2番目

八谷彌月

第2話

 ここは古今東西ありとあらゆる物の二番目を集めた所だと少女は説明してくれた。

 例えば、私の後ろにある部屋には本棚がズラリと並んでいるのだが、そこにある本は二巻目しかないという。一巻、三巻以降はどこにもないのだ。


 このように他の部屋にも様々な二番目だけがあるらしい。

 何故ここにいるか記憶の無い私はここを見て回ることにした。もしかしたら何か思い出せるヒントがあるかもしれない。手始めに私は目の前の部屋の扉を開く。


 私が開いた部屋には銀色の物体がたくさん飾ってあった。丸くて輪っかになった紐が付いる物や木製の土台に乗っている物もある。

 なるほど。ここはあらゆる競技の二番目の賞がある場所か。

 少女は正解だよと言う。

 本の部屋もそうだったがこの部屋も奥まで無限に広がっているように見える。本当に一つ残さず全ての銀賞を飾っているのだろうか。そう訊ねると少女はそうだよと頷いた。

 これでは一つの部屋を見るだけで何年、いや何百年とかかってしまうだろう。

 私は、ここに私の記憶に繋がりそうなものは無いなと判断して次の扉に手をかける。


 次の部屋を覗くと生き物の標本が並んでいた。

 なんと、生物までいるのか。トカゲやヘビなどの爬虫類から鳥類、哺乳類、両生類、魚類まで様々な種類の生き物がいる。現代に生きる物だけではなく、恐竜などの過去に絶滅した生き物も見受けられる。

 ここは何の二番目なのだろうか。

 ここは二番目に小さい生き物を飾っているところよ、と少女は勿体ぶらずに教えてくれる。

 爬虫類、鳥類などその種類の中での二番目も並んでいるので、これまた部屋が奥まで無限に続いているらしい。

 ちなみに、人類は別枠で部屋を設けているからここにはいないよ、と補足もしてくれた。

 それではこの部屋も私には関係ないかもしれない。むしろ、人類のいる部屋があるなら、そこへ行くべきだろう。私だって記憶は無いけど立派な人さ。

 私は少女に人の部屋まで案内してもらうことにする。


 二番目に小さい部屋を後にして、少女の後ろをついていく。

 部屋の前には番号が振ってあるわけでも名前の書いてあるプレートがかかっているわけでもない。どの部屋も見分けがつかない。それなのに少女は目的の部屋が何処にあるのかわかっているかのように奥へと進んでいく。

 実際、わかっているのだろう。それは人類の部屋だからこそ覚えてるのだと思う。彼女だって私と同じ人さ。

 というか、様々な二番目を収集しているんだ。だったら、部屋の数だって無限にあるはずだ。そんなのを覚えられるはずがない。

 試しに私は適当に部屋を一つ指差して、ここは何の二番目だと質問する。

 すると、彼女はここは二番目に大きい生き物がいる部屋だよ、と淀みなく話す。

 部屋を開けて確かめてみるとクジラが目に飛び込んできた。種類はよく知らないが他にも大きい生き物がたくさんいる。

 驚いた。まさか全部覚えているのだろうか。私は他にも幾つかの部屋を差して訊いてみる。

 少女は考える素振りを見せることなく、片っ端から、CDアルバムに入っている音楽の二曲目、戦隊ヒーローの二話目、宝くじの二等賞、使い捨てカメラの二枚目写真、と当てていく。

 やはり彼女は全て覚えているのだ。

 私は次の部屋を指差そうとしたとき、あるものが目に入る。


 階段だ。ここから上にも下の階層にも行けそうである。なんなら、出口へ行けるかもしれない。

 近づいてみると、その階段は一段一段違う形、違う色をしていた。

 少女はこれは階段の二段目を集めた階段だと言う。

 想像はついたが、もはや意味がわからない。二段目以外は二段目じゃなくなるだろう。

 しかし、となると、だ。この階段も永遠のように続いているのだろう。見下ろすと真っ暗闇になるまで段差だ。

 ここが何階か知らないが――きっと二階だろう――私はここの階からも出られないのか。

 私は諦めて少女に案内してもらう。

 途中、同じようになっているエスカレーターやエレベーターを見つけつつ、人類の部屋まで到着した。時計や携帯がないので正確にはわからないが、二十分以上は歩かされた気がする。


 少女はさっさと部屋へ入っていく。私も少女に続く。

 兵馬俑のように人がたくさんいた。全員裸で直立して綺麗に並んでいる。彫刻美というやつだろうか。どの人からも不潔さは感じられない。それどころか崇めたくなってしまうような魅力がある。

 動き出しても不思議ではないくらい精巧に作られているからだろうか。

 何を言っているの、これは本物だよ、と少女は言う。

 いやいや、いくらなんでも人間はホンモノを使えないだろう。そうさ。彼女なりのブラックジョークだと受け取っておこう。

 ところでこの人は何の二番目なのか、と話題を変える。

 少女は不満そうな顔をしながら、丁寧に教えてくれる。

 そうして彼女の説明を聞きながらじっくりと見て回っていった。

 身長、体重が二番目、競技で二位、次男次女、各国の二代目天皇、首相、大臣、この部屋で二番目に展示された人等、いろいろみたが、どれも私の記憶に繋がるようなものは無かった。

 その後も他の部屋を見たりもしたが、何も思い出せず疲弊していくばかりだった。


 ここの脱出方法も謎だしな、と私は少女と最初に出会った場所で途方に暮れる。幸い少女のおかげで迷子にならずには済んでいる。

 そういえば、この少女は私のことを何か知らないのだろうか。

 少女はあなたのことは何も知らないけど、と言ってから後ろを振り向いて指を差す。指先の方向を見てみると机の上に一冊のノートが置いてある。

 私はそのノートを矯めつ眇めつ眺める。

 どうやらそれは来館者記名帳らしい。

 一頁目には女の子っぽい名前が縦書きで書かれてあった。裏表紙には『初代管理者』という役職に続いて一頁目に書かれていたのと同じ名前が書かれてある。少女の名前だろうか。それ以外は何も書かれていない。


 なるほど。そういうことか。どうやら私は一生ここから出られないらしい。ここでどう足掻いてもそれは覆らないだろう。ならばおとなしく運命を受け入れるべきか。

 私は記名帳の二頁目に自分の名前を書く。そうしてから裏表紙に『二代目管理者』と入れて、もう一度自分の名前を記入する。

 これでいいのだろうと少女の方を振り向くと、彼女はもう自分の役割は果たしたとばかりに階段のある方へ向かっていた。

『一番目』の所へ帰って行くのだろうか。

 二度目の人生を楽しんで。私は少女の小さな背中からそう言われているような気がした。

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2番目 八谷彌月 @tanmatsu

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