアールブの目を焼く。
「ぐっ!」
「よし逃げるぞ!」
ラルの合図で再びロレン達は走る。
「ちっ、[水よ、清らかなる癒しを]」
あっという間にアールブは目を治療し、とてつもなく細い針のような矢を取り出し弓矢を地面に水平になるよう構えロレン達を見据える。
ビュンビュン
グサッグサッ
レナとミーナの足を捉え血管を一切傷つけず的確に矢を射止めた。
「「いだっ!」」
レナとミーナは転び地面に身体を叩きつけられた。血こそ流れないもののレナ達の足は全く動かなかった。
「ほら坊や達この娘達がどうなってもいいのかい?」
アールブはレナとミーナを人質に取った。ロレンとアールブの距離は約20メートル、ロレンが何かすればいつでも手を出せるよう弓矢も構えている。しかもレナ達が死なないように調整して傷つけたことで実力の差と人質としてのレナ達の価値を知らせている。
「うぅ....。」
ロレンは弱々しくも前に進み自らを差し出そうとしている。
「フフフ、坊やさあこっちにおいで何もとって食っちまいはしないさ。ただ私たちの繁栄には役に立ってもらうけどね。」
ファニも隙を伺っているが人質を取られた状況ではどうすることもできない。ビアンカを乗せたチェシルはすでに事情を報告しに村に向かっているそれを待ち父達が来るの祈るしかない。ロレン絶体絶命の大ピンチ。
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