第13話 秘剣、敗れたり
馬鹿な、とシラノは口にしていた。そんな、馬鹿な――……。
動きは捉えていた。ただ、上から下に。セレーネは斜めに剣を振り下ろしただけだ。
「……なるほど、貴方を見くびっていましたか。それは申し訳ありません」
纏った服に生暖かさが広がっていく。血が、噴出しているのだ。胸が斬り開かれた。袈裟懸けに肩口から切り裂かれていた。
いや、切り裂かれたというより――抉られたに近い。柔らかなものに爪を立てたように、肉を削がれて骨の一部を削られている。
片膝をついたシラノの見上げた先には、十歩の向こうで両手に剣を握るセレーネ。月光の下で翼を広げる白鳥か、はたまた竪琴を鳴らす女神の如く凛としてそこに立つ。
「ガ、ふ……っ」
手をついた地面には、半ばから断たれた触手刀も転がっていた。シラノ自身と合わせて、斬り分かたれたのだ。
馬鹿な、ともう一度呟いた。
距離という概念が存在せぬかの如く、飛来した斬撃――そも斬撃が飛来などするのか。真空刃などというのは愚かが極まる。シラノの触手抜刀ほどの剣速を以てしても到達しえないのだ。
確かに、セレーネの剣速もまた凄まじい。だが、触手抜刀を超えるほどではない。
「咄嗟に喉を剣で防いで致命傷を免れましたか。……技量は未熟にしろ、貴方には剣士として大切な力があります。視点もいい。伸びしろがある、と言えますね」
「ご、げほっ……」
「……ええ。このような出会い方でなければ、貴方の師となるのも決して悪くはない。そして仕上がりに手折ってみるのも一興ですが――」
おもむろに、剣先が動き、
「それをここで摘むという無常もまた一興!」
そして振り下ろされる。
「イアーッ!」
だが、二度の致命を見過ごすほどシラノも愚かではない。
おぞましい
操作性を手放す代わりに触手自体を硬化させ、その強度を大幅に向上させる“
その鋼鉄にも等しい無数の刃の盾が、シラノとセレーネの間を阻むが――強烈な破砕音。
容易く切り裂かれたのだ。障子を指で破るように。作られた断裂からはセレーネの姿が垣間見える。
だが――シラノは構わなかった。
「イアーッ!」
腹の底から捻り出される冒涜的な召喚
そして、銃列隊の如く駆けるシラノの前方に並んだ十門の触手召喚陣――地を舐めるように、一斉に触手槍が放たれた。
「イアーッ!」
叫びに合わせて闇夜に
――白神一刀流・三ノ太刀“
電撃を纏う触手の杭が、いや、杭という杭から四方八方へと一斉に放たれ伸びる杭の茨が下段からセレーネを狙う。
「イアーッ!」
着弾。上がる土煙に構わず、更に触手の杭から杭を生じ空間そのものを埋め尽くす。
敵の技の絡繰りは判らぬ。だが、遠距離での戦いはジリ貧である。そして判った事実は二つ――『遠間からでも斬撃を放てること』と『斬撃の速度自体は変わらぬこと』。
ならば、いざ。今こそは、触手抜刀の間合いに飛び込むべきであった。
今の技では倒せない――そんな敵への信頼と確信を胸に土煙へと駆け出すシラノの背後から、
「ふッ」
三日月めいた弧を描く鎌剣が振りかぶられた。
いたのだ。セレーネが。背後に。上に。
一体如何なる魔法を使ったというのか。たった今走り抜けたばかりの空中に展開されているギロチンの盾に、彼女は剣でぶら下がっていた。
考えるまでもない。咄嗟に地を蹴って倒れるように飛び込み前転。背中を裂かれるも、何とか潜り抜けた。全力疾走が幸いした形だ。
だが、セレーネは待たぬ。
着地と共に、更に地を押し蹴っての強烈な跳び薙ぎ。斜めに襲い来る一閃を、身の近くで咄嗟に受けた刀身に亀裂が入る。
そして独特に曲がった先端は容易く剣の防御を抜け超え、シラノの左肩に突き立った。
「クソ……!」
広がる灼熱の痛みを前に、前蹴りを出せたのは幸運だった。ほとんど押し倒されるも同然の姿勢で続いたのは、頭上からの二の太刀。おそらく、たとえ受けても死んでいた。
胸に背中、それに肩――灼熱の爪で抉られたかの如く広がる痛みの信号に、シラノの顔に脂汗が浮かぶ。
「ふふ、女性を足蹴にするなんて情熱的なんですね……貴方は。ええ。作法はありませんが、生きたいという意思は伝わってきます。とても強く、貴方の声が聞こえますわ」
肩で息を整えれば、五歩の向こうのセレーネは銀髪を押さえながら満足そうな笑みを浮かべていた。
これは、対話なのだ。
命懸けの対話だ。命が懸かっているからこそそこに嘘はなく、交わされる言葉というのは何よりも確かな生への衝動。
彼女はそれを望んでいた。――故に、斬り合うのである。
「初めに触手使いなどと、侮辱してしまって申し訳ありません。……ええ、貴方は剣士です。誰よりも真摯に触手のその業と向かい合っている。そこに嘘はない。私とも、真剣に応じてくれている」
「……」
「お嫌でなければ、もう少し会話を楽しみませんか? もっと貴方のことを知りたい……もっと好ましくなれば、それだけ斬る価値が上がるというもの……そうでなくては斬り合いの意味がありませんわ」
それは本心であり、虚構だった。
シラノが会話に興じようと意識を抜けば、その瞬間に彼女はシラノの首を容易く裂き落とすであろう。会話を楽しみたいと言いつつ、戦いから気を抜くシラノを生かして見逃す理由もないと断じる。
どちらも本心だ。故に、厄介なのだ。
だからこそ――
「……そうだな」
「あら?」
「次に見せる一刀が俺の全力で、信念だ。――それで十分だろう。構えな」
シラノは虚空から生じた触手の柄を掴み取った。
最早決まった。彼女は危険だ。既に人間としての対話は不要であり、これ以上は言葉での会話の必要もない。これほどまでに剣呑な魔剣使いは、その魔剣を断つほかない。
「ええ。……そうですね。剣士に会話は不要――いえ、剣が何よりの会話となる。貴方のこれまでの集大成を、その人生を拝ませてください」
応じたセレーネが、剣と剣とを咬み合わせた。
いざや、呼吸を一つ。
敵の技の絡繰りは判らぬ。如何にして遠間から斬撃を射出しているのか。如何にして瞬く間に移動を済ませたのか。その原理は見えてこない。
だが、既に重症だ。これ以上の時間をかける訳にも行かない。
呼吸を引き絞りつつ、シラノは柄を握り締めた。
◇ ◆ ◇
「シラノくん……」
やや離れた草原で、フローはシラノの戦いを見守っていた。
己とは異なる触手の用法。百神一刀流ではなく白神一刀流とシラノは称し始めたが――確かに触手の力を、より直接的に破壊の方面へとを突き詰めた。そんな戦闘法であった。
逆にフローならば――より上級の召喚を除くとしたら――興奮剤や麻酔剤を浴びせることで鎮圧にかかるだろうか。それほどまでに、二つの技と技には違いがある。
ここまで魔剣使いに喰い下がっている。それは確実にシラノ以外の誰にもできない。
確かに、触手使いが魔剣使いに及ばぬという道理はない――そんな言葉通りの戦闘であったが……。
「うぇ!?」
斬られている。切り刻まれている。
既に、いくつの斬撃がシラノを襲っただろうか。確かに戦いにはなっているが、お世辞にも有利とは言えない。このまま破られるのも時間の問題――そうとしかフローには見えなかった。
いいや、と首を振った。いいや、違う。
信じると言ったからには、信じねばならない。まだシラノは諦めていない。ならば、立ち合いを務めるフローが諦めてどうするというのだ。
拳を握り締めて、心の中で声援を送った。余計に声をかければ、その集中を乱してしまうかもしれない。
(シラノくん……! ボクが……ボクがついてるからね……!)
死にさえしなければ、傷などいくらでも治せる。敗れさえしなければ、どれほどでも取り戻せる。その為に自分はここにいるのだ――とフローは強く強く指先に力を籠める。
そして果たして、二人の剣士が足を止めて向き合った。
空中に生じた触手の柄を握り締めるシラノと、鋏めいた形を成した魔剣を構えるセレーネ。
互いに放たれるは必殺――動いたのは、シラノだった。
「イアーッ!」
フローには知覚できない最速の剣術。
空気の破裂音を後ろに追いやる神速の抜刀は、紫色の閃光として空間を薙いだ。人の領分を超え、魔の
それこそが、シラノ・ア・ローが生み出した新たなる触手の技法――九つしかない百神一刀流を改めた十番目の剣、白神一刀流・零ノ太刀“
眺めたフローも確信する。この技ならば、魔剣にも通じる……と。
だが、
「な……!?」
剣を振るったシラノは、呆然とセレーネを見やっていた。
そして、何たることだろうか。その手に握られた太刀――触手の刀は、半ばからその刀身を失っている。
直後、フローの眼前を掠めて――回る何かが突き立った。見ればすぐ真横に、半分から先の刀身。極紫色のその刃は間違いなくシラノの握っていた触手刀だ。
断ち斬られていた。高速の斬撃が。超速の抜刀が。神速の一閃が――シラノの一撃が。
シラノの刃は、鋏を為した二振りの魔剣によって迎え撃たれ――そして真っ二つに斬り落とされたのだ。
「確かに……貴方の信念、受け取りました」
「くっ……」
「では……改めて、ごきげんよう」
そして、セレーネが頭を下げる。
その瞬間――背後から何かに貫かれるようにシラノは体を浮かし、水風船を破裂させるかの如くその背中から多量の血流を噴出させた。
そのまま、彼は倒れ込む。
どんな原理なのかはフローには分からない。だが、これだけは彼女にも理解できた。
たった今フローの目の前で――――シラノの秘剣は、白神一刀流は敗れたのだ。
◇ ◆ ◇
何が、と思うときには既に遅い。シラノの鼻を枯草の匂いが満たし、頬を雑草の感触が掠めていた。
倒れたのだ。いや、倒されたのだ。セレーネの攻撃によって。
「ふふ……秘剣敗れたり、という奴でしょうか」
レース模様で彩られたスカートを揺らしてセレーネが嗤う。
大鋏めいて組み合わされた二振りの片手剣――〈
彼女はただ、片手に剣をぶら下げていた。追撃の意思はない――否、追撃はもう既に完了しているとでも言うように。
毒を帯びた電流を生む灼熱の心臓……背中に無数に刻まれた切創が、焼けるような痛みの大元が、俄かに
そう思った瞬間、シラノは叫んでいた。
「イアーッ!」
己の左腕を縛り上げた触手の蔦。そのまま無理矢理に引き起こす。
自力で立つほどの体力は消耗していた。だが、寝ている訳にはいかない。寝たまま死ぬ訳にはいかない。
ごふ、と咳に合わせて血が噴き出した。
胸骨を抉る切創。左肩に突き立った刺傷。背面に無数にできた傷はいくらかが骨を断ち、最悪は肺腑まで届いているかもしれない。
「……立つのですか、その傷で?」
「俺は負けたかもしれない……だけど、俺の技はまだ負けてない」
「そのまま寝ていれば、楽になれたというのに……。ですが、そう言われて応えぬのも無粋というもの……ええ、では最後まで存分に楽しみましょうか」
意外そうに目を開きながら、
いずれにせよ彼女は殺す気である。地に伏せたならそのまま、立ち上がったならその首を……殺すという未来に変わりはない。
上等だ、とシラノは触手の蔦を手放す。
十分とは言えない。だが、まだ立てる。立っているなら死んでいないということで、死んでいないならまだ戦えるということだ。
ふぅ、と息を絞って吐き出した。
「イアーッ……!」
虚空から生じさせた触手の柄を握り締めて、シラノは肩息を吐いた。
対するセレーネは僅かに頬を盛り上げ、口角を三日月型に歪めている。
彼女はただ勝つ為だけに戦っているのではない。生と死の間を愉しむ為に戦っているのだ。
そしてもう一つは単純――必要がなかったから。セレーネの言葉通り、寝たままならばシラノは数瞬後には死んでいた。
背中の傷が、
(これが……魔剣の能力か………)
ことここに至って、シラノにもようやくその原理が見えた。
チラリと背後を伺えば、先程シラノが展開した触手の茨――――そこに傷はない。だが、不自然に一人分の空間が押し広げられている。
迫り来る茨を押し退けたのは鎌剣だ。両手に魔剣を握っている以上、剣を使って茨を払う他ない。
だと言うのに、茨の一片たりともに傷がないのだ。恣意的にも思えるほどにそこに傷痕が存在していなかった。
否――――たった先ほど、その傷痕は飛んだのだろう。茨からシラノに目掛けて。
(背中の分は、茨につけた傷か……つまりもう仕掛けてたってことだな。挟み撃ちの形で、既に……)
茨からの脱出に合わせて傷を作って、とうにセレーネは仕込んでいた。
シラノの必殺剣との闘いに応じつつも、仮に万が一己の魔剣が敗れたとしてもなおシラノを殺す為の罠は張っていたのだ。
生き汚いというよりは死に汚い。いや、その死の最期の一瞬まで戦うことが彼女の持つ決闘の流儀なのだろうか。
「…………」
右足を一歩踏み出した形の、抜刀の右構え。
互いに向かい合った姿勢のままシラノは静かに息を吐き出した。
動く傷痕、飛ぶ斬撃、超人的な回避能力、そして触手抜刀を破った鋏剣の超高速斬撃――その答えは、
(月の満ち欠けのように……その引力に応じた海の満潮と干潮のように……剣で作った傷や剣同士を引き寄せ、遠ざけることがこの魔剣の能力……)
それが触手抜刀を凌駕した切断の絡繰。刃同士を猛烈に引き合わせたのだ。
飛ぶ斬撃も実に単純。空気に作った傷そのものを弾き飛ばしたもの。純粋な斬撃ではなく、抉られたような傷になったのはその為だろう。
思えば初撃の回避行動も、打ち合いの際に触手剣へと作った傷から己の剣と身体を弾き飛ばしたのだろう。故に二ノ太刀“
「…………」
遠距離からの防御を無視した斬撃。高速での回避行動。傷痕の移動による重症化に、多角的で不意を突く全方位攻撃。
そして、触手抜刀を凌駕する鋏斬り――。
絡繰は判った。同時にその強烈さも判った。魔剣が魔剣と謂われるその
確かにこれこそが地上における最強の一振り、その言葉に嘘はない。その曰くは伊達や酔狂であってのものではない。
だが、それでも――――やはりシラノのすべきことは変わらないのだ。
即ち、
「魔剣、断つべし……!」
そして一足を踏み出し、腹の底から息を吐ききった。
「イアーッ!」
◇ ◆ ◇
放たれるは豪速。不可知の秘剣――触手抜刀。
迎え撃つは神域。不可侵の魔剣――〈
再び、その刃が交錯する。
紫色の軌跡を描く刀身は音を置き去りにし、光の一閃としてセレーネへと弧を描く。
だが、応じるは魔剣。蒼銀の鎌剣は月光を弾き、己の影を絶って
その速さは伯仲に非ず。互いに内刃を引き寄せる〈
しかし、セレーネは瞠目した。咬み千切るべき刀身が――――無い。
彼女に迫るは液状の散弾。強度を失った触手の刀が、液体の刃として襲いかかる。
「――――――――」
だが、敢えて踏み出すことこそが剣鬼たる所以。
背後に在する“甲王”への傷から魔剣を弾き――同時、シラノの傷目掛けて引き寄せる。
右腕の、その白き肌に飛沫が触れるが――喰い進むより先に為されたのは最終加速。
開いた蒼銀の死神の大顎――大鋏のなぞる死線は一つ。左肩口から右脇腹。シラノの胴を斜めに結んだ線を、両断せんと疾走する。
先手はセレーネ。有利はセレーネ。大鎌鋏は、シラノの死域を掌握した。
僅か一寸。たとえ食い込みさえすれば、無限に傷目掛けて疾駆し切断するが故の死神の牙。即ち、それこそまさに必殺の剣である。
だが、
「イィィィィィィイアァァァァ――――――――――ッ!」
迎え撃つのはシラノも同じ。否――迎え
退かぬとは知っていた。いや、退かぬと信じていた。そして、退こうとも進もうとも構わなかった。
応じるは柄。捉えるは断面。生じるは刀身。放つは直突。
生じた刀身すらも更に三つに自切し――再びその断面から繰り出され、それぞれを玉突きに超加速する触手の白刃。まさしく、死域の刺突。
速度で敵に上回られたならば、更にその速度を超越すればよい――単純にして明快な真理であった。
振り絞った剣先が、握った右腕が――己を両断せんとする大鋏の真横を抜け、迫るセレーネの腹部に三つ突き立つ。
これこそが、白神一刀流・零ノ太刀“
触手――
だが、まだ終わらぬ。
突き押された身体は、土煙を上げる両足で踏み止まった。臓腑を零し、口元を血化粧に彩られてもなおセレーネは嗤う。
死ぬまでが即ち死合――セレーネは止まらぬ。セレーネは止めぬ。シラノの胸の傷目掛けて、再び超高速でその白刃を引き寄せる。
故に、シラノも一歩踏み込んだ。
これこそは死線。これこそが死線。故に、超えぬ他に道などは無し。
すなわち――射程距離。
宙から発現した触手の縄が、セレーネの首と五体を締め上げにかかる。剣士ではなく、触手剣豪たる所以である。
「――――」
だが、締めかかる触手を引きちぎって突き進む女。
すぐには止まらぬ。既に止まらぬ。その白刃の顎は、敵対者を両断せんと喰らいかかる。
故に一歩。
更に一歩。
これなるは単なる触手剣豪ではなく、シラノ・ア・ローであるからこその一撃を――――その身、その経験全てを刃と変えよ。
舞うは鮮血。翻るは
己の肩口と脇腹に喰い込む魔剣に構わず、伸ばした
「イアーッ!」
そして、闇を切り裂き空気を弾く紫電が嘶いた。
白神一刀流・外法ノ一――“白神空手・
失われた右腕だからこそ、補われた右腕だからこそ至れる電撃。魔力の潜在値が大きく異なるフローの触手から放つ電気はまさに強力無比。ここに来て、セレーネの信条は関係ない。
生体電流を掻き乱すほどの高電圧で割り込み、心臓の鼓動を乱し、なおも剣を握ろうとするその動きを強制的に停止させた。
ついに取り落とされる魔剣に、
「……御見事、です」
胸部の脂肪が抵抗となり、心停止を免れたセレーネはそう漏らし、
「……秘剣敗れたり、スね」
全身を切り刻まれたシラノも、笑いながら倒れ込んだ。
げほ、と口腔を血が満たす。おまけに強烈な焼け付く臭いに噎せ返りそうになった。
触手でありながら、シラノの右腕――寄生にて組織の変容を果たした右腕は、電圧に耐えきれずに焼け焦げていた。
脳内麻薬でまだ実感が湧いてこないが、また大変なことになったな……とシラノは他人事のように目を閉じる。
見下ろす満月は、因果応報だと笑っていた。
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