二人目の恋人

人口雀

二番目の恋人

―――人間とは、失敗から学ぶ生き物である。

 これは私の言葉だが、昔の偉い人もきっと似たようなことを言っていると思う。


 私の初めての恋人は、同じクラスのカズマという男の子だ。見るからに恋愛に慣れていないような感じだったが、顔が良いので告白されたときはすんなり受け入れた。


 しかし、上手く行かずに半年前、別れることになった。

 こっちにも友達付き合いというものがあるのに放課後は毎日一緒に帰りたがるし、休日も休みなく連絡を取ろうとしてくる。

 カズマも私も運動部には入っているから、その都合で限度というものはあれど、やはり鬱陶しく感じるようになってしまった。

 付き合ってすぐに別れるというのも周りの反応が気になって少し気後れしていたが、あいつめ二か月になろうかならないかというタイミングで別れを切り出しやがった。つまり私がフラれる形になったのだ。


 告白されて了承されて、たった2か月でやっぱり合わないだあ?ふざけるな。私もカチンと来て、それまでに募ってた色んな不満をぶちまけてしまった。

 そしてカズマには謝られた。「気付かなくてゴメン。」って。


 ああそうだ、私にも原因があったのだ。初めての恋人で距離感を掴みあぐねていたのは私も一緒なのだ。中一くらいから彼氏が居る友人が「また彼ピッピと喧嘩してさぁ~。マジないよね。」なんて言っていた時には、嫌いなら別れればいいじゃんなんて心の中で思っていたが、適度なガス抜きは必要だったのかもしれない。

 ガス抜きとまでは行かなくても、自分の不満を伝えるべきだった。

 そう反省した。


 反省はしたけど、ヒステリックに捲し立てた自分が恥ずかしくて付き合い続ける気にはなれなかった。


 

 そして当のカズマはバレンタインに別の女子から告白されたらしく、最近浮かれ切った様子だ。相手は同じ学年の、別のクラスの女子らしい。

 二人の様子を見るに、私の時の反省は活かされているようで、かなりお似合いのカップルだ。

 嫉妬とかそういうのではない。ただ、私が馬鹿な男子の相手をして、私がいい男に育てて、その美味しい所だけを相手のエリとかって女子が味わっているように見えて、少しやるせない。

 不服である。

「こういう気持ちって、なんか名前付いてるのかなー。」

「名前は知らないけど、分かるわー。」


 放課後寄り道マクドナルド。お小遣いの都合でLサイズのポテト一つを女子二人で分け合い、それぞれ好きなSサイズのドリンクをズズズっと飲んでいる。

「てかアンタの話に出てきた中一から彼氏が絶えない友達ってウチのことでしょ。別れろとかひどくね?」

「いやー当時の純情な私はそう思ってた訳なのよ。」

「私は純情じゃないってか。」

「私も今は同じだよー。」

「うはー、うちらビッチじゃん。」

「うん、なんかもう恋とか冷めた目でしか見れないわー。」

「ところでカズマとはどこまで行ったの?」

「手繋いだだけ。」

「ビッチー。」

「ひどーい。そっちはどうなのさ。」

「キスはしたよー。あ、あとケツ叩かれたこある。」

「ケツとか変態じゃん。超ビッチー。」

「まあ今の彼ピはまだ何にもしてこないけどねー。」

「そっかー。」


 ズズー。まだ炭酸が強い。ドリンクを持ち上げて軽く振る。コーラは好きだけど、私は炭酸が少ししか残っていないくらいがちょうどいい。

「それもう砂糖水じゃん。」

「私はこういうコーラが好きなんだよ。そっちこそただの烏龍茶じゃん。」

「ただの烏龍茶ってウケるわ。」


「私も次の彼氏欲しいなー。」

「カズマに見せつけたいの?」

「そういうつもりはないけど、見せつけられっぱなしは癪に障る。」

「なるほどー。」

「ってか彼氏いるのにホワイトデーに私とダラダラしてて良いわけ?」

「ヒロ君今日部活だからー。」

「そっか。」

「ホワイトデーは昨日貰ったよ。」

 そういって私の目の前でスマホのストラップをぶらぶら揺らす。

「へー、アイフォン貰ったんだ。おっ金持ちぃ。」

「でしょ!玉の輿来たよね。ってそっちじゃなくてストラップ。」

「かわいいね。彼氏いい趣味じゃん。」

「でしょ?しかもお揃いなんだー。」

「私も彼氏と何かお揃いにしたいなー。」

「まず彼氏を作るところからだね。」

「だねー。」

「まあ……今度は上手く行くと思うよ?」

「ほんとー?適当に言ってるでしょ。」

「ホントホント。中一から彼氏が途切れないウチが言ってるんだから間違いない。」

「でも彼氏が途切れないって色んな人と付き合ってんのに長続きしてないってことでしょ。」

「嫌味のつもりで言ったのに追撃かよ、ひでーな。」

「ごめんごめん。コーラ一口あげるから許して。」

 ズズズ。

「炭酸抜けて美味しくない。」

「それは味覚がおかしいね。」

「おかしいのはそっちでしょ。……でも、本当にもう大丈夫だと思うよ。女の私から見ても、前よりすごく可愛くなったと思う。」

「え、なんか照れる。」

「ウチが男だったら間違いなく付き合ってるよー。」

「キャーかっこいー。」


 彼氏は、もうしばらくは居なくてもいいかもしれない。

 初めての彼氏と付き合って、別れて、反省を活かして次の恋。なんて事にはなりそうも無いけど、友達の大切さが身に染みた。

「ホワイトデーだしアップルパイ奢るわ。」

「え、バレンタインなんもあげてないっつか、むしろ友チョコ貰ったのウチなのに?」

「ま、いいってことよ。」



 アップルパイも、二人で半分こして食べた。


 テーブルに生地がボロボロ落ちた。


 これは、次の彼氏が出来た時にはやれないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

二人目の恋人 人口雀 @suenotouki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ