866番目
花るんるん
第1話
映画「ブルース・オールマイティ」で、ジム・キャリー扮する、冴えないテレビレポーターは、ミドルクラス(2流)にあふれた自身の生活に辟易する。そして、彼女の目の前で、ミドルクラスの恋人と言いかけて、ハッと我に返る(だったかな)。
ミドルクラス。2番目にあふれた暮らし。素敵じゃないか。
最高だ、2番目。
2番目なのに、最高だ。
1番なんて、冗談じゃない。いや、ホント、悪い冗談だ。
僕はただ、慎ましい生活を送りたいだけ。
慎ましい中にも、ささやかに華やかな。
それが、2番。
目指して獲れるもんじゃない。
狙って獲れるもんじゃない。
「それって、1番でも、3番でも成立するセリフじゃない?」と何も知らない、分からない君は言う。
そういう君の無知が、2番の価値を貶めていく。ゼンゼン、分かっていない。
コース料理を考えてみろよ。
サラダ(1番)、お肉(2番)、ケーキ(3番)の順で出てくる。
1番も、2番も、3番も、質的な違いを認めた上で、等価値か?
チガウだろオッ。
そもそも、比べようもないものだろ。
サッカーとメロンも。
歯医者とフラペチーノも。
味噌汁とキリマンジャロも。
比べようもないものを、言葉の力で平にしていく。無理やり同じステージに並べてしまう。
「世界」とか「宇宙」とか、便利なステージを捻り出せば、それで済むと思ってやがる。
そんなもんじゃないんだよ、2番の価値は。
「本命の次に好き」という危うさ。怪しさ。
「誰も救ってくれない」という絶望感。
愚鈍な君には分かるまい。絶妙なる2番の立ち位置を。
「世界」や「宇宙」なんて、ウソっぱちだ。そんな言葉、忘れてしまえ。
「『1番』や『2番』や『3番』なんて、ウソっぱちだ。そんな言葉、忘れてしまえ」と無遠慮な君は言う。
忘れられねェよ。
忘れられる訳ねェだろ。
本命の次に好きな、君みたいな奴を。
どうすればいい?
「『137番』や『138番』や『139番』なんて、ウソっぱちだ。そんな言葉、忘れてしまえ」と無遠慮な君は言う。
あいにく、僕は、137番にも、138番にも、139番にも興味がない。お気の毒さま。
「『864番』や『865番』や『866番』なんて、ウソっぱちだ。そんな言葉、忘れてしまえ」と無遠慮な君は言う。
そういうことじゃないんだよな。
だから、君は2番なんだ、永遠に。
愛しの2番。
「わたしは2番目なの? 本命の次に好きなの?」
そうだよ。
「喜んでいいの?」
たぶん、喜んでいい。君には、1番でないことを嘆くような浅はかな人間にはなってほしくない。人生、高望みは禁物だ。
「866番のあなたが、2番を目指すのは、高望みではないの?」
たぶん、高望みではない。
「なぜ?」
なぜ? なぜ、「なぜ?」と聞く。慎重に「たぶん」という保留条件を付けている僕に、なぜ?と聞く。ああ、やっぱり、君は最高だ。君は2番だ。
「ああ、やっぱり、あなたは最高だ。あなたは866番だ」
…………。
「『喜んでいいの?』とは聞かないの?」
たぶん、聞かない。
866番目 花るんるん @hiroP
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