母の特別授業
ロレン達は近くの畑に来ていた。
「さて、ビアンカ、ロレン。お肉って何で出来ている?」
「モンスター!」
ビアンカが元気よく答える。
ロレンは対照的に顔色を青くしながらコクリと頷く。
「じゃあお野菜や果物は何で出来ている?」
「植物のいろんな部位。」
ビアンカが答える。
「そう根っことかいろんなもので出来ているわね。」
近くにあるタンポポを摘み母が説明する。
「じゃあ、この植物とモンスターの違いを当てて見なさい。」
「植物は動かないし声を上げない!」
またもビアンカが答える。
「半分正解。声は上げないけれど動きはするわ。その証拠にほら見て見なさい。」
今度は別々の畑から人参を2本引き抜く母。
「この2つの人参の毛穴の並びをご覧なさい。」
2本の人参の毛穴の並びは真っ直ぐになっているものとまばらになったものがあった。
「まっすぐのとまばらのがあるよ。」
「そう、次はさっき人参を採った所の側面の土を掘って見なさい。」
ロレン達は母に言われた通り土を掘ってみる。すると毛穴の並びがまっすぐの方は柔らかく、並びがまばらの方は硬かった。
「まばらの方が硬かったのは人参が土の中に入ろうと回転していた証拠なの。」
「でもそれがお肉と野菜に何の関係があるの?」
今度はロレンが言う。
「それはね。モンスターも植物も一所懸命に生きようとしているの。まあ確かに植物が動いているのは微々たるものかも知れない。けれどもハエトリグサという種類の草は栄養が足りなくなると主に蝿系モンスターを葉っぱを変形させて食べてしまうの。そんな植物だっているくらいに植物もモンスターも生きるということは他の命を奪ってでも成し遂げたいものなの。ビアンカ達だって、モンスターや植物を食べているでしょう。それに何も食べるだけではないわ。うちでも飼っている牛や馬系のモンスターは野生では時に生きるために自分の食べはしないものを殺すことだってあるわ。」
そこまで言うとロレン達は母の言いたいことが解った。
「うん、僕はこれからモンスターに感謝して食べる!」
「そうよく気づいて前を向けたわねロレン。」
ロレンのことを褒める母。しかしここで素直になれないというか母の誘導尋問によって好き嫌いを無くすことを余儀なくされた人物がいた。
「ぐぬぬぬぬ。」
そうロレンの家の野菜嫌いビアンカである。
「ふふ、ビアンカ。貴女の大好きなお肉も大嫌いなお野菜もみんな生きている。なら、ロレンと同じように食べれるわよね。だってロレンのお姉ちゃん何だもの。」
(謎の声S:うーんここでビアンカに先に生まれた自覚を持たせ、プレッシャーを与える。この教育方法は下手をするとビアンカがワガママになる可能性もあるが逆にロレンにいいところを見せようと良くなる場合もある。ハイリスクハイリターンな教育方法だぜ。)
「うんもう!!わかったわよ!食べるわよ!!」
もはや自暴自棄になり威勢で答えるビアンカ。
「うんうん宜しい。じゃあミーナちゃんと一緒に行く時に持っていくお菓子もお野菜がメインのお菓子でいいわね。」
母は魔法を唱えた。
♪( ´θ`)ノピロピロ(ドラク○の呪文の音)
ビアンカは麻痺状態になった。
ビアンカは幻覚に掛かった。
ビアンカは攻撃することができなくなった。
母のトリプルデバフ効果の魔法を受けたビアンカは文字通り絶体絶命となっている。ロレンとラルに目を配らせるがロレンは目を合わせてくれない。ラルに至っては腹を抱えて笑っている。
「ううぅ、じゃあなるべく甘いので!」
「ええ、わかったわ。甘くて美味しい野菜のお菓子を作るわね。」
母もクスクスと笑いながらもビアンカのお願いを承諾した。
〜その頃レナと父はロレンに行っていた訓練のことやチーズの研究の進み具合について話していた。
「ねえ、父さん。ロレンにはどんな訓練を施したの?」
「ロレンには冒険者ギルドでアマチュア登録をしてきてそれから依頼を1つ受けてきたぜ。」
「ロレンはモンスターを殺したんだね。」
「ああ、だからソーセージが食えなかった。」
「父さんもロレンがいづれは通る道だもの仕方ないよね。だからこそ私はロレンの心の支えになってみせる!」
威勢よく理想を語るレナ。
「おう頑張れよ。じゃあレナも訓練受けておくか?」
「うん、ただロレンとは別に訓練をしてくれると嬉しい。」
「ん、どうしてだ?レナのことだからロレンと一緒に訓練をすると思っていたんだが?」
疑問の声を上げる父。
「ロレンは多分マライア王国を出て行くと思う。けれども私は母さんのもとでいろんなことを学んでからロレンの隣に行きたい。だからロレンに未練を残さずに旅立って欲しいから、ロレンとは訓練を一緒にしない。」
「そうか、レナも色々考えているんだな。」
(謎の声S:6歳にして厳しそうな道を歩くことを決めるレナ。ロレンもそうだが良く飽きずにやれる。真の夢は永遠なのかもな。)
いつもはボケ役の謎の声Sが真面目にシリアスなことを言っているが確かにそうである。
「そうか、じゃあ訓練をつけてやるよ。ロレンがやらない時間となると夜しかないからなるべく手短かで効率の良いをつけてやる。だがそれだけでは足りないから個人メニューを出すからちゃんとやって置くんだぞ。」
「うん、わかった。」
「そういえばレナ。チーズの研究はあれからどうなっているんだ。」
「うん新たに水牛の乳にマッコリで実験してみたら硬めのチーズが出来た。」
「おおそうか!味はどうだった。美味かったか?」
「味はお肉の味がするお豆腐見たいな感じだった。」
〜補足〜
ロレンの住んでいる地域のお豆腐は日本の豆腐とは違い菜食主義の人用の固いお豆腐である。
「じゃあ、肉食ったを方が早いかもな。だけど料理としてではなくプラトー(チーズの盛り合わせ)として食べるのは面白いかもな。酒の締めにもチーズは良いしな。」
プラトーにしてチーズを食べ比べるのにはアクセントになって丁度いいと思う父。
「うん、私もそう思う。それに今のロレンにも食べやすいと思うし、いくら母さんの特別授業を受けてもすぐには食べれないと思うから。」
「ああ、確かにな。前の時もかなり時間かかってたもんな。あん時は確か母ちゃんの授業はしていなかったから判らんが。」
「うん。もっとチーズの研究も進めないと。」
「おう、頑張れよ。ただあまり根を詰め過ぎないようにな。」
「うん。」
こうしてレナのロレンと旅に出る計画が始まった。
〜回想終わり〜
ロレンは母との特別授業が終わり。残したボロニアソーセージを食べようとしていた。
「ロレン、吐きそうなら無理しなくてもいいわよ。」
母があくまでも無理はせずに少しずつ食べていくよう薦める。
「うん、けど頑張って食べてみる。」
顔色は先程よりは良くなったもののまだ青かった。
「ロレン、お肉を食べる前に私とマッコリが作った水牛のチーズを食べてみて。チーズなら食べれるでしょう。そこから慣れて行こう。」
レナがチーズの入った籠を持って来た。
「うん、ありがとうレナ姉さん。」
レナはいくつかのチーズを籠から取り出して切り分けプラトーにしてロレン渡す。
ロレンはチーズを食べていく。1つ目は軽い感じでクセのないチェダーチーズ。
2つ目はクセの強い羊のチーズ。
3つ目はロレンも食べたことのない味だった。クセが若干あるが鳥の肉に近い感じでクセでそれでいてさっぱりとした味わいのチーズで食感は固茹で卵に近い感じだった。
「レナ姉さんこのチーズは?」
「それはね。ミーナの相棒のスワンヌの母親の乳を使ったチーズだよ。」
「スワンヌの母親?」
「うん、また子供を産んだみたいで母乳を分けて貰って作ってみた。」
「そうなんだ。美味しいねこのチーズ。」
「うん、これから遊ぶ時にお礼を言ってあげて。」
最後のチーズは肉の味がした。
「これは。」
「それがお肉の味。ロレン、知ってる?お乳はね。血から出来ているの。チーズもお肉と一緒。だからロレンはお肉が食べれるよ。だってこんなにも感謝して食べれてるんだもん。」
レナはそう言ってロレンを励ます。
「うん、食べてみる。」
レナが作ったチーズの影響か肉への抵抗感が減っていた。
バリッ
口いっぱいに広がるコク。そして肉の臭みを消すために添えられたマスタードが食欲をそそる。何よりはボロニアソーセージ独特の肉の歯ごたえハンバーグのようにミンチだけでは到底なし得ない腸の歯ごたえと閉じ込められ肉汁。
ロレンはこの味をくれたものに感謝した。
「ロレン、おめでとう。」
母から祝福の声が掛けられる。
こうしてロレンは夢追う人生の苦難の1つを己の心を残したまま成し遂げた。
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